47 師匠の優しい嘘
少し恋愛要素を入れつつあるので、恋愛ジャンルに移行しています。好まない人もいると思うので、週末から来週にかけて2回更新になる日があります
私とヘンケル、グレン、バインの3人は、昨日と同様に馬車に乗り込んだ。
「二人いないだけで、一気に楽しくなるのはなんでだ?」
バインが、あははっと笑い、いつもとは違い座席でも崩れた姿勢で座っている。
「これが歴史博物館でなければなあ。デボラ、このまま他の観光地を見てみないか?」
グレンは、預かったお金を嬉しそうに数えている。
私はギョッとする。
なんでレグったらお金を持たせてはいけない人にいつも持たせるのかしら?
慌てて、財布の紐を締めるように声をかける。
「今日は、歴史博物館に行くって決めてるのよ。買い物は、売店以外はダメ。魔法のものは何もないんだからね」
「えーっ!でもさ、レグがデボラが困らないようにしてやってくれって渡したんだよ。デボラ!困ってよ!」
「困りません。ハンカチも入れてもらえているし、お直しの仕方も教えてもらったし。今日はグレードさんおられるかしら?この間は悪いことしてしまったから、色々聞きたいわ」
よく考えたら、魔法を語り合うことは出来ないけど300年前のことを色々話ができるのは楽しみだわ。
知らないこともたくさん知るだろうし……
私は、本当のことを知りたいわ。
だって、みんなも知りたかったと思うから
そう思うと、昨日とは違い少し心が弾むような、ワクワクする気持ちになった。
「そうそう、俺も役立つことがあるかもって思ったんだよね」
ヘンケルが、ニヤッと笑って自信満々に私に笑いかけてくる。
「何?ヘンケル?なんかいい事思いついたって顔をしているわ」
「まさにいい事なんだよ。俺の特技は諜報だろ?敵のおおよその戦力を測ったり、大きさを測ったり、自分たちとの距離を測ったりするだけどさ……」
そこまで言って、私の方に顔をずいっと向ける。
「これだよ!これ!」
ヘンケルは鼻をヒクヒクさせる。
「鼻?穴は普通の大きさだし、ヘンケルの鼻はお世辞抜きに高いと思うわ?」
私は、思わずヘンケルの鼻の穴を覗き込む。
「デボラァ!鼻の穴じゃないんだって!俺は匂いを嗅ぎ分けるのも得意なんだよ。つまり、デボラの師匠が持っていた物を俺に匂わせてくれたら、博物館の中に同じ匂いがないか探ることができる」
私は、目をパチパチとした。
「なに?そのすごい能力!魔法で、匂いを識別する魔法はないわ」
「そういえば、ヘンケルが敵のいる方向を出して、俺は防御に入ったり、突撃して方向を変えたりするんだよな。あれって匂いを嗅いでたのかよ?」
バインも、驚いたようにヘンケルの顔を見る。
「魔物の匂いで先にいる物を見つけることもあるし、魔物が落としていく物を見つけることもある。人間は、匂いは弱いんだけど、博物館の中だけといった限定した場所の中なら、同じ匂いを辿ることは可能だ」
バインや私の質問に答えながら《D》の道具から匂いを嗅ぎだせば、師匠の匂いを感じ取れるという。
「昨日、片付ける前に少し出したから私の匂いが染み付いたそうだけど……」
昨日は、出すのはいいが、片付けるのが一苦労だったのだ。
とりあえず、空間バッグに投げ込んで戻そうとしたら、レグがメモ書きして、何があるのかをリストにするように言われて、丁寧に一つ一つ片付けたから時間がかかってしまった。
その際、軽くバッグの中身を見せたら、レグの目が無心の平たい目に変わってしまった。
いろんな魔物の死骸がバッグの中で泳いでいたからだわ。
私は、軽く落ち込んみながら、昨日片付けた道具の一つを出す。
「ビーカーだね。本当だ!《D》が入ってる。」
ヘンケルは、目を閉じて
「ノージングチョイス」
と言いながら、手をかざした。
持っているビーカーから、ふわっと香りが浮き立つ。
あれ?
「もう、思いっきりレグの匂いなんだけど!」
ヘンケルが仏頂面になり、レグの匂いなんて嗅ぎたくもないとブスッとする。
「ごめんごめん、昨日の夜部屋で散らかしていた道具を片付けてもらっていたから……」
やっぱりレグの匂いが染み付いてたか?
バッグに入れる時に、レグが持ち上げて、私がバッグに戻していたからね。
「えーっ!デボラ!なんで部屋にあっさりレグを入れちゃってるの!」
バインのブラコンぶりまで炸裂し始めたわ。
そうよね。今まで一つ屋根の下で寝ていたのに、レグの家は大きいから一人一人のお部屋が遠いのよね。
「バイン、レグは昨日のことで私を心配して声をかけてくれたの。でも、私の様子を気にしたはずが、ちょうどバッグの中のものを外に出して散らかしていて、そっちの片付けができない方が心配になったみたい。だから、片付けを手伝ってくれたのよ」
私は、レグはみんなに平等なリーダーで、決してバインに手抜きをしたわけではないことを説明する。
「ああ、そうそう!久しぶりに出して、レグが触ってない物があるの」
私はジャーン!と言いながら、昨夜久しぶりに取り出した杖を出す。
ヘンケルとグレンはその杖を覗き込んだ。
「へぇ、なんか本物の魔女みたいじゃん。じゃあ杖から匂いを取り出すよ」
ヘンケルが再び呪文を唱えると、ふわりと懐かしい香りが上がる。
「あっ!師匠……」
デボラ!おはよう!
夜はぐっすり眠れた?
デボラ、杖の力を信じて!
あなたなら、もっとすごい魔法が使えるわ
デボラ、美味しいご飯を買ってきたの。
他の魔女たちには内緒よ。
デボラ、そろそろ私もお仕事よ。
他の魔女の言うことを聞いて、危ないと思ったら気配を消すの
あなたは強い子よ
自分を信じて、逃げるの……
デボラ………
デボラ……
「おいっ!デボラ!大丈夫か?」
「デボラ!しっかりして」
はっ!
一瞬、師匠の懐かしい香りで気持ちが過去にいってしまっていた。
「だ、大丈夫!あれ?」
懐かしくて、忘れたくない思い出が、落ちてくる涙と一緒に消えそうで、必死に我慢する。
まだ歴史博物館に入ってもないのに。
「大丈夫、良い思い出が香りを嗅いだら浮かんできちゃって。
でも、ヘンケルすごいわ。もう一度師匠の香りを感じることができると思わなかったの。これは、嬉し涙よ」
私は、バッグからハンカチを取り出して、そっと涙を抑えた。
なきながら、歴史博物館に入ったら、グレードさんがまた逃げ出しちゃうわ。
私は、急いで残った香りを吸い込んだ。
「その杖は、デボラの杖?」
「そう。小さい頃は杖を使っていたんだけど、大体のことは杖なしで出来るからバッグに入れて忘れていたの。これすごいのよ!効果が2倍になるの」
私は自慢げにグレンの前に自分の杖を差し出した。
普通の杖は、茶色か黒色の魔力を多く含んだ樹から採取する。でも、私の杖は師匠が作った素材から作ってある特別なものだと言っていた。
「これは、魔力ゴムの樹から作った樹脂杖……」
グレンが、じっと杖を見たあと、持ってみたり、握ってみる。
「そう、普通の樹じゃないの。ちゃんと加工された物なのよ。だからすごく軽いし、隠しやすいの。今この杖を使ったら、すごいパワーよね?ダンジョンでこの杖の存在を思い出せば、もっと手早く魔物を倒せたわ」
私がそう笑顔で告げると、グレンの顔は複雑な表情になった。
「いや、これは……」
少し迷ったような顔をする。
「あら?今の時代では当たり前なの?」
私は、グレンがもっと驚いてくれる予定だったので、少し残念な気持ちになる。
「うん、今は魔力の高い樹の方が貴重だから、加工樹はそこまで喜ばれないんだ。ただ、デボラの師匠は、魔力が倍になるっていったんだろう?」
グレンは、その杖をヘンケルに見せる。
ヘンケルは、じっと杖を見て首を横に張る。
「ごめん、鑑定してみたけどこれは、ただ自分の魔力を通すだけの棒と同じだ」
そのヘンケルの言葉を聞いて、グレンは確信したように頷いた。
「魔法使いになる子が、最初にコレを使って自分の魔力が外に向けてどう流れるかを実感しやすくするために使うんだよ」
「ええっ!じゃあ師匠に嘘をつかれていたのかしら?」
私は、昨日のこともあり、急に全てが嘘で塗り固められた過去のような気持ちがして頭が真っ白になる。
「いや!そうじゃないと思う。普通は、魔力がとても弱い子に自分の魔力を感じさせるための道具で、デボラはその逆だから」
グレンはキッパリと私の顔を見て話す。
「君の力は規格外に凄かったんじゃないかな?
君をおごらせることなく、杖の力で倍の力が出せていると思わせて育てて、その杖を使わなくても魔法をコントロールできるところまで育てたら無詠唱や杖なしで魔法が使えるように仕上げた」
そこまで言って、確信したように私に笑顔を向ける。
「デボラ、杖は使わなかったからバッグに忘れていたんじゃない。必要無くなったからバッグにしまったままだったんだよ」




