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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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43 化粧の下の本当の顔

キリフは、真っ青な顔で馬車の中でも姿勢を維持するのがしんどいらしく、私に寄りかかってきた。


「おいこら!離れろ!気分が悪いのは飲み過ぎ、自業自得だからな」


レグスタインが、キリフに怒りの声を向ける。


「そうだよ。どさくさに紛れて!レグもキリフも年配者のくせに、デボラに触れてばっかり!酷い!」


バインがキリフに向けて腕を組んでぷりぷりと怒っている。


「みんな、気分が悪い時に人に触れると安心するのよ。私もレグに抱きついてしまって、しかもそのままベッドで寝てしまったの。破廉恥だと反省しているわ。でも、何かにしがみついていないと体を保たないほどしんどかったのよ。キリフも一緒よね?」


私が、キリフをいたわると刺々しいバイン、ヘンケル、グレンの声が響く。


「今なんて言った?ベッドで……」


「そのまま……」


「抱きついて寝た!!」


なんで意味のない沈黙が走るのかしら?

みんな愕然としているわ?


「お前たち、言い方がおかしい。デボラの体調が悪いのをリーダーとして介抱したに過ぎない」


レグスタインは、何をみんな驚くことがある?と表情を崩さない。


レグは私が気にしないようにしてくれているのね。

でも、みんなの反応の方が当然だわ。

私は少し、しゅんとする。


「私だってありえない失態だと思うもの。でも、しんどすぎると動けなくなったり、すごい疲労感に襲われると自分でも思わない行動に出ることもあるわ。

キリフも、なまじ薬で抑えていたから、反動でしんどさを強く感じるのね」


そうだ。少し冷やしてあげよう。

私は手を上に向ける。


「ウォーターボール」


10センチぐらいの水球を、手の上に魔力を集めて作り出す。

そこに、氷魔法で、氷に変えるブレスを吹きかけていく。


「ヒューーーッ」


みるみる間に、私から出る氷の息が水を凍らせていく。


「うわぁ、すごい!一瞬で丸い氷が出来ていく」


グレンが、面白そうにその氷の玉を見つめた。


「俺も作れるかな?飲み物を冷やすのに、水を氷にすることはあるんだけど、水そのものを作り出す発想はなかったな」


「今のは空気中の水を集めたの。10センチぐらいならすぐできるわ。はい、キリフ!ちょっと冷やすわね」


私は、自分の化粧が落ちて汚れてしまったハンカチに包もうとする。


「汚れてるけど一枚しかないから……」


「それなら、俺のを使え。汚れたキリフには、俺のハンカチで十分だ」


バインが、胸ポケットからハンカチを出しながら話す。


「あのね、話を戻すけど、デボラは優しすぎるんだよ。キリフもレグも絶対に下心あるからね」


「バインったら!抱きついて離れなくて、レグを困らせたのも私だし、キリフの二日酔いの時間切れがあることを忘れて、展示物に没頭したのも私なんだから、下心を疑われるなら私になっちゃうでしょう。分かっているのよ」


そういえば、私が空飛ぶ絨毯でレグに抱っこされていた時も怒っていたわね。


「レグ、バインを抱っこしてあげてほしいの」


「はあっ?」


「へっ!」


二人は大袈裟に驚いてみせているのね。

分かっているわよ。ある程度の年齢になって、しかも男同士だもの。


私はうんうんと頷いた。


「レグは素晴らしいリーダーだわ。体調が悪くて新加入した上に、わからないことばかりの私を、優先的に甘やかしてくれる。バインだってお兄さんを奪われたような気持ちになるわよ。今日は、私がキリフの面倒を見るから、バインはレグに甘えたらいいわ」


「誤解だよ!俺が甘えたいのは、デボラであって、レグとキリフが勝手に抱き合ってたらいいんだよ」


「俺も誤解だ。抱きついてきても、バインなら廊下に投げて終わりだ」


「……っ。声を出すな……頭に響く」


バインとレグスタインがとんでもないと手を振っている。


二人とも素直じゃないんだから──


キリフは……二日酔いだものね。二人の声が響くんだわ。


「とりあえず、キリフはしばらく断酒だな。ユリア殿に振られたからって自分より一回り年が下の女の子に介抱してもらってるんじゃ恥ずかしいだろう?」


グレンは、キリフに当てている氷玉の方に関心があるらしい。

屋敷に着いたら、その氷球をくれと横で騒ぐ。


私は、5人との喧騒に耳を傾けながら、キリフの額を冷やしていた。


つい先程まで、300年前の失った仲間のことばかり考えていたのに、今は新しい仲間に過去の傷を癒してもらいながら、笑って過ごせている。


私も、この世界でいつか誰かの傷を癒せる人になりたいわ。


この世界には、まだまだ過去の私のように傷ついている人がいる。

親がない人、お金がない人、住む家がない人、食べるものがない人……



この仲間たちと離れて、自分のことは自分で生活できるようになったら……


早く自立しないとね

それまでは、もう少し仲間に甘えてもいいかな?


私は、そっと馬車から見える外の世界に想いを馳せた。





「デボラ様……化粧が剥げておられます。バッグにお直しの化粧品は使われなかったのですか?」


帰って早々、部屋に入ると、ココアから信じられないとばかりにため息を出されてしまう。


「それが……自分で化粧の直しかたがわからないし、つい泣いてしまって……」


「歴史博物館で?泣かれたんですか?」


「はい。いろんな思いが頭を駆け巡っちゃって……」


「あそこは一度行ったことがありますが……まあ、感動のポイントは人それぞれですけどね」


ココアは、呆れたように大袈裟にため息をついて、私には理解できませんとツンとしている。


「ココアさん、お直しの仕方教えてもらえるかしら?私、また歴史博物館に行こうと思うんだけど、次も泣くかもしれないから、ちゃんとお直しできるようになりたいの」


「えーっ!そんなに歴史好きなんですか?泣くほど……それは失礼しました。誰にだって好きなものはありますものね」


また行くのか!

しかも、泣く可能性があるのか!


そうココアの心の声が聞こえてくるようだ。


「こら!ココア!レグスタイン様の大切な方になんてことを!」


マーヤは、ココアの頭を無理やり下げさせようとする。


「いいのよ。そう思われるのはよくわかるわ」


あの薄暗い客のいない博物館で、何に感動したら泣くんだと思うのが普通よね。

私も詳しい事情が話せないので苦笑いする。


「そこまで、心に残るものがおありだったと言うことですよ。でしたら、明日の髪は結いあげましょうね。」


マーヤの提案に頷き、ココアも不可解なものを見るような目で私に対応をするが、化粧の仕方や、肌の手入れの仕方を一つ一つ丁寧に教えてくれる。


ココアさんははっきりと意思表示をするわ。

最初は怖い人かと思ったんだけど、良くも悪くも正直という感じでカレンさんに近い気がする。


「デボラ様、アイラインを引く時に目をつぶったら、目の周りは真っ黒になります」


「はい」


「デボラ様、小筆に少しづつ色を混ぜて唇の上に塗ってください」


「は、はい」


「デボラ様、チークは軽くのせるんです。グリグリやったら真っ赤なほっぺになります」


「あああああっ」



「デボラ様!!これからお風呂です!化粧を落とさずに眠ることは許されません!」


「え、ええーーーっ!」


「デボラ様っ!!」



ああ、ココアがカレンに見えてきた。





夜がふけて、今日あったことを深く考えそうになって頭を振る。


ダメダメ、前を向かないと──


私は、目を閉じて、今日見た映像が頭に浮かぶのを、深呼吸をすることで気持ちを切り替えることに変える。



「さて、明日も歴史博物館に行きたいけど、魔女仲間の故郷のヒントと《D》の文字の入った物を両方探したいわね。」


自分の道具を一つずつ出してみる。


蒸留機のガラスのフラスコ、ビーカーにも、機械の金具にも《D》は入っているし、薬瓶も師匠がくれたものは全て《D》が入っているわ。


加熱器具、計量スプーン……大きさとか値段関係なく《D》


デボラの《D》だと言ったけど、特注品ではなくて、《D》が入った魔法使いの部隊のものを手に入れて、私にくれたのは間違いがなさそう。


私のためを思って手に入れてくれたものなら、別に他の《D》の人たちが使っていても関係がないわ。


でも、どうやって手に入れたのかは分からないままだけど──



「師匠のことをみんなラファと呼んでいたわね。師匠ってどこが故郷なんだろう?」


会うことが二度と叶わない師匠──


本当に会いに行きたいのは師匠の元かもしれない。

私がいなくなったのを知ってどう思ったかしら?

いえ、師匠が私を売った可能性もあるのか……


私は首を横に振った。

分からないことは突き詰めないようにすると決めたばかりじゃないの。


軽くため息をつく。


思えば本当に綺麗な人だった。

そういえば、服は集落にいても、黒いローブに黒い帽子を被っていた。


背は高くて、私たちと違って爪に汚れはなく、細く長い。


美しい切れ目長の瞳と赤い唇。


他の魔女たちと明るくよく話をするし、気配りをする優しい師匠。


私にとって師匠は親代わりだから鼻が高かった。


「師匠は爪が綺麗だし、お化粧も綺麗だわ」


「ふふっ、デボラも大人になったら一緒にオシャレをしましょうね。化粧って凄いのよ。元の顔を隠してくれるの。だから上手くできるようになれば、魔女でも、お昼に街を歩くことができるようになるわ」


「今教えてよ。そうしたら外に出られるのよね」


「残念、かわいらしい子供が化粧をしたら、逆に目立つわよ。化粧は大人になってから……」



そう笑っていたわ。


今日の私の顔は化粧で別人だった。

化粧をしなかったら学芸員のグレードさんにも、絵とそっくりな女だと思われたはず。


私の知ってる師匠の顔は、化粧をしない素顔の師匠の顔とは違うかもしれない。


師匠……化粧をする歳に私もなったのよ。

とても綺麗にしてもらったの。

そして、肌のお手入れの方法も教えてもらったわ。


お肌をつやつやにするには、しっかり水分を与えてクリームを塗るんですって……


師匠はどうしていたのかしら?

魔法で?それともいなくなった夜にどこかでお手入れしていたのかしら?


師匠は最後まで逃げ切れたかな?

今の私みたいに、ふかふかのベッドの上で最後は眠ることができたかしら?


また、涙が出そうになり、出した道具を片付ける。


その時──


コンコン


レグスタインとつながっている扉がノックされた。





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