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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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56 自覚しなかった感情

「おい、レグスタイン、その顔はどうした!」


デボラの件で火急の用件があるとわざわざここまでやってきたということは、デボラに何かあったんだろうか?


俺──レグスタインは、そう思いながらギルド長のジークを受け入れたが、俺の顔を見て、開口一番このセリフで心配されてしまった。


そんなに、俺、今おかしいのか?


みんなの顔をぐるっと見る。

みんな、俺の様子を不安そうに伺っている。


俺は……ただ……


デボラを追い詰めてしまったことを後悔していて……


どこかで困ってないか?


泣いてないか?



それがただ気になっていて……


「すまない。俺としては普通に対応しているようだけど、いつもの俺じゃないんだな……」


みんなが、大きく頷く。


「そっか……すまなかった。ダメだな……俺」


「そんなことないよ。みんなデボラは大切な仲間だもの。でも、レグにとってデボラは仲間だけじゃなくて、特別な人だったんだね」


ヘンケルが、俺の肩に手を当てる。


俺はビクッとした。



特別?……デボラが……俺にとって?


「あ……ヘンケル、それ気づいてたけど言っちゃいけないやつだよ」


キリフが思いっきり顔をしかめる。


そばにいたギルド長も、呆気に取られた顔をしていたが、笑うこともなく「あー……」と顎に手を当てて納得顔をした。


「昔の俺やキリフみたいな顔してるな。たしかに……で、ここにデボラがいなくて、レグスタインがこんな顔をしているということは、やっぱりデボラ関連か?」


ギルド長は二枚の黒い革を俺たちの前に見せた。


「これは?」


グレンが、それに触れて、ハッと気づいたような顔をする。


「見覚えがあるんだな?これはワイバーンの革だ。荷馬車を引く男が、この街のギルドの出張所にこれを持ってきた。もちろん、ワイバーンなんて普通出てこない。よって、今、出張所もその男も大変なことになっている」


「デボラが行方不明なんだ。枢機院のアレンの魔力をデボラが断ち切ってしまった。その件でレグと言い合いになってしまって家を出てしまった。今、彼女の行方を追っていたところだ」


ヘンケルが、ここまでの経過をかいつまんで話す。

ギルド長も、驚愕の顔を隠せない。


「アレンの失脚も、デボラ絡みか……またなんで……」


キリフから、事のあらましをきき、「おいおい」と頭を抱える。




「このワイバーンの生地の件だけど、同じものだと思われるカケラが室内にも落ちていた。おそらくこのワイバーンの生地の持ち主はデボラで、そっちのトラブルもデボラ案件だ」


グレンも、床に落ちている切れ端と合わせて顔を曇らせる。


ギルド長は、俺を見ながら困惑の顔で声をかけた。


「じゃあ、男は今取り調べ中だが無罪放免だな。荷物を下ろす時に、革が置いてあって、高級そうだったから酒代にならないかとギルドの買取にもってきたそうだ。物が物だけに盗品を疑われたんだが、その馬車に、デボラがいたんだろうな……」


「デボラの性格から考えて、お礼だったんだろうな。ワイバーンだけど、端切れだからそこまでの価値はないと思ったか……」


キリフが困ったようにため息をついた。


「デボラの考えは間違えてはいない。この大きさだと男の一年分の年収ぐらいにしかならないサイズだからな……じゃあ、その男には支払いをするか……」 


ギルド長は、経過は分かったと苦笑いしながら立ち上がる。


「はは、一年分の年収の運賃か……早くデボラを捕まえないととんでもないことになるな……」


バインも「さすがデボラ」といい、笑うしかない様子だ。


「すまない。念の為に馬車に何かヒントがないか確認させてもらえるか?」


俺は、ギルド長に頭を下げて、ギルドの出張所まで、馬車の情報をもらいに行くことにした。





俺たちがギルドの出張所に着いた時には、すでに夜だ。

デボラがいなくなって、一晩が経とうとしている。

その事実に胸が締め付けられる。


特に、出張所がある街の店の明かりが一つずつ消えるたびに、細い路地から、身なりが整わず、食べていくものを漁ったり、物乞いや、お金を恵んでくれと寄ってくる。


デボラなら、きっと「順番よ」といって、みんなにバッグの中の食べ物を与えるだろう。


彼女の良さであり、欠点だ。


だけど、きっとその良さに俺は惹かれたんだ。

純粋で、良心の塊で、俺を困らせる。


俺は、この自分の自覚しない感情のせいで、デボラの欠点ばかりを必要以上に責めてしまったんだ。


心が苦しくなる。



ギルドの中では男の叫び声が聞こえていた。


「ですから、荷台にあったんですよ!」


拘束された荷馬車で荷物を運ぶ男は、半日以上の拘束に疲れを隠せない。薄汚れたシャツはしわしわになり、勘弁してくれと言っている。


「裏は取れた。お前の荷台に乗ったものがいて、お礼のつもりで置いていったらしい。今日の拘束代も含めて支払いをさせてもらおう」


ギルド長は、その男に告げると、男の勢いが増す。


「はああああっ?勝手に乗って、勝手に置いて、こっちに迷惑をかけてたまったもんじゃないな!それなりの額をもらわなからば、こっちもやってられないぞ」


「大丈夫だ。金持ちの夫人の家出だ。それなりのものだから、それなりの額は払う。あと、最後に馬車の確認もさせてもらうぞ」


「ご貴族様の奥様じゃしょうがねえな」


誰が、ご夫人の家出だ?


ギルド長を軽く睨み、俺たちは出張所前に止められた馬車に急ぐ。


その背中で、今度は男の喜びに満ちた声が聞こえる。


「え!え!こんなに!!嘘だろう?マジでこんなに受け取っていいのか?どんなお貴族様だよ!!」


どうやら、その支払額に満足がいったらしい。

デボラのやらかしは一つカタがついてホッとする。


「あの馬車か?乗り込むには、高さがあるから浮遊したかな?」


グレンが、試しに浮遊して乗り込んでみる。

デボラでも楽に乗り込めそうだ。


「彼女の匂いがあるな」


ヘンケルが、馬車の中で鼻をくんくんさせて、一箇所の匂いを嗅ぎつけた。


「なんかの魔物の脂?とデボラの血の匂いが混ざっている」


「怪我をしていたのは間違いないから、ここで靴擦れの手当てと、靴の手入れをしたのかもな」


床には、他になんの染みも物も落ちていない。

馬車を降りて、持ち主に何もなかったことを告げ、お礼を伝える。


「この馬車は、昨夜は隣国の荷物を届けるために東の物流倉庫に物を移動させていた。ただ、一度も止まらなかったんだけど、どうやってその夫人は乗ったんだろうねえ?こんなにお礼がもらえるなら、前に乗せてやったのに……」


そう思うのが当たり前だよな。


俺は、思わず苦笑する。


東に向かって走ったのは間違いない。

ただ、どこで降りたのか?


「そろそろ、治安が悪くなるから帰らせてもらうぞ。そうじゃなくても、この辺りは昨夜、あちこちで竜巻が発生したらしくて、他の馬を引くものが焦ったと話していたからな」


じゃらじゃらとなるお金を大切そうに抱き抱えた男は、周囲を見回して話した。


「竜巻っていつのことだ?」


「昨日の夜だよ。俺が通り過ぎた後だったから良かったけどな。俺の後続が、方向転換できなくて焦ったが、大きな竜巻なのに、少し強い風が吹き抜けていっただけだったから助かったって話していたぞ」


貧民たちだけでもリスクが高いのに、馬や馬車に被害が出たら大変だよと話す。


怪我をしない……大きな竜巻?


俺は、ハッとしてデボラだと悟った。


絶対にデボラは、人に危害を加えたり傷つけることはしない。


「その竜巻にあった人たちと話がしたいんだが……」


「物流倉庫でも行ってみたらどうだ?俺も、みんなが噂をしていたのを聞いただけで、この革を売ったら一杯分の酒になるかって考えてて、そんなに話をしてないんだよ」


そう言って、じゃあなと馬車を走らせて去っていく。


ギルド長が、ふむと腕を組んで俺を見る。


「ギルドに出入りする奴らに、昨夜、竜巻がなかったかと、その場所を確認してやるからとりあえずお前は少し眠れ。どうせ、お前からの依頼の品も枢機院までとりにいくところだ。ついでにアレンとデボラのトラブルがどうなったか情報を収集しておく」



俺は、自分の無力さに、ため息をついた。


これから、街の様子は一変する。

今日中に見つけることは、不可能だったか……


デボラは今、どこにいるんだろう?


竜巻を起こさないと、魔法を使わないと身を守れないようなことが起きたんだよな。


何で馬車に乗り続けず、降りてしまったんだ?


俺は、夜に変わる空を恨めしそうに見つめたのだった。





翌朝──


「は?アレンを追放?役職を解かれただけじゃないのか?」


「ドマイン教はとんでもないな。魔力がなくなったからって、養育まで放棄するかと俺も驚いたが……」


ギルド長が枢機院では、まるでアレンなど存在しなかったかのように、次を誰にするのか駆け引きが続いているという。


「ただ、この中のメンバーが一緒にいたから、プラチナカードを持った女がアレンを封じ込めたのか?彼女は何者なのかというのは聞かれたよ。もちろん機密事項だからと突っぱねたがね」


ギルド長の仕事は早かった。枢機院に行ってアレンの様子を調べ、例の絵をすでに確保しており、俺とキリフで確認する。


「レグはデボラがいなくなったのは自分のせいと思っているけど、俺もいなくなった日の晩に、絵のことをデボラに打ち明けてしまったんだ。女の子なんだから、もっと気遣うべきだった。いなくなった理由は俺にもあると思う」


キリフは申し訳なさそうに俺に頭を下げた。


「そうか……デボラは絵のことも知ってしまったんだな」


よりにもよって、なんで裸婦画にしたんだよ


俺は、今は亡きマルコスを墓場から引き摺り出して殺したい衝動に駆られる。


「どうみてもデボラと似てるよな」


「まさに染めたデボラの髪色と一緒だもんな」


中身を確認して、俺はギルドに厳重保管を依頼した。


「それから、何人かの貧民の証言だ。竜巻は突然現れ、男性の声で逃げろと聞こえた。道路では、その時に、子供と複数の大人がトラブルになっていた様子もある」


「それ!アレンの可能性はないか?」


複数の大人が取り囲むとなると、金目のものを奪おうとした可能性を考えるべきだろう。


「可能性はあるな。追放されたのは、魔力をなくしてすぐだったようだし、夜に子供が綺麗な格好してふらふらしてみろ。すぐ餌食だ」


「馬車で、デボラがその様子を見たとしたら……間違いなく助けに行く。ただ、魔法で相手をコテンパンには出来ないから、みんながその場から離れていく方法を考えるだろうな」


竜巻か!


俺と、キリフ、ギルド長は顔を見合わせる。


「竜巻が起こった後、最初に通り過ぎた馬車に乗り込む可能性が高いな」


「ああ、その馬車を特定すれば、その経路のどこかにデボラたちはいる。」


俺は、残りの3人にも声をかけ、今の話を伝えた。


「じゃあ、絨毯でひたすら潰していくか?あと、カレンから連絡があって、向こうの家にヘンケルとバインの家から連絡が欲しいと入っていたから、こちらには戻っていないと返答したそうだ」


グレンが、いよいよデボラを探し始めた奴らがいると呟く。


「アレンとのトラブルがあった日にデボラと一緒にいたからだな。デボラが何者なのか、害があるのか利益を産むのか確認したいんだろう」


ヘンケルが、今まで連絡もしてこないくせによく言うぜと毒ついている。


「ここも、時間の問題だな。俺たちもデボラを見つけ次第、移動したほうが良さそうだ」


俺はみんなにそう伝えて、今日こそデボラを見つけないと大変だと焦っていた。



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