53 魔力は全てではない
「ここは……?」
アレンが、それから一日中眠り続けて目を覚ました。
ここがどこなのか?
ええ、私も知りたいわ
東にまっすぐ行くはずの予定の馬車が、だんだん違う道に行ってしまったのだもの。
とりあえず人気のない何かの神様を祀ってある小さな祠に防御魔法と認識阻害をかけて、身を隠すことにしたけど……
「はあーっ、まさか、ここで迷子になるなんて!」
わたしは頭を抱えた。
シャルバンポール城が、何処にあるのかすらもう分からない。
こうなってしまったのはアレンのせいなんだから、アレンに聞くのが一番よね。
「ええと……街で暴漢に遭っていたから助けました。こほんっ……怪我は、「ヒール」を使って……骨折と見た目の傷はすぐ回復させてます。
でも、失血の回復と内部の損傷は自然治癒の方が後々の後遺症が出ないのでポーション類は使っていない……です」
男性の低い声を出しながら、魔法使いのフリをする。
「何で助けた?」
アレンは、助けたことが、悪のように、私を睨みつける。
もしかして、私だってバレてる?
じっとアレンを見てみると、うつむいて、下を見たまま、空虚な感じで表情がとても暗い。
わたしに対してというより、助かってしまった絶望感で、以前のわたしやユリアさんに近いような気がする。
身元がバレたってかんじでもないか?
「なんで……って、助けるでしょう、普通?」
焦って、どう答えようか迷う。
でも、子供が何人もの大人に囲まれてるのよ。
しかも、羽交締めにされちゃって、助けない理由なんてないと思うけど……
そんな私の顔を見て、アレンは、はぁーっとため息をついた。
「お前、顔に認識阻害までかけてさ……どこの魔法使いだ?この国の魔法使いじゃないよな?」
ギクッ
でも、私だってバレたわけじゃなさそう。
魔法使いだっていったもんね。
魔女って言ってない。
私はほっと胸を撫で下ろす。
ただ……なんで他の国の魔法使い?
もう何かやらかしましたか?
「な、なんでそう思うんだ?」
私は、焦りを通り越して、冷や汗と背中から流れる滝汗にどうしたものかと考える。
とりあえず、私だとバレないようにしなきゃ!
「ふん、まず、俺が誰かも知らないだろう?そして、あんな貧民街で絡まれた子供を助けねえよ」
「そ、そうなの!……ですか?」
あなたが誰かは知ってるわ。
なるほど「アレン様〜っ」というべきだったか……
うーん、それはなんか嫌かも……
ただ、貧民街で絡まれた子供を助けないの?
助けたことが失敗!
助けたことが詰み!
それが、常識だなんて思わないじゃないの。
だからみんな誰も助けに行かなかったの?
「この国で貧民街のトラブルに関わるやつなんていない。ちなみに、俺は、今までこの国のお偉いさんだったわけ。子供だけど、大人以上の魔法が使えたんだぜ」
「へ、へぇ……」
知ってますとも。
そして、私がデコピンして魔力を少し飛ばしたから、一時的に使えなくなったんだもの。
でも、早ければあと数日で使えるようになるわよ。
「だけどさ、この国のギルドが認めたプラチナの女のせいで使えなくなったんだよ」
アレンは震えながら悔しそうに、拳を握り、下を向く。
「そ、そうなのか?ええと、ちょっと治療の過程で魔力を見てみたけど、もう少ししたら……回復……しそうだったけど」
私は視線を彷徨わせながら……
気まずい!
そのプラチナ女なんですけど……
そう思い、アレンの顔を見られない。
「そうなのか?俺が行動を反省しないと復活しないとか言ってたけどな。反省ねぇ……まあ、今更だよ。反省して、魔力が戻っても関係ないけどな」
けっ
自嘲気味にアレンは呟く。
反省……してないよね?
普通、助けてくれたらありがとうじゃないの?
なんか……子供らしくないっていうか?
「なんで、まだ子供のくせに、こんなに荒んでる?
魔力はもうすぐ戻ると思うし……むしろ、体の内部のケガの方がまだ安静が必要だ……その……外側は治したけど、あとは、中は時間をかけて治したほうがいい」
どこまでいうことが当たり前か分からないので、アレンの表情を見ながら反応を見る。
「せっかく助けてもらったのに……悪かったな」
アレンはそういうと、今度は突然ポロポロと涙を流し始める。
ちょっと!
ちゃんとお礼が言えるじゃないの!
そして、今度は何で突然泣いてるのよ
私が悪いことしたみたいじゃないの!
流石に、どうしたらいいのかわからなくてオロオロする。
「俺に関わらないほうがいいよ。魔力が回復とか関係ないんだよ。使えていた魔力が、仮に一時的にでも使えないということは、神から見放されたということだ」
神?
なんで私のデコピンが神の見放しにつながるの?
「えーっ!ただ、一時的に使えないだけじゃ……だけだよ」
わたしは、考えもしなかった話に、思わず、元の女性の声に戻りそうになって口を押さえて慌てる。
どうして、そんなことになったの?
あの魔力至上主義を反省してもらうだけのはずが!
私は思わず目を見開き、動揺が隠せない。
ポロポロ泣き続けるアレンを呆然と見つめていた。
「神……は、見放してない。だって、魔力は多分あと数日で回復する。そうしたら、君は強いんだろう?その……子供なのにお偉いさんになるぐらいだったんだろう?」
私は思わず、身を屈めて、アレンの頭を撫でる。
触れるとビクッとしていたが、それも落ち着き私に撫でられるだけになった。
大人からあんな暴力を受けたんだもの。
怯えて当たり前だわ。
「俺をお偉いさんにしたのは、俺自身じゃないよ。俺は、宗派の直系一族だったから、それだけだ。でも、幼い頃から神に見出されて人よりも力を持ったのに、突然一人の女にデコピン一つで力を失わされたんだ。メンツが保てないじゃん」
「そ、そんな……そんなつもり……」
私は、アレンがあのまま権力を持ったらいけないと思っただけだったのに……
「あの女はどんなつもりだったはわからない。でも、俺はすぐトップの座から引き摺り下ろされて、魔力も魔法もないのに外に放り投げられた。当然だよ。魔力がなくて、魔法が使えないなんて、宗派の恥だ」
アレンはポツンと当たり前のように話した。
自分の正義が、こんな幼い子供の人生を変えてしまうなんて……
とんでもないことをしてしまった。
レグが言っていたのはこういうことなの?
アレンはお飾りで、力があるから上にいるわけではない。
今まさにその状況になっている。
「外に放り出されたって……それで、あそこを歩いていたの?」
アレンは頷いた。
そんなひどいことがあるだろうか?
魔力の有無だけで、こんな世の中を知らない子供をトップに祭り上げて………
誤ったことを、誰も正さないで、今度は一時的に魔力が無くなっただけなのに確認もせず存在意義を否定するなんて……
「親は?」
「親からしたら、自慢の息子が俺から別の者に変わるだけだよ。むしろ恥だって罵られた」
そう言って泣きじゃくるアレンを思わず抱きしめる。
「なにが恥?恥なわけがない。魔力や魔法は、自分の生活や世の中を少し楽にするだけだ。それで人の優劣など決められない。この後、どうしてほしい?仕返しか?」
私は目の前がメラメラ燃えるような怒りに震える。
自分がされた魔女狩りから何も変わってない。
魔力の有無で、安心して暮らせる生活が脅かされる。
300年、みんな何やってるの?
私たちの犠牲が、全く何にも活かされてないじゃないの!
「いや……いい。それより……おなかすいた」
アレンは涙を拭った。
うっ……そうよね。
ずっと食べてないんだもの……
私は、アレンに美味しいものをお腹いっぱい食べさせてやりたかったが、お金もないし、食料は空間バッグに入った魔物肉ばかりだ。
目の前で空間バッグを開けるわけにはいかないよね……
「ええと……ちょっと、食料の確保に行ってくる」
私は、抱きしめていたアレンからパッと離れる。
どこかで空間バッグを開けて何食わぬ顔をして戻ってこようと思いつく。
「えっ!い、行かないで!」
アレンは、後ずさりしてこの場から離れようとする私を掴んだ。
「もう、みんな離れるのは嫌だ!お願いだよ。いい子にするよ。魔力がもし回復するなら君のために使うよ!だから、俺から離れないで!」
アレンは、涙を流しながら私の腕を引っ張る。
どうしよう……
「どこにもいかないよ。食べ物の当てがあるから取ってくるだけだよ。それに、ここにずっといるわけにもいかないだろうし……」
ここに入ってから、祠には誰も来なかった。
周囲は家はないから、外で肉を出して、切って、火炎魔法で焼こうかしら?
でも、この手を振りほどけない。
「じゃあ……色々、人には見せたくない魔法ってあるだろ?だから、これから私がすることを見ないように背を向けていてくれる?オッケー?」
「わかった。みない」
アレンはくるっと私に背を向ける。
「見たら、出て行くからね。絶対だよ」
私は念押しする。
アレンは頷き、背中を向けたままだ。
ほっ、よかった。
ほら、やっぱりアレンは本当は素直ないい子だわ。
私が何をしているか見てないもの。
わたしは、空間バッグを開けて、串と魔鳥の肉を取り出す。
(ウィンドカッター)
心で呟き風魔法を操り、瞬時に魔鳥肉を一口大にカットして、串に通す。
見てないじゃないの!えらいえらい!
まず第一工程が終わりホッとする。
(ファイアーカプセル)
次に、火炎魔法を操り、食材に火を纏わせ、丸い炎のカプセルを作る。
じゅーっ
お肉の焼けた匂いと、音が、火の温かさと相まって周囲に伝わる。
再び、ちらっと、アレンを見るがちゃんと背を向けてこっちを見てい…………ない。
よしよし、ちゃんと言いつけを守れる子じゃないの
本当は素直な子なのよね。
私は、空間バッグを探る。
「おく場所がないわね……綺麗に洗浄しているし、《D》マークの網に乗せてもいいかしら?」
いや、直系なんだよね……
いくらなんでも、油断しすぎか。
どうしよう。皿もコップもない。
《D》マークのビーカー……
いやダメだって……
でも、水分を取る容器が。
空間バッグに体を突っ込んで、水を飲むためのものを思い浮かべるが、ダンジョンでもコップを使わなかったから、存在しない。
自分の指から水魔法で水を流し飲むだけだ。
さすがに祠の中でそれは出来ないし……
うーん、もし気づかれたら、300年前の魔法使いの物を持っているだけだと言い切ろうかしら?
部屋は何もない。
アレンは今も私に背を向けて待っている。
何か言われたら、とりあえず誤魔化そう。
「ごはん、出来たわよ」
わたしは《D》マークの網に乗せた魔鳥の焼き鳥と《D》マークのビーカーに入れたお水をアレンの前に持ってくる。
「あ、ああ……ありがとう……その、いい匂いだね」
アレンがじっと、私の顔を見つめ、わたしの作った食事を見つめる。
「うん、柔らかくて美味しいから食べてみて。穀物があれば、お粥とかつくったんだけどね」
へへっと笑いながら、焼き鳥を手にする。
火でしっかり炙って、香ばしい美味しい匂いが漂う。
「いただきます」
アレンも口をつけ、目を丸くする。
「美味しい!焼きたてだからかな?俺、いつも毒味をみんながし終わってから食べるから温かいものは食べたことがなかったんだよね」
「毒味!ああそうか、お偉いさんだからか……毒なんて入れてないからしっかり食べて、休むの。どこにもいかないから安心しなさいね」
私も微笑んで、焼き鳥を口につまむ。
その時、わたしは気づいていなかった。
つい、女性の言葉に戻っている自分と、アレンが背を向けていた上に、祈祷用の鏡があったことに──
そして……
わたしの仲間たち5人が必死で私を探していることにも──




