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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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50/64

50 君は逃げるしかないんだ

「デボラ!君は、俺たちがどれだけ君のことを心配して、守ろうとしているのかわかっているのか!」


帰って早々、事のあらましを聞いたレグスタインは、真っ青な顔をして鋭く固い表情に変わった。


そして、普段の穏やかな行動とは全く異なり、私の肩に手を置いて揺さぶり、怒りをぶつけてきた。


もちろん、みんなが気を遣ってくれることは知ってる。


でも、私だって引くわけにはいかない。


きちんと考えたわ。


あれだけの魔力のある子に、魔力だけが力の全てだと思わせ、権力を握らせたらまた皇帝のような恐ろしい存在が産まれてしまう。


師匠と血縁関係があるかもしれないなら、尚更見逃せない。


「ごめんなさい。分かっている。みんなにも感謝している。

でも、あの時に、彼より強い私が言わなければって思ったの。

アレンはあのままではとんでもないモンスターになると思ったのよ!」


私は、過去を知っているものとして、あの状態を見逃すわけにいかないと思ったのだ。


「だとしても、彼は枢機院だ!しかも国内最強の魔法使い、それをデコピン一発で仕留めたら、アレンの一族も他の枢機院のメンバーも動き出す」


「違うの。仕留めてはいないのよ。少しの間だけ魔力がなく、魔法が使えなくなるだけで数日で戻るの。少し、魔力や魔法がないということを考えて欲しかったの。

それに、アレンが最強の魔法使いの枢機院なら、あの程度、他の枢機院も私の力で……」


「ふざけるな!!」


びくっと私の体が震える。


キリフが、レグスタインの肩を叩き、抑えろと告げるが、レグスタインは止まらない。


「アレンは魔法使い最強だから崇め立てられているけど、所詮は世間知らずの子供だ。実際、俺たちがダンジョンに入る前は、すごい能力を持つ魔法使いの子供に過ぎず、別のやつがあの宗派のトップだった」


「……確かに……今が10歳ぐらいの子供だから……ここ数年で出てきたってこと?」


数年ダンジョンに潜っていたグレンに気軽に声をかけてくる少年。

親しいと言っていたし、グレンと強く彼には声をかけていたから、かつてはそのぐらいの距離感にいたのかしら?


「あの一族は、魔力があり、魔法が最強のものを一番上に置くだけだ。所詮はトップはお飾りで使い捨てなんだよ。

次に強いやつが出れば、アレンはすぐお払い箱だ。怖いのは魔力や魔法じゃない!それを使って権力を握るやつらが裏にいるんだよ」


「……権力……?」


私は呆然と呟いた


「そうだ。300年前の皇帝に魔力はあったか?なかっただろう?彼はそれでもトップだった。

魔力や魔法の有無は、権力者にとって自分を強く見せるための戦力に過ぎない。それを使いたい奴らが昔なら皇帝で、今なら枢機院なんだ」


「私は、以前も今も強いと思っている。だから、過去に私にはできたことがあったし、その気になれば彼らに勝てたはずと思った。でも、違うってこと?」


レグスタインは頷いた。


「君は強い。だけど、君の師匠はもっと強かった。その師匠が、どうして皇帝ではないんだ?」


ぐっ……


言葉に詰まる。


確かに師匠は一度も、やり返せとか、権力者をやっつけようと言ったことはない。



逃げて──


それだけだった。



「つまり、君を狙い、取り巻く環境は今も昔も魔力や魔法の有無であって、それが君を守る術にはならないんだ。」


私は混乱してきた。


「300年前に私は逃げ回った。でも、本当は力があって、彼らに勝てる力を持っていた。博物館に行って冷静に見直してそう思えたのに、間違いだったと言うの?」


レグスタインは、苦しそうに眉間に皺を寄せて首を振った。


「その場で、一時的に君は、みんなを助けることはできた。だが、その時だけだ。

皇帝が何年もそのトップを君臨できなかったのと同じで、君がその場限りで魔女を助けても、世の中を変えることはできない。だから昔は逃げるしか道はないし、今の時代は、バレないように、極力大人しく過ごすしかない」


私は、信頼していたレグスタインから、魔女だとバレないように大人しくするように言われ、どこか裏切られたような悲しい気持ちで胸が苦しくなる。


「私はかつて、みんなを見殺しにした。自分だけが結果的に助かってしまった。だから、今度はこの力をみんなを守るために使う。そう思ったのは間違いなの?

過去の経験から、魔力や魔法の力だけ持って、肝心の心が歪んでいる子を私は黙って見過ごすのが正解なの?」


私は、悔しくなってレグスタインに怒りを向ける。


だって、それではこの世に私がいる理由は何?


「こらこら、二人ともヒートアップしすぎだ。ちょっと頭を冷やせ」


キリフが、私とレグスタインが怒鳴り合う中に割って入る。


「レグ、ちょっとお前も視野が狭くなり過ぎている。デボラを守るはずが囲うの間違いになるぞ。部屋で冷静になれ。

デボラも!レグが今日留守にしていたのは、デボラが誰にも邪魔されず、仲間の故郷を回れるようにジークに頭を下げに行ったからなんだ。それなのに、攻撃対象に自らデボラが突っ込んでいってどうするんだ?」


「ギルド長に、なんのお願いを?」


私は呆然としていた。

私のために、今日は動いてくれていたの?


レグスタインを見るが、ふいっと背を向けられ、後ろ姿でわからない。


ただ、背中は見たことないぐらい拒絶の空気が流れ、怒りがその背中から伝わってくる。


そして、レグスタインは、一言も発さず、そのまま部屋を立ち去っていってしまった。


そんなレグスタインを見て、キリフはやれやれという顔をする。


「空間バッグの中身を開放できて、周囲の目からシャットダウンできる場所、そして中のものを売ったり処分できる環境を得ようとしたんだ。枢機院の息がかからないのはギルドしかないし、彼らから守れる組織もギルドぐらいだ。だから、君の味方になってもらうために、交渉をしにいったんだよ」


「私の……味方に?」


プラチナカードをもらって、ブラックコウモリの魔石を売る。それで、ギルド長との縁は切れたと思ったのに……


「あと……君に言うべきか迷うんだけどね。」


キリフは、悩ましげにため息をついた。


「博物館にマルコスの絵があっただろう?彼は数枚、少女の絵を残している。その中で有名な絵があるんだが、その一つがデボラにそっくりな少女が裸で水浴びをしている絵なんだ。それがシャルバンポール、つまり枢機院の中に飾られているから急いで回収に走っている。」


「私の……はだかの……絵?」


何それ?


そんなもの、出会ったこともない画家に描かせたことはないわ


私は思わず目を見開く。


「デボラは描かせたことはないんだろう?集落で隠れて暮らしていたといっていたしね。恐らく、マルコスが隠れて描いたんだと思う。

大丈夫、絵はちゃんとジークが確保に動いてくれている。でも、言わなくても、ジークは300年前の絵の中の人物が、デボラとそっくりだと気づいた」


私は、キリフを見つめて、動揺のあまり真っ赤になる。


「俺もジークも、デボラとは歳が離れているからそういう目ではみていない。安心していい。ただ、有名な絵だ。これからもジークのように気づく者がいないとは限らない。だから枢機院があるシャルバンポールにはない方がいい」


そう言われて、知っている人がたくさんその絵を見たわけではないことを知り、ホッとする。


マルコスさんが……私を?

水浴びといえばあの場所だけど……


この間みんなに話した場所を思い出す。


(ミレイはマルコスさんを集落に連れていったのかしら?)


ううん、そんなことどうでもいい。


なんでそんな絵が……


「ジークは君の正体を知った上で全面的に協力してくれるそうだ。ユリアにも協力を依頼する。その手配を全部したのはレグなんだよ。

レグは、本当に君を大切に思い、なんとか普通の暮らしができないかと奮闘している」


キリフは、優しく私に声をかけた。


レグは、私のことを本当に思ってくれている。

その最善が、バレないように大人しくすることなのよね。


でも、私は同じ場面になった時、やっぱり動いてしまう。

また怒らせてしまうわ。


レグスタインの今までに聞いたことがない怒りの声が、自分の中に蘇ってくる。


「でもさ、俺はスッキリしたぞ。アレンは昔から可愛げがなかったけど、あれは酷い。あのままでは、デボラの言う通り、何をやらかすかわからない。」


グレンが、ぽりぽり額をかきながら、私の肩をもつ発言をする。


「まあ、その件もあってお師匠さんのローブを預かることができたんだ。普通なら金を積んでも展示品を預かるなんて無理だが、アレンより力を持つデボラには逆らえないってあいつら思ったんだろうな。ちなみにそれ、修復可能なのか?」


ヘンケルは、気分を変えるように私に聞いてきた。

しかし、ますます、私の気持ちは滅入る。


「外側のワイバーンの革で作る生地はなんとか加工できると思うの。でも、内側はペガサスの羽の加工だから無理。素材がないの。この服には小さな空間バッグのようなポケットがたくさんあったんだけど、内側の布が復元できないなら、それも復元できないわ。

もしかしたら、ポケットには、師匠のものがあったかもしれないのにね。」


私は、ここでも自分のできる限界を感じて気が滅入る。


「レグも言い方だよ。デボラが頼んだわけじゃなくて、レグが先回りして守ろうとして勝手に怒ってるんだろ?

俺も、アレンはヤバい奴だと思ったよ。少しの間、魔力がなくなるぐらいいい薬だよ」


バインがそう言い慰める言葉に、ヘンケルとグレンも同意して、今日のレグはおかしいよと言い始める。


「レグだって、色々考えた上でデボラに言いにくいことを注意したんだからそう言うなよ」


キリフは苦笑いをしている。


それを見て、私は首を横に振った。


自分の行動で、レグスタインを怒らせてしまった

それなのに、周りは私ではなくて、レグが悪いように受け取られてしまう。


「レグは私のために動いてくれて、私のために言いたくないことを言ってくれているのに、素直に言うことを聞かないのは私なの。どうしても、過去何もしなかったことが後悔に残って、パーティーなのにリーダーの言うことを聞かない私が悪いの」


みんなは私を慰めてくれる。

でも、そんなふうに気を使わせていることに、さらに申し訳なさが募る。


黒竜に頼まれたからって、本来、女性を入れない方針のパーティーに私を入れること自体、方針を曲げてもらっているのよ。


それなのに……


ため息しか出ない。


それに、レグにああ言ったものの、魔力が強く、魔法が誰よりも使えれば、なんとかなると奢っていたのは、アレンを魔力で抑えつけた私も一緒なのよね。


今回のことで、もし、枢機院が私に目を向けたら?


間違いなくこの家を提供しているレグスタインを筆頭に、いろんな人に影響や迷惑をかけてしまうでしょうね。


しかも、私はこれからもトラブルを起こすかもしれない。


そうしたら、みんなの置かれる環境にまた、影響が出てしまう。


「デボラ、あんまり考え込むなよ」


キリフが心配そうに声をかけてきて、私はこくりと頷いた。



でも──


私の行動によって、5人が危害を加えられたり、将来に影響することが起こってしまったら?


みんなそれぞれに家族の関係や、貴族社会の中で悩みを抱えているようだった。

もし、私が、起こしてしまう行動で、5人の未来が途絶えることがあったらどうする?



「みんな、レグじゃないの。私の考えが浅かったのよ。ごめんなさい。」



私を守るために、意見まで割れて、5人の関係まで悪くしてしまうところだわ。



これ以上みんなのところにいたら、私はまた取り返しのつかない迷惑をかけてしまう……



私は、これ以上みんなに迷惑をかけないように、このパーティーから離れた方がいいと静かに決断するのだった。









明日も2回更新予定です。

明日は昼頃と、21時10分になります

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