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300年ダンジョンを生き抜いた最強魔女は現代で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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4 空飛ぶ絨毯は危険です

目覚めたら── 青い空と白い雲が見えた。


どれだけ焦がれていたか。


私は無意味に空に向かって腕を伸ばした。


ただ、涙が勝手に流れて止まらない。


私は、おめおめと300年先の世界に、たった独りで戻ってきてしまったのだ。



「戻ってきた......戻ったよ...みんな」



本当は、私よりこの空の下に戻りたかった人たちがいたのに。


あの日、戻りたい、帰りたいと叫んでいた仲間の声


助けたかったのに助けられなかった人たち


未練もない私だけが、どうして生き残ってしまったのか。



「ううっぅぅっ......」



息を吸ったと同時に、肺に流れ込んできたのは、いつもの血生臭い、鉄の錆びたような死臭ではなく、生きた草や土のツンとする爽やかな風だ。


それが、肺に突き刺さる。

そして、それと同時に、我慢していた涙も一斉にボロボロ流れ落ちた。



何のための涙だろう?


黒竜は言った。


「無念のままの同胞の分生きろ」と。


もう、仕返ししたい相手すら生きていない。


生きる目的はただ一つだけ。


仲間の無念を思った時、黒竜が終わらせてくれなかった以上、自ら死ぬことは出来ない。



仲間の分まで、この世界を生き抜くこと



そう思うのに、涙で歪んでしまった空の青さが眩しい。


ただ、私の苦しい心だけが、まるでポトンと水の中に落とされたように重かった。






その時、頭上でごそごそと音が聞こえてきた。


「デボラ殿!大丈夫ですか?頭を打たれましたか?」


歪んだ視界の前に、ぬっと顔が現れる。



「ええと......あなたは?」


涙でぐしゃぐしゃになった目をパチパチさせる。


「神官のキリフです。回復を担当しておりました。戻ってくる時にどこか痛めましたか?」


キリフは細身で、落ち着いており、5人の中で一番年配者に見える。


(回復担当.......?)


「大丈夫です......外にもう出ることはないと思っていたので、少し......感極まってしまっただけです」


そう私が答えると、キリフは「そうでしたか......」と気の毒そうな、神妙な顔つきで言葉少なにうんうんと頷いた。


かつては魔女として追われていた頃は、攻撃、回復、素材回収、簡単な魔道具作成もすべて一人で行った。


今の時代は役割は分業制なのかしら?


300年の時の変化に胸がざわめく。


「神官というのも、回復担当という言葉も初めて聞くのですが......」


まずは情報を少しでも集めよう。


そして、自分が、この世界で生きていくためにできそうなことがあるか聞かないといけない。



魔女であることは隠すとして......



魔力が多いことも隠したほうがいいのだろうか?

だが、男女問わず魔力があるものは貴重だという。


無害なただ魔力が高いだけの一般人を装えば、なにか生きていく仕事を見つけられるだろうか?



「ゆっくり、覚えていけば大丈夫ですよ。黒竜にあった時は、終わりかと思いましたが、あなたのおかげで私たち5人は命拾いしたようだ」


キリフは微笑み、周囲を見渡している。



「おい、生きてるか?」

「ああ、こっちは大丈夫だ」

「眩し過ぎだろ。陽の光が目に痛いぜ」


そんな声とごそごそ動き出す音が周囲に聞こえる。


「みんな、無事に戻ってきましたね」


残りの4人も、キリフと一緒に私のそばに集まってくるのを感じる。

急いで私も手で涙を拭い、私も立ちあがろうとする......が??




ん??



「あれ?目が...まわ...る」


視界がぐらりと大きく揺れる。


「あああああっ!大丈夫ですか?おい!デボラ殿を支えてさしあげろ」


キリフの声に、私を支える数人のたくましい腕を感じる。


うーっ、目がまわる。


「気分が......悪い。」


「300年ぶりの地上ですからね。気圧も違うし.......せっかくですから、一気に家まで戻りましょうか?」



グレンの声が聞こえる。


そうか.......彼は魔法使いと話していた。

一気に、転移するのかしら?


久しぶりだから、転移酔いしなければいいなあ。


転移の魔法陣を思い浮かべる。

長い間、使わなかった魔法陣がたくさんある。

忘れたものもあるかもしれない。



私は、支えられながら、魔法陣を描いたものを広げているであろうグレンを横目でみる。


だが──


ぬ....布?


いや、あれは、すごく立派な絨毯?


どう見ても魔法陣じゃない。


「あれ?あれは絨毯?」


私は、支えてくれたキリフの顔を見ながら絨毯を指差す。


混乱している私の前で、グレンは誇らしげに私の方を見る。


グレンが広げる目の前の豪華な織の絨毯は、みたこともない煌びやかな金糸が織り込まれた温かい手作業の織物だった。



「デボラ殿の時代はなかったでしょう。寝たままでも大丈夫ですからね」


グレンは、もう少し待っててくださいよと声をかけてくる。


「デボラ殿、心配なさるな。ほらみんな、お乗せしろ」


キリフが困惑している私を尻目に、心配はいらないとばかりに声を出す。


「了解!すいません。誓って余計なところは触りませんので」


キリフの声に頷きながら、レグスタインが、私をひょいと持ち上げる。


「うわああぁぁぁ」


軽々抱き上げられ、私は慌てる。

レグスタインからは、魔物とは違う人の汗の香りが薫ってくる。


だが、私は300年前ですら人に抱き上げられた記憶はない。


冷静に考えて、人の汗の香りは懐かしい香りですら......ない!


「ひ、人が、人に......近い!」


「ああ、大丈夫です。落としませんから。黒竜殿に託された方ですからね。ちゃんと、誠心誠意困らないようにお手伝いさせていただきます」



レグスタインは、優しく言い、私を抱き上げたままその絨毯に腰をおろした。



「いや、いい!自分で座ります。ほんとに!ほんとに良いですから!」


「いやいや、ご遠慮なく」


レグスタインは、暴れる私をモノともせず軽々抱きしめたままだ。


魔力を使わなければ、所詮は私も非力な女だ。


かつてと兵に囚われ、力づくでダンジョンに投げ込まれた時を思い出す。


私はぶるっと体を震わせたが、レグスタインの手は、驚くほど丁寧で、余計なところは触らず本当に優しく支えるだけだ。


「ご安心ください。このあとはお風呂と、最高に美味しいごはん、ベッドを準備させていただきます」


そんな訳のわからない誘惑を私に囁く。

そして、そのうちみんなも、私の周囲を固めるように、その絨毯に座り始めた。


「何?何してるの?みんな?何で座るの?」


一人パニックになっているのに、なぜかみんなくつろぎの表情だ。


「あっという間の空の旅ですからね。デボラ殿!少しの間お楽しみください」



グレンが目の前の絨毯のスイッチを押す。



スイッチ?


絨毯に??



その瞬間、体の中からぐらっと揺れたような感覚がして、視界が高くなる。


ブイーンという、羽音のような耳につんと痛くなるような音がしたかと思うと、青空になぜか近づく。



「最高出力!俺たちの住処まで!!Go!!」



グレンの声と同時に、私の体に思いっきり重力が横からかかり、それをレグスタインが固定する。


「ひっ!!」


グレンの声と同時に、突然絨毯は私と5人を乗せて空を舞い上がり、もう突進に進んでいく。



「ぎゃああぁあぁあ!!だす..だすげでーー!!!」


声が声にならない自分の叫び声を、私は300年ぶりに聞いた。


風が冷たく自分を切り裂く。

無惨にも私の叫び声がその切り裂く風に飛ばされて消されていく。


体が揺れる!

レグスタインの力のみ感じる。


何が起こるの!

いつまで続くの?


大揺れに揺れながら、とんでもない重力の中で、自身の固定はレグスタインのみという恐ろしい体験をしながら.......


私は、300年先の未来の乗り物「恐怖の絨毯」を堪能したのだった。










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