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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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41 歴史の裏に隠された名画

明らかに不安定になっているデボラのことは心配だったが、ヘンケルとグレン任せ、俺──レグスタインとキリフ、グレンは、300年前の地図の確保や他に300年前に関連した情報がないかを調べるために博物館の奥に進んで行った。



◇◇




「あの学芸員!殴ってやろうかと思った」


グレンがいらいらしたように、俺とキリフに話す。


「みんな一緒だ。だが、ああいう歴史研究家にとってみれば、戦もクーデターも魔女狩りですらもみんな歴史の産物だ。そこに、血が流れ命が散るという意識はないのだろう。まさか、時を超えて過去の者がここにいるなんて考えもしないだろう」


キリフは、悔しいが仕方ないと話す。

だが、デボラの心に受けた傷を思えば、許したくないのが本音だった。


「俺たちだけでも、魔女狩りのコーナー見てみようか」


レグスタインがポツリと呟く。


「知らないといけない。彼女が受けた痛みをちゃんと知った上でこの時代を生き直してもらいたい」


それを聞いてグレンも項垂れた。


「そうだな。俺も魔法使いとして、ただ魔法を使えるというだけで理不尽な仕打ちを受けた彼女たちを知らないといけないと思う」


「俺もだ。彼女には何度も助けられた。自分の命も、ジークもユリアも、俺たちの友情も。だから、今度は彼女を支える番だと思う」


キリフも頷いた。



「歴史博物館は、客がいない上に広いな。」


グレンが、改めて見直しながら感嘆の声を上げる。


キリフとレグスタインも頷きながら、このフロアに地名の入った地図はないかと目を通す。


「冒険者としても興味深いよ。やっぱり学生時代に学んだものと、実生活に基づく歴史への関心は変わってくるものだな」


レグスタインが様々な歴史のコーナーを見て、これは一日で回り終わるのは無理だなと話す。


「あれじゃないか?魔女狩りの歴史……」


キリフが指差す先に、魔女狩りのコーナーがある。

この国に、魔力のある者が減ったのはこの誤った政策のせいだ。だから、ブースが大きいのはわかる。


ただ、先ほどのグレードのように、魔女狩りの悲惨さは当時も、そして今ですら猟奇的な意味で関心が高い。


俺たちは、無言でそのブースに近づいて行く。


だが、入ってすぐに、俺たちの足はぴたっと止まった。


「おい、これ……」


キリフが、止めた足を恐る恐る近づける。


「グレードがどこかで会ったことがあると言ったのはこれか?」


レグスタインも、目を見開き、痛ましいものを見るように思わず目を逸らしそうになる。だが、ゆっくり、そして前を向き、悔しさから握り締める拳が震えていた。


「これ……出会った時のデボラだよね」


グレンは震えて、指で前を指す。


壁一面に、当時の処刑の様子が絵として描かれている。


その中心で、鞭を振るわれながら歩くのがデボラ。

魔力を遮断する腕輪をつけられ、傷だらけで、腰紐で魔女同士が繋がれて歩く様子が描かれている。


「師匠に会うために、捕まったって言ってたよな。腕輪だって彼女なら外すこともできるし、みんなを殺して逃げることだって出来ただろうに……こんな思いしても会いたかったんだな。」


キリフは呟いた。


デボラの身体能力の高さは分かっている。

その気になれば、逃げられただろう。

いや、300年も前の絵画に、いっそ逃げてくれと願いたくなる。



「なにが、お会いしたことが……だよ。デボラだって、こんな姿になりたくてなったんじゃねえよ」


今とは違う髪も汚れた茶色い髪に染めて、ボロボロに整わない浮浪児のような姿で、ところどころ鞭で殴られたと思われる血が描かれている。


レグスタインは「チキショー」と小さく呟いた。


買ってあげた服を嬉しそうに着る姿が……

泣いたらダメだと、化粧を崩さないように必死な姿を思い出す。


「他も見てみよう」


知らなくてはいけないが、これ以上は見るに堪えなかった。

レグスタインは思わず、踵を返しそうになる。


「いや待て、解説は読んでおこう。何かヒントになるものがあるかもしれない」


キリフが、気持ちを立て直すように少し目を閉じて絵画の横にある説明文に近づく。


「オーウェン処刑場で連行される魔女たち──

絵は有名画家マルコスの筆と言われ、描いた物を処刑の証拠品として皇帝レオグラードに提出したとされている。

シャルバンポール城の皇帝の執務室からは、マルコス以外にも多くの画家が描いた魔女狩りの様子を表す絵画があると言われている」


「オーウェンは、前のダンジョンから10キロぐらい離れたところだったな」


キリフが、聞き覚えのある地名を見て反応する。


「でもさ、その場所はデボラの仲間たちが帰りたかった場所じゃないよね。むしろ二度と行きたくないところじゃないか?」


グレンが、その場所を知ってもダメだよなあとガッカリしたような声を出す。


「ここで、魔力の強いものはダンジョンの魔物を少しでも減らして死ねと、ただ、魔力があるとか政治的に魔女じゃないのに追放されたものは即処刑ということだったみたいだな」


他の絵画の説明文も読んでいくと、ダンジョン行きと即処刑の二つに分けられていたようだ。


レグスタインがもう一度、デボラが送還されている絵画を眺めると、その背景に磔にされ、胸に突き刺さる剣と苦しみの中で死んでいく女性の姿が描かれている。


「これ、有名画家か何か知らないけどどんな気持ちで描くんだろうな?サディストじゃないと描けないぞ」


グレンが顔を顰めながら信じられないと首を振った。


「マルコスだろう?どこの教団も一枚ぐらい持っていると思うぞ。こんな絵を描く作家じゃないはずだ。穏やかな風景画とか、人物画でも柔らかいタッチで癒されるようなものが多い」


キリフは、ふむと顎に手を置いてちょっと記憶を呼び起こそうとしている。


「おい、グレン、流石の俺でも知ってるぞ。こういうのを見ると、その後の作品が花が多い理由もわかるな。追悼の気持ちもあったんじゃないかな?あとは、『走り回る少女』とか『水浴びの少女』とか……ん??」


レグスタインは、マルコスの絵を思い出したのだろう。


ぴたっと動きが止まる。


そして、ふるふると震え出す。


「何が癒しだ!ただの覗きじゃねえか!大変だ!」


レグスタインは怒りに震えて、キリフを見る。

キリフも思い当たるようで「あっ……」と短く声を発する。


「何?なんなのさ?」


グレンだけはぽかんとしている。


「……『水浴びの少女』って……デボラじゃねえか? しかも、デボラが描かせるわけないから、勝手に覗き見して絵にしている!」


「しかも、マルコスの代表作だ!俺たちなんで気づかなかったんだ!」


「えーーーーっ!で、デボラの……水浴び……それって服は?」


グレンが慌てたように口を自分の手で塞いで真っ赤になる。



「服着て水浴びするわけないだろう!」


レグスタインとキリフの声が重なる。


「それ!それどこにあるんだよ?」


「…………最近見た気がする。どこだ?」


キリフは必死に思い出そうとする。


「偶然だな。俺もどっかで見たぞ」


レグスタインも、眉間に指を当てて考える。



「あーーーー!!枢機院!ダンジョン消滅報告の時に思いっきり飾られていた!」


二人は手を叩く。


「でも、本人だと思って見るから本人だけど、この絵を見ても分かるけど髪も違えば、化粧をしている今とは雰囲気も違うし、300年経っているし……本人が知らないなら……」


グレンはオロオロする。

だが──



「何を言ってる!ジークに言って、1000G、いや全ての金を注ぎ込んでも手に入れよう」


「俺たちのデボラの裸婦画を、あんな汚れた部屋に飾ってたまるか!しかも、枢機院にあるってことは、いつデボラとそっくりだと気づかれるかわからないじゃないか!」


二人は、真っ青になって叫ぶのだった。











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