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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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51/64

51 思い出はそこにあるのに

「お食事もお風呂もされないんですか?」


ココアが、不機嫌な顔で私を見た。


「うん、やりたい作業があるから……一人にしてもらっていい?」


私は、そうココアに微笑んだ。


「では、化粧だけ落としましょう。肌に化粧が残っていると、ぶつぶつが出来ますから」


その夜、ココアは食事を断った私の様子を見にきた。

最低限のケアは必要ですと、私を化粧台の前に座らせて、化粧を落とし始める。


みるみる間に、化粧が溶けて、私にかけられた魔法が解けていく。


目の前の鏡に映る私は、痩せぎすの肌色が青白い魔女だ。



これが私だった……



改めて実感する。


「レグスタイン様も、今日はお食事をされず、部屋にこもっておられます」


ココアが、淡々と話すので、「そう」とだけ頷いた。


「皆さんも食が進まないようです。料理人ががっかりしておりました」



「それは……申し訳なかったわ」


頑張って作ったものを食べてもらえないのは嫌よね。


みんなも、レグと私が喧嘩しているから気まずいんだわ。


お詫びに言ったほうがいいのかしら?


頭の中を色々な考えが浮かんでは消える。



キリフからは、レグも疲れが溜まってるから少し考える時間を与えてあげてと言われたけど……


ここからギルドまでは、とても距離がある。


それを私のために日帰りで往復してくれたのだもの。


ちらっと、レグスタインの部屋に繋がるドアを見てため息をついた。



「気になるなら声をかけたらよろしいじゃありませんか?」


私がちらちらとレグの部屋の方ばかり見るので、不機嫌を隠さずココアが告げる。


「ううん、今行ったら余計にイラつかせてしまうから……」


そして、また喧嘩になってしまう。


「そうですか。では、これで私は失礼します」


ココアは淡々と私の肌を整えて去っていこうとする。



「あ、ココアさん、待って……」


私は、ハッと気づいて声をかけた。


「あ、あの……色々気を使わせてしまって……ごめんなさい」


ココアは、嫌そうな顔をしてツンとする。


「レグスタイン様のお世話をするためにみんなここにおります。レグスタイン様が、この家で落ち込んでおられるなら、それを少しでも楽にして差し上げるのが私たちの仕事です」


「そ、そうよね……」


しーんと気まずい雰囲気が漂う。


お前が主人を落ち込ませたんだと言われれば、その通り。



「あ、あの……ここからシャルバンポール城って近いのかしら?」


「ここから?いえ?軽く30キロは離れていると思いますけど……」


ココアは、突然何を言い出したと怪訝そうな目で私を見る。


私が行くとしたら、結局以前あった集落を探すしかない。


今はどうなっているか知らないけど、木々がお城の姿を隠してくれると言っていた言葉を信じるしかない。



「そんなに?ええと、中心部には枢機院があるって。シャルバンポールは枢機院の拠点よね?街の中心じゃないの?」


「デボラ様、中心部といえどもこの国の中枢は広いです。しかも、ここにいる皆様は、高い身分の方々ですから、絨毯移動で10分もあれば簡単に移動されます。私たちとは、生活している世界が違うんです」



世界が違う。


そうね、5人はみんな貴族と言っていた。


そこに加えて、私は時代も違う。



「そう……ね、ええと、城はどっちにあるのかしら?」


「東にございます」


私は、「そう」と、繰り返し呟くのが精一杯だった。


私は、かつて夜、街に出ていた時でさえ、シャルバンポール城の姿を見たことはない。


そもそも本当に近かったのかどうかもわからない。


でも、まずはその言葉を信じて行ってみるしかない。


ココアが退室した部屋で、行き先すらない自分の未来に、絶望感しか生まれなかった。






「師匠のローブ、直せるとこまでは直しておこう」


私は、一人になって改めて師匠のローブを見直した。

外側の見た目だけは、なんとか元に戻りそうだ。


内側は、所々裂けている。


下手に違うもので直したら、違う素材が混じるので、二度と内側の生地は復活せず、師匠の空間ポケットも復活できない。



「やっぱり今、直せるのは外側だけだわ」


分かってはいてもがっかりして、ため息をついた。


空間バッグから出したらワイバーンの皮は、岩のようにゴツゴツとしている。まさか衣服の生地に使えるなど思わないだろう。


だが、ここが魔法の腕の見せ所だ。


「本当は外側の生地全体を直したいんだけどな。釜はここでは使えないから、破れた部分の補修だけにするしかないわね」



片手にビーカーを持ち、持っているワイバーンをビーカーに入れられるほどのサイズに小さく切りとる。


「ウィンドカッター」


手から渦巻きがするする現れ、それを指先に乗せる。


その指先でワイバーンを鰹節のように細かくただ削るように風のカッターで何度も何度も細かく切り刻む。

指をクルクル回しつづけ、ビーカーにはそのワイバーンの削りが溜まっていき、片手に持ったビーカーに入れられるだけ入れる。


「ワイバーンは……かなり強度があるから赤の溶解剤かな?」


続いて空間バッグから取り出したのは、小瓶に入った赤い液体だ。


溶解剤はこれ以外にも水属性の青、風属性の緑、雷属性の黄など様々な色がある。


「赤は火属性の魔石がベースだから、一番相性がいいんじゃないかしら?」


赤の溶解剤の熱は、どんな固形も一度液体状に変えてくれる。


物体の形を変えたい時などに便利だけど、いかんせんビーカーの中の作業なので気を使う。


そんな中でも全く溶けない《D》マークのビーカーは、恐ろしいほどの強度なのだわ。


私はそのビーカーを空中に浮かべたまま赤の溶解剤を一気に流し込んだ。


ワイバーンの革と赤の溶解剤が混ざった瞬間、顔が熱くなるほどの熱がビーカーから伝わり、ふんわり空気も熱せられる。


「最後に基盤になる布だけど……」


空間バッグから取り出したのは、300年前に私が着ていた、ダンジョンを脱出後にカレンによって脱がされた服だ。


「師匠の服が300年前のものだから、生地同士の密着の相性はいいと思うんだけど……」


私が服の布を、ワイバーンの時と同じく細かくして、ビーカーに追加すると最初は真っ赤になっていた生地が、だんだんワイバーンの革の一部に変わって、熱が落ち始め、滑らかな黒いペーストになっていく。



「よし、ベースができた。」


私は師匠のローブの表の破れた部分にこのペーストをハケで塗っていく。




──ワイバーンの力よ


この衣に宿り、主人を守れ。綻びを封じよ───



私は、指をスッと当てて、呪文と共に強い魔力で薄く薄く生地を伸ばす。


それは、師匠のローブの布に絡み、溶け、破れを自ら修復していく。



だが──


「同じ生地で修正したとしても、経年劣化で色落ちや傷みは隠せないわね。お直しだけだから逆に目立ってしまったかしら?」


今あるビーカーの生地ペーストだと、傷は綺麗に修復するが、ローブ全体を覆うほどの量はない。


そのため、破れや傷みがある場所だけ補修するとそこだけ妙に艶が出てしまう。


「釜はあるから、溶かせる場所さえ確保できれば全部の補修ができるんだけど。いや、借り物だものね。持ち歩くわけにはいかないか……」


あくまでも預かり代を払って、この家に持って帰ったに過ぎない。裏地は直せないのだから、どちらにしてもグレードさんが納得するようには直せなかっただろう。

 



仕方ないか……


師匠、ごめんね。


せっかくここで出会えたのに直せないよ。


出来の悪い弟子でごめん。




私は、道具を清浄魔法できれいにして片付け、出たゴミを捨てる。

綺麗に、直したローブを畳み、机に置く。


そして、立ち上がる。


来ていた服をクローゼットに戻して、空間バッグからナイフを取り出した。

そして、迷わず自分の髪を掴み、ナイフを当てる



ザクッ


ザクッ


ザクッ



ブロンドの髪の束が出来ていく。


短く刈り終わったら、その髪を瓶に入れて空間バッグに戻した。

わたしの髪の毛は魔力を含むので、何かの材料になるかもしれない。


そして、バッグから染料を取り出す。


「髪を短くしたから、傷んでいるところは減ったはずだし、もう一回染めてもいいわよね」


これは、くすんだ茶色にしてくれるので、木々の中に入ると、枯れた葉に見えるので便利だ。

残念ながら、濡れるとだんだん落ちてしまうので、そこだけ気をつけないといけない。



浴室に行き、ペタペタつけて、風魔法で染料を飛ばすと髪も茶色になる。

化粧もしていないし、髪の長さも色も変えたし……


最後に浴室の染料を流して、汚れが……ちょっと残ったかな?



ココアの怒りの顔が目に浮かぶ。


す、すいません。


でも、これで、5人と関係があるとは思われない。


どこかで私がトラブルを起こしても、迷惑をかけることもないだろう。

見た目も男の子に見えないこともない。


少なくとも、パッと見て女だとは思われないはずだ。


ヒュドラの革の冒険者服は、使わせてもらい、タグとプラチナカードは、返そう。


師匠のローブの横に置く。


これで、私はただの300年前の魔女──


そして、何があっても、周りに迷惑をかけない正体不明の魔女だ。



そっと、レグスタインがあるドアの向こうを見る。


コップを置くような物音がしている。


まだ起きているのね。


私がイライラさせてしまったせいだ。


私は静かに頭を下げた。



自身に認識阻害の魔法をしっかりとかけ、ベッドには少し時間稼ぎの仕組みを作っておいた。



そっと玄関を抜け、門を越えても誰も気づかない。



「魔女狩りの日と同じ新月ね。月明かりもないわ」


外は真っ暗だった。


私は、そのまま東に向かって歩き出した。









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