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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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42/64

42 私の方が強かった

私は、バインとヘンケルと一緒にみんなと合流するために動き出した。


「デボラぁ、まだ数日はレグの別荘で過ごすからどうしてもなら、また別日に来たらいいよ。今日は帰ろうよ」


バインが心配そうに私の手を離さない。


「俺もそう思う。3人に館内を見てもらって、デボラが回るところをピックアップしてもらおうよ」


ヘンケルも、今日は帰ろうよと私の動きを止めた。


二人とも心配してくれているんだわ。


なんだか申し訳ない気分になる。


かなり、ショックを受けて取り乱してしまったしね。


300年、時を過ごしたなら、まだ時間薬があったのかもしれない。

でも、私の場合、寝て起きたら300年経っていた訳で、300年前はここ最近の話なのよね。


それとも……

二人が言わないだけで単純に私の化粧の崩れ方がひどいのかしら?


ハンカチが、真っ黒だったわ。


もしかしたら涙で目がたぬきになっているのかもしれない。


うーん……


でも、マーヤさんとココアさんがいないと、お化粧を直すことはできないし……


気持ちを固めた時に一気に行く方がいいよね。


「出来れば、魔女狩りのコーナーを見て帰りたいの。

私は300年前に、逃げてばかりで目を向けることができなかったの。だから、私がされたことも、仲間がされたことも逃げずに見たいの」


「逃げてないよ。デボラ、君は自分を守ろうとしただけで、それはみんながする当たり前のことだよ」


バインは、泣きそうな顔で握る手を強く掴む。


「俺もそう思う。自分の身を守る行為は逃げることではないよ」


ヘンケルも、私の進む前に立ちはだかろうとする。

私は、手を振ってそうじゃないのと必死に二人に伝えた。


「ううん、私は自分が強いって知っていたの。でも、魔女狩りは恐ろしくて、権力を持った人たちがみんなで襲ってきたら敵わないってどこかで思っていた。」


私は、バインとヘンケルに微笑んだ。


「私は強いの。ダンジョンでも、私、黒竜と戦ってトドメを刺すところで止めたのよ。その時に気づいた。

黒竜があいつらより弱いわけないじゃないのって……私はみんなを助けられたのに助けなかったって悟った。

だから、私が怖いと感じた魔女狩りは、本当は制御できるものだったと自分自身で確認したいの」


私は、ふーっと息を吐いた。


「やっぱりそれは自分を責めてるじゃないか!」


バインが悲壮感に溢れた声で叫ぶ。


「責めてないの。ちゃんと自分の敵の力量を知りたいのよ」


私は、首を振って前に向かって歩き始める。


「あ、レグたちもこのコーナーを見に来ていたんだわ」



私は、入り口で、展示物を見ているレグスタインやキリフ、グレンを見つけ声をかけた。


「みんな、ごめんなさい。もう大丈夫。」


「で……で……デボラ……何でここに?」


グレンの目が泳ぎ、激しく慌てふためいている。


「色々考えて、私はここをちゃんと見ないといけないという気持ちに変わったの。そっか……グレンが動揺するほどひどいのね。これは、私も覚悟してみないとね」


息を大きく吸って入ろうとするところをレグスタインとキリフの二つの壁に遮られる。


「いや、正直に言おう。この先に、処刑の様子が描かれたものがある。その一つにデボラに似た少女がいる。だから、この先は嫌なことを思い出すし、見ない方がいい」


レグスタインがキッパリと行かせないという意思表示をして、完全に私の前に立ち塞がった。


「レグ、心配してくれてありがとう。でも、これは私が知らなければならなかったことだと気づいたの。あの時は見えなかったものが、時間を置けば違って見えることってあるでしょう?魔女狩りは、私にとっては恐怖だったの。でも、本当にそこまで恐れるものだったのか知りたいのよ」


私は、レグスタインの腕に手を当てて、その先に行かせて欲しいという意志を伝えた。

レグスタインの顔が歪み、迷いが見られる。


「レグ、そこまでデボラが言うのならちゃんと見せるべきだ。俺たちが遮る権利はない」


キリフが、顎を動かし、レグスタインに退くように示す。

レグスタインはしばらく目を閉じて、決断したようにため息混じりに言った。


「デボラ、見たくないものを絶対に見る必要はないんだからな。もし、見るのが苦しくなったらすぐ目を閉じてくれ。すぐここから連れ出すから」


「分かった」


レグは、私の痛みに寄り添おうとしてくれているのだわ。


キリフは私の意志を尊重しようとしてくれている。


グレンやヘンケル、バインはこれ以上、私が傷つかないように心配してくれているのね。


黒竜、ありがとう。


この仲間がいなかったら、私、今どうしていたかわからないわ。

こんな風に、私も、魔女の仲間にも接したらよかった。


私は、魔女狩りのコーナーに足を踏み入れた。





「こんなところに、アイラさんがいる。そうか、私の後ろを歩いていたんだ。磔にあったのは、キアヌさん?脚が弱っていたから、ここで処刑が決まったのね……」


入ってすぐの絵の中心にいたのは私だった。

だけど、私には、私以外に描かれている仲間の顔に目がいった。


中の絵は悲惨なのに、懐かしかった。

久しぶりに仲間と対面した。


300年経っても、名前は忘れない。


顔だってあの日のまま──



他の絵にも目が移る。


「この人は、クレアさん。クレアさんは、時々こっそり美味しいスープを作ってくれるの。おいしいといい匂いがしちゃうから本当は作っちゃいけないの。見つかるリスクが高くなるからね。でも、たくさんおいしいお料理を知っている人だったの」


私は、誰に説明をするでもなく、絵に描かれている中で知っている全ての魔女の名前と性格や行動を話していく。


だけど、今の私の仲間はそれを遮ることはない。

会ったこともない魔女たちのことを、私は誰かに知ってもらいたかった。



「ダンジョン処刑の対象ではない他の仲間の最後を私は知らなかったの。いえ、知っていたけど記憶から消していたのね。

磔台に縛りつけられている魔女のことも見たわ。でも見ていないと思い込んでいた。毒杯を飲まされたり、水責めにあって亡くなった魔女も知っていた。

絵で見ると、私は知っていたと嫌でも実感するわ」


私の脳裏には、処刑場の人の焼けた臭いや血の匂い、叫び声、兵の怒鳴り声しか残っていない。


不思議となぜ、その状況になった姿を全く見ていなかったと思い込んでいた。


今ならわかる。

誰にも彼女たちを助けることは出来なかったと思いたかったのだ。


連行される縄を瞬時に燃やし、先導して兵を眠らせて逃げることができた。


毒杯は、無効にする解毒剤を飲ませたらよかった。


磔は、浮遊魔法ですぐに解放して下ろしてあげたらよかった。



私は、もっとできることがあった。

私は、立ち止まって絵画をもう一度眺めた。



「マルコスという画家がこの絵を描いている。そんな画家がデボラのそばにいたのか?」


レグスタインが、この絵画の説明文を私に読んでくれる。


「マルコス……が処刑場にいたのかどうか?私には覚えがないわ。でも、マルコスは、同じ魔女のミレイと付き合っていた人と同名よ。その人も画家だと言っていたわ」



魔女の集落は、魔女以外に教えることは許されない。

そして、集落には入れない……だから私は会ったことはない。


ミレイはリスクを承知で、時々昼、彼に会いに行っていたわね。


でも、外は危険だから、彼がこの集落に来ていたということはないかしら?


私は、ミレイの絵を探してみたが、ミレイは描かれていなかった。


「マルコスはミレイが魔女であることは知っていると言っていたわ。それでもお互い好きだから離れないって。結婚は無理だけど、集落で彼の子供を産んで育てることはできないだろうかと言っていた……」


でも待って。

そういえば


「ああ、でも……集落から少し離れたところにすごく水がきれいな場所があるの。底が澄んでみえるのよ。地下から水が湧き出てて、魔女はそこで体を清めたりするの。

あまりに綺麗で、外では見たことのない魚も泳ぐわ。夜は月が水面に光る。本当に美しい場所で、ミレイがマルコスにも見せてあげたいと言っていたわ」


清浄魔法も使えるが、やはり清らかな自然の力には敵わない。

そこで、身を清め、魔力を整え、体をリセットする。


太陽と月の光の恩恵を受けて、体の中に清純な魔力を満たす。


あそこは魔女の聖地だ。

だから、連れてこられないのを残念がっていた。


「水浴び……あのさ、デボラは外で水浴びをすることが多かったの?お風呂みたいな熱いのは苦手だよね?」


レグスタインの声が少し硬い。

私が、水でお風呂を済ませたいと言うからだわ。

でも、この湖はとても気持ちがいいところなのに──


レグは心配性だから、お湯にしないと風邪を引くって心配するかしら?


「ここで身を清めることは多かったかな?お湯を沸かすと煙が出るから水のまま入るの。昼は活動できないから、集落のある森で素材を採取したり、魔法の訓練をしたり、湖で身を清めた後に眠ったりしたわね」


今思えば、逃げ回っているのに楽しい時間だった。

水は冷たかった。

冬は特に……でも、体はスッキリしたわ。


私は、そうレグスタインに告げた。


「そうか……」


レグスタインは言葉少なだ。


「でも、マルコスはスパイだったのかしら?処刑の絵を証拠品として献上するなんて……ミレイとどうなったんだろう?実は、集落で追われて散り散りになった後は、彼女とは出会えてないの」


ダンジョンでは、魔女たちは不定期に投げ込まれる。

先に進んでいたり、後から来た場合は出会っていない可能性も高い。


ただ、ダンジョンで生きていたのは私だけだ。

もしダンジョン処刑なら亡くなっているわね。


「マルコスがその時に何かできたのかと言われると出来なかっただろう……ちなみに、彼はその後有名な画家になっている」


「そうなの?」


キリフも、表情が固い。

二人ともどうしたんだろう?

ああ、マルコスが裏切り者かもしれないからかしら?


「300年経って、何が本当かわからないのだから誰かを恨んだり疑いたくはないの。ただ、今はミレイができれば幸せに生涯を終えたか、幸せに終えることが出来なかったとしてもマルコスからの愛情を受けたまま生涯を終えていてほしいと願うわ」


私は心の底から呟いた。





そこから、いろいろな当時の拷問器具を見ていた。

キラキラに磨かれた刃物たちが、今や見る影もなく錆びて茶色く濁って展示されている。


「やっぱり時は経ったのね」


爪を剥がすペンチなんて、魔力の糸でひん曲げてやればよかった。

磔で、魔女を突き刺すための槍なんて、槍を持っている兵ごとぶん投げてやればよかった。



一つ一つやっつける方法を考えたら、どうしてあの時にあんなに怯えていたのか不思議になる。


「なんだ。やっぱり……私の方が強かったじゃないの」


私は呟いていた。

周りの魔女たちの恐れが伝染したのか?

自分の強さを信じてなかったからなのか?


それなのに、300年後のこの世界でも私は逃げている



世界の仕組みは変わっていないから?

魔力があるから?



数年した私が、今の私を振り返ってみたら、何を悩んでいるの?と笑っているかしら。


その時にはみんなの元に遺品を届け終えているかしら?


ねえ、みんな──


300年前、私たちに酷いことをした敵は、本当は、私たちより弱かったわよ。


私があの世に行く時には、みんなで当時の奴らをコテンパンにしてやりましょうね。


私は、ゆっくりみんなの方へ振り返る




その時──横にいたはずのキリフがしゃがんでいた、


あらっ?



「うっ……」


「キリフ??どうしたの?」


胸の辺りを抑え、真っ青な顔をして脂汗を流している。


「どうしたの?キリフ!!」


私たちはキリフのそばに駆け寄る。


「大丈夫か?」


「どうしたんだよ!キリフ!」


みんなも、慌ててキリフを支える。


「忘れてた……二日……酔い」


苦しそうなキリフのうめき声が……


あーーーっ!


気づけば、馬車でキリフが二日酔いの薬を飲んで6時間が経過していた。
















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