37 【レグ視点】愛おしさと自爆
あまり恋愛話がないのでちょいと入れてみました。
苦手な人はこの話は飛ばしても大丈夫ですが、むっつりすけべのレグスタインが見たい方はお待たせしました(笑)
デボラが空飛ぶ絨毯で俺を抱きしめたまま、意識を失った後のことである。
◆◆◆
この規格外な魔女を俺は守り切れるだろうか?
俺は、黒竜を従え、ギルド長とキリフの長年の確執を解決し、マージェスター通りで魔法使いたちに一目置かれる強さを持ちながら、空飛ぶ絨毯で怯えまくって俺にしがみついたまま寝てしまったデボラから抱きしめられていた。
黒竜から託された時は、彼女は命の恩人であり、300年前の魔女をそのまま放置はできないという思いからだった。
いよいよ俺たちのパーティーにも女性が加入することになったという感覚と、キリフの過去の経験も踏まえて、恋愛沙汰にさえならなければ良いという思いだった。
それが、どうしてこんなことになった?
抱きしめているんじゃない。
抱きしめられているんだ。
しかも、俺はそれが嫌じゃない──
むしろ、役得だと思っている。
更に、ヒュドラの革で全面を覆う防御力バッチリのデボラに抱きつかれ、恋愛を彷彿させる雰囲気すらないのにこれ以上にない密着度合いで、ベッドインしてしまった。
これは、普通では体験できないことだ。
何度か剥がそうとしたが、剥がそうとすればするほど、両手両足を何かの技を仕掛けるかのように絡ませてくる。
これは仕方がないことだ。
俺がやったわけじゃない。
何度も言うが、抱きしめられているんだ。
もう諦めよう。
ハニートラップなら何が何でも引き剥がすが、デボラの信者はたくさんいる。
そんなことをする必要はない。
むしろ、こうやって抱きつかれたい男たちは多いはずだ。
俺は、ポンポンと背中を軽く叩いた。
反応はない。
そっと、抱きしめてみる。
ふんわり良い香りと、ヒュドラの冷たく湿った革の質感の中で、俺たちとは違う柔らかい女性の質感を感じ、思わずヒュドラの革の中に顔を埋めたい衝動に駆られたくなる。
(ふーっ!いかんいかん!)
俺は急いで抱きしめた腕を解放した。
バインやヘンケルやグレンはいいよな。
いつもどさくさに紛れてデボラに抱きついている。
俺は、リーダーだから、みんなみたいに気軽に抱きつくわけにはいかない。
麻薬みたいな女性だとギルド長は言っていたな。
麻薬なんだろうか?
俺は疑問に思う。
デボラに助けられて、デボラのとんでもない魔法や所持物を目の当たりにしているのに、それでもデボラがとんでもなく弱く見える。
彼女がずっと理不尽を当たり前として受け入れているからだ。
300年前も今もだ。
これからは好きに生きたらいい
自由にしていい
そう言ってやりたいのに、300年後の今もとてつもない力を持つが故に、危険に晒されてもおかしくない状況がある。
何とか守ってやりたい。
とんでもないことばかりの連続だが、それでもただの18歳として残りの人生を送らせてやりたい。
そう思うのに、デボラが300年後の今がわからず困っているように、俺は300年前のデボラを知らなすぎて困っている。
そっと再び腕を回して俺はデボラを抱きしめる。
俺の首元からは、デボラの寝息が暖かく伝わってきた。
◇
「わああああああっ!」
翌朝──
俺は寝たふりをして、まるでその声に起こされたかのような反応をする。
なんてことない顔をするふりも大変だ。
使用人からは、俺とデボラが恋人関係だと誤解されているし、実際、そう誤解されてもしかたない状況だし。
ちょっと席を外して欲しいだけのつもりだったのに、いつまで経っても部屋に【じい】が来ないからおかしいと思っていたが……
目覚めたデボラはやっぱりハニートラップではなかった。
当たり前か。
デボラがその気になれば、俺は一発で眠らされて終わりだ。
終わり?ちがうな。
いっそ終わらされてみたかった。
だが、むしろデボラはちゃんとした貞操観念で驚いた。
ちゃんと恥じらいを持って反省している。
しかも、その後に聞いたデボラの入浴事情が、これまた……
くーっ、尊い!
数を50数えてやらないと、お風呂に入らないんだぞ。
これを知っているのは絶対俺だけだ。
他の奴らに教えるもんか!
ああ、カレンになりたい。
カレンは自動人形で感情はないというが、絶対デボラが可愛いからどこから測ったか忘れたふりをして、もう一回50数え直してるんだ。
少なくとも俺だったらそうする。
◇
元々素材はいいとは思っていたが……
デボラは魔法がなくても驚かせてくれる。
昨夜の同衾は誤解であることを知ってもらうために、侍女に、デボラの入浴から身の回りの世話の全ておまかせした。
その結果が!!
うおおぉぉー!
これは間違いなく、かわいい。
俺は、化粧を施したデボラを見てドキドキしている。
だが、とにかく平常通り過ごそう。
さらっと流して、マーヤたちを褒めないとな。
でも、出来ることならメンバーの誰にも見せず、一人でニヤニヤしていたい。
絶対、いろんな髪型にしたり、俺の買った服を色々着せたら似合うって!
想像するだけで……ああ、もうリーダー辞めたい。
だが……
なんかデボラの様子がおかしくないか?
俺は平静を装うため新聞を見ていたが、デボラがショックを受けているようにみえる。
事情を聞くと──文字が読めない……
300年経った上に、前の国は滅んでしまった。
その後、いろんな宗派が重なり合い一つの国になって時を経て文字は変わってしまった。
言われてみるまで気づかなかったが、300年前になかったもの全てが、デボラにとって未経験だ。
マージェスター通りの過去の薬も、同じ材料がないから改良されていたと話していたが、新しい植物や派生した新しい品種の効果も一から覚え直しになるし、過去に無かった習慣だったら戸惑うのは当たり前だ。
ぽろぽろ真珠の球のように浮かぶ涙が切なく、どうしてやればいいか戸惑ってしまう。
ケーキ屋の前でデボラの服装を悪く言っていた女たちや、文字やハンカチを知らない事を驚きの目で見た侍女の反応をもっと厳しく諫めるべきだったのではないか?
いや、そんなことをすれば彼女に反感を持つものが増えるだけだ。
それに、今だって俺が切ってあげると言っても、ナイフとフォークを持ってテーブルマナーを覚えようと頑張るデボラがいる。
文字を教えてあげると言えば、覚えたいと言うデボラがいるんだ。
彼女の味方を一人一人と増やしてやるしかない。
それまで俺が手取り足取り支えてやらなければ……
だけど──
俺、パーティールールで、抜け駆け、触れ合い、アピール禁止って言ったよな。
なにげに俺が一番破ってる気がする。
リーダーなのに……俺、一番やばくない?




