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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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40 本当の歴史はわからない

レグスタインは、私の様子を見てグレード学芸員に、そっと声をひそめて声をかけた。


「グレード殿、実は私たちはこの300年ぐらい前に使われたと思われる【あるもの】を探している」


「あるもの?」


グレードも、これはやんごとなき事情なのかという風に声を落として、眉をひそめ、事情を聞きたがる。


「ちょっと詳しいことは言えないんだけどね。内密に依頼があって、大体今から300年ぐらい前のものなんだ。そのために、必要な地図や資料を探している」


レグスタインは困ったように、グレードの前で唸った。


「なにせ、私たちを見ても分かる通り腕には自信があるが、知識に不安がある。300年前と言えば、国も無くなってしまって、遺跡として完全な形で残っているのはシャルバンポール城ぐらいだからね」


それを聞いて、私は驚く。

シャルバンポール城って現存してたの!


ここから近いのかしら?

近いのだとしたら、私が過ごした魔女の集落も近い?


私は必死にレグスタインとグレードの会話に耳を立てる。


「ああ、あの城にもし求めているものがあったとするなら、手にすることは難しいでしょうね。私たちのように歴史を研究するものからしたら、あの城は宝の城ですよ。中に何があるのか知っているのは枢機院だけですからね」


グレードは、残念そうな声を出す。


ということは、一般公開はされずに枢機院の誰かが住んでいるのかしら?


姿を消すのは無理だけど、認識阻害ならかけられるから中を見て回ることはできないかしら?

「D」の魔法使いの部隊のことをもっと知りたいのだけど……



私は、レグスタインの背後に隠れて会話を聞きながらも、うずうずとして、いろいろ質問したくなる。


ダメダメ!

どの情報がみんなが当たり前に知っていることで、どの情報が知らないことなのかが分からないもの。


自分に言い聞かせているけど、グレードさんに聞きたいことがたくさんだ。


だが──


「ここにも、その時代の展示物といえば有名な魔女狩りのコーナーがありましてね。ギロチンとか、当時、魔女が処刑された熱された鉄のはりつけ台とか、爪を剥がす道具とか、外の遺跡にあったものは幾らか回収して置いているんですよ。でもね……」


グレードは笑いながら嬉しそうな声を出す。


「噂では、シャルバンポール城には当時の皇帝やその家臣たちが、高い魔力を持った女を弄んだり、拷問する部屋や牢屋など、色んなものが残っているらしいんですよ。あれをみて、展示できたらみんな喜ぶと思うんですよね」


それを聞いて、ひゅっと息を吸い込み、停止する。


頭が?

呼吸が?


何が?停止した?


足の感覚も、手の感覚もなくなる。


「で、デボラ?気分悪いの?」


遠くでヘンケルの声が聞こえる。


「ああっ!失礼!ご令嬢の前でお話しすることではなかった。もしかして、プラチナカードを持たれているということは、魔力が高いとか?いや、魔女狩りはかつての話ですからね」


慌てるグレードの声が遠くに聞こえる。


「いや、彼女はみんなと同じで魔力はほとんどない。ただ、優しい女性なので、人の気持ちに同調してしまうんだ。」


レグスタインは硬い声でグレードに告げると、グレードも申し訳なさそうに情けない声を出した。


「すいません。久しぶりに歴史の話に関心を持ってくださる方がいたのでつい張り切ってしまいました。

地図は上の階に、この陸地がどう変わっていったか説明されたものがありますし、お土産コーナーに、ハガキサイズや置き物、空間に地図を映像として映し出されるタイプが売っています」


そういうと、居心地悪そうに「では」と去っていった。




「デボラ!俺が見えるか?大きく呼吸して!」


レグスタインの声が聞こえる。

しっかりしなきゃ……


頭の中に私の過去の思い出がよぎる。






見える処刑台


焼けた仲間の肉の匂い


うめき声……


消えていくさけび声


助けなきゃ!


私なら助けられる!


そう思うのに、体が動かない。


「逃げるんだよ!!」


仲間が散り散りになる。


飲んでいたお酒の瓶が、地面に散らばっている。


息をひそめて、私はただ待つ。


師匠!帰ってきて!


帰ってきて!助けて!!



私は……無力だ。





「おいっ!デボラ!しっかりしろ」


ハッとすると、レグスタインの顔が目の前に。


私の手をヘンケルが握りしめ、バインとグレンが必死で私の名前を呼びかけていた。


後ろをキリフが支えている。


「すいません。昔のこと思い出しちゃって……けど、私は眠っていたので、私にとっては、ついこの間の出来事なんですよね」


ははっと、なんとか笑おうとする。


それなのに……


どうして勝手に涙は出るんだろう。


泣くなら、みんなが処刑された時に、自分が無力だと知った時に泣けばよかったのに。


頬をぼとぼとと涙が伝う。


泣いたらダメなんだ。

今日は、化粧をしてもらったから……


この時代の人は化粧をしたら崩れるから泣かないんだ。


ハンカチ……


ハン……カチ……


震える手で、今朝マーヤさんたちが持たせてくれたハンドバッグを開ける。


ハンカチで……

化粧をしたら、手で涙を止めちゃいけないんだから。


「デボラ、地図だけ確保してくる。何も考えず、ゆっくり息をして、座って待っていてくれるか?

ヘンケルとバインはデボラについてやってくれ。」


レグスタインが、私の顔を両手で包んで目を見ながら声をかける。


「ああ、涙は拭いてあげる。大丈夫だから休もう」


ヘンケルが、震える手でハンカチを取り出そうとする私の手を押さえた。


「端に椅子があるよ」


バインが、私を誘導する。


「大丈夫よ。ちょっと昔を思い出しただけ。それだけ」


そう言ったのか、心で思っただけなのか?

気づけば、わたしは椅子に座り、ヘンケルに涙を拭いてもらっていた。


「グレンには「D」のマークを探してもらう。俺とキリフは地図を確認しよう」


レグスタインが、みんなに指令を出して、それぞれ動き始める。


私は、何もできず、ただヘンケルに涙を拭いてもらい、バインに手をさすってもらっていた。




どのくらい経ったのか?

だんだん、気持ちが落ち着いてくる。


胸がどくどくいうような息苦しさも減ってきた。


「師匠にずっと会えるのを震えながら待っていたの。

魔女狩りで逃げ回ってみんなを見捨てた日も、師匠がダンジョン処刑にあったと聞いて追いかけた日も」


師匠は私の親と同じような存在なのだ。


偉大で、かなわない。


何でも知っている。



でも、夜はいつもいなかった。


私が作ったものを売りにいったり、素材を集めたり、依頼をこなしていると聞いていた。


昼は、私に魔法を指導するための時間を充てていた。

師匠はいつ、どこで眠っていたんだろう?


「もしかして、師匠がみんなを売ったのかしら?」


だとしたら、私はあんなに良くしてくれた仲間を見捨てて、師匠を求め、探したんだから裏切り者だわ。


「私は、仲間内でも強かったのよ。だから、助けられたのに誰も助けなかった。捕まった時ですら、師匠がダンジョンにいるというから捕まっただけで……捕まって、拷問を受けて、爪を剥がされて、みんな死んで……」


わたしは、目を閉じてうめくように呟く。


「デボラ、君が過去を思い出すことで気持ちが楽になるなら、一緒に思い出す手伝いをするよ。でも、楽じゃないよね。黒竜は、デボラにこの新しい世界を生きろって言ったんだよ。みんなの分まで生きるんだよ。みんなの分苦しんでどうするの?」


ヘンケルが、私の涙を拭きながら真面目な顔で私を見つめる。


「そうだよ。デボラはみんなの代わりに、嫌なことを思い出すためにここにいるんじゃないよ。みんなが戻りたかった場所に戻るためにここに来たんだよ。だから、思い出したくないものは見なくていいんだ」


バインも、私の手を握りしめる。


「歴史って正しいことばかりじゃないよ。もしかしたら「D」のマークは、城にいるデボラに助けられたことがある親衛隊のものかもしれないじゃないか?歴史を学んだ奴らが勝手に魔法使いの部隊のマークと言ってるだけかもしれない。何が本当かなんてその時に生きていた本人に聞かないと分からないよ」


ヘンケルはそう言って笑う。

そうよね。

師匠はシャルバンポール城で捕まっていたのかもしれないし、潜入捜査をしていたのかもしれない。


何が本当かなんて分からない──


「すごく悩んで師匠のことを調べたとしても、本当のことがわかるかどうかも分からない。それなら、自分の信じたい師匠を信じた方がいいよね」


わたしは俯いて、二人を見て頷いた。

ヘンケルから、ハンカチを受け取り涙を拭き取る。

ハンカチは、お化粧で黒く汚れていた。


帰ったら、ココアさんたちから呆れられちゃうな。

わたしは、少しため息をつく。


ここで、この時代で、わたしは生きるんだ。

でも、一人じゃないもの。

分からないことは教えて貰えばいい。


そして、分かることは分かる範囲まで、自分のためにも、みんなのためにも、本当のことを自分の目で確認しよう。


深追いはしない。


「二人ともありがとう。ちょっと動揺したみたい。もう大丈夫だから、もう一回みてまわってもいいかな?私は、みんなの代わりに、私たちが受けた理不尽を知らなければならないと思うの。そして、自分のために自分が受けた仕打ちを知らないといけないと思うわ」












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