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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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34 俺の大切な人

懺悔と恐怖の雄叫びでどれほどの空の旅を過ごしたのだろうか?

降りる頃の記憶はほぼないと言ってもいい



「グレン、玄関横にゆっくり降ろしてくれ。デボラ、すぐ横になれる部屋に案内するから、吐き気は我慢できるか?」


レグスタインの声が、もはやエコーがかかって聞こえる。

私は、朦朧としながら、「はい」と答えたと思う。


命綱はレグスタインの腕のみ。

空飛ぶ絨毯は、普通に座っていれば落ちることはない作りになっていると言われても、自分が動かさない乗り物に乗り続けることは苦痛の極み。


「もう無理!今度、絨毯に乗るなら私は一人で歩くもん!うわあああぁぁぁん!!」


もう最後はぐすんぐすん涙しか出てこない。


乗り始めのレグスタインは、私の後ろで体を固定してくれて、まるで抱きしめるような形で命綱になってくれていたはずだ。


だが、絨毯から降りる時には、なぜか小猿が親猿にしがみつくように、私が両手両足を使ってレグスタインにしがみついていた。


私もボロボロだが、レグスタインの頭髪も服も当初のパリッとした雰囲気は見る影もない。


「よく頑張った。今日は距離が長かったし、揺れが少ないようにゆっくり飛んだのが逆効果だったかな?ごめんごめん」


レグスタインはそう言って、背中をポンポンと叩いてくれるが、涙は止まらず、がくがく震えている私に効果は低い。


「レグ、お触り禁止はどこにいってんだよ!前もチューして、抜けがけばっかり!」


「うん、レグが一番ルールを破ってる!俺たちだってデボラとどさくさに紛れてハグしたい。デボラこっちに来るかい?」


バインとヘンケルから恨み節の声が漏れる。


「お前たち、二人はそういう仲なんだよ。恋愛はな、邪魔したら馬に蹴られるんだよ。俺みたいになっ!」


失恋真っ最中のキリフは、もはや、誰のことを言っているのかわからない様子で二人をなだめる。



そんな私たちを、絨毯の離着陸場で待っていた男性が、呆然としたように呟く



「そんな……二人は……そういう仲?接吻をされる……関係。レグスタイン様が、いつもお触り……抱き合い?」


私はそーっと、顔を上げる。

高齢の背筋がピンと伸びた白髪の男性がありえないものを見たという顔でショックを受けている。


「久しぶりだな。じい。今は絨毯に慣れてなくて、こんなふうになっているが、俺たちのメンバーで命の恩人でもあるデボラだ。

(閃光の頭にとって)大切な人だから、屋敷での慣れない部分のフォローを頼むよ」


「は……はい。大切な人なのですね。わかりました。じいや他の使用人は、本宅にバレないようにお二人のことを守りますぞ。さあ、皆様も!パーティー全員で来られたのは、このことを隠されるためだったのですね」


「ん?まあ、周囲にはデボラのことをあまり知られたくないんだよな」


グレンは頷いて、絨毯を回収する。

じいと呼ばれた老執事は、何か納得したように頷く。


「レグスタイン様のためそこまで皆様が協力されるとは……わかりました。こちらもそれ相応の(こっそり行き来できる)お部屋を準備させていただきます」


「デボラです。はじめまして。体調が悪くて……少し休む場所をいただいていいですか?」


吐くことをとにかく我慢している状態だ。

誰もいないスペースで、空間バッグを探せば吐き気止めはあったはずだ。

もし、なくても私には治癒魔法がある。


私は再び目を閉じる。


「とにかく、早くベッドに行きたい。その後は、しばらく誰も立ち寄らせないようにしてくれ」


レグスタインの声がする。

私が休める場所と魔法が使えるように準備してくれているんだわ


本当にこっちがお願いしたいことが全部分かっている。

だからリーダーなのね。

私は安堵で、完全にレグスタインに身を委ねる。


「す、すぐにベッド……大丈夫です。みんなには近づけさせません。使われた後シーツ交換が必要そうであれば、侍女長に声をかけてください。」


「そうだな。(吐いて)もし、汚したら交換してもらう」



レグスタインは、わたしを抱き上げながら案内された部屋にわたしを運んでいく。

ふんわり、レグスタインの汗の香りが鼻につく。


初めてこうやって抱き上げられた時には、懐かしさすらなかったのに、今はこの香りが安心できるわ。

私は、そっとその香りを吸い込む。


「なんかさ、執事さんの反応おかしくなかった?」


ヘンケルがバインに聞く声が遠くで聞こえてきた。


「レグがお触りばっかりしてるからびっくりしたんだよ!俺だって、抱っこしたい!」


そうバインが言っている。

何を言ってるの?

どうみても今回は、私がレグにお触りしたのよ。

だって怖かったんだもの。


そう心で反論する。


「バイン、お前が言うと発言が危ない。レグはリーダーとして、デボラを守ってるんだからな」


グレンの声がぼそっと聞こえてくる。


そうよ!レグは素晴らしいリーダーだもの。

だから、バインもレグを抱っこしたいのかもしれないわね。

今日は私が独り占めしてしまったわ。

バイン、ごめんね。


レグスタインの肌の温かさが伝わってくる。



「ちがいないな。まあ、デボラはレグやここの人に任せて、俺たちもゆっくりさせてもらおうぜ」


キリフの言葉がそう聞こえてくる頃、私はレグスタインの抱っこの揺れと伝わる温かさに、だんだん意識が落ちていくのだった。







ふかふか


ここのお布団も気持ちいいわ。


ここのお布団も……あら?ここも?ってどこと比較……


目をパチッと開くと、わたしはレグスタインにべったり抱きついていた。

目の前にレグスタインが眠っており、長いまつ毛が見える。

私がしがみついているものは……


ちらっ……


うわああああああああああっ!


思わず、レグスタインから手足を引き剥がすように距離を取る。

その瞬間、体からレグスタインの温かさが消えていく。


「あああああっ!ああぅ!」


大混乱の私を見て、レグスタインも薄っすら目を開き、眠たそうに目を擦った。


「ああ、起きたか?昨日はデボラは離れないし、家のものも変に勘違いして大変だった。俺も、職業柄いろんなところでいろんなものを抱きしめて寝たけど、ヒュドラの革を抱きしめて寝るのは流石にドキドキしたよ」


ヒュドラ??

ああ、私の冒険者用の服のことね。


間違えても冒険者服に露出がないように、全面にしっかりとヒュドラの革部分の面積を増やしておきましたからね。


確かに、ヒュドラを抱いて眠るような感覚を楽しめるかも……



「それは良かっ……た?………いいえ、良いわけがない!」


300年前の私だってわかるわよ。

異性と二人きりで、一緒に同じ場所、一緒の寝床で寝ていいのは夫だけだわ。


どうしてみんな起こしてくれなかったのかしら?


昨日は、リリーのことを思い出したり、マージェスター通りで興奮してしまって疲れが溜まってしまっていたんだわ。


「へ、変にって、家の方は何を勘違いされたのかしら?」


私は布団を握りしめたまま、わなわなと震える。


「俺が、この家に女性を連れてきたのが初めてだったからだろうな。あと、デボラを運んだ姿を、抱きしめていると勘違いされたんだよ。更にデボラが離れなかったから、そのままこのベッドに二人で寝転んだだろう」


「えーっ!みんなも一緒に来たじゃないですか?」


どうして、そんな勘違いを!

残りの4人とだって、レグと距離感は変わらないのに。


「俺としては、デボラも同じ大切な仲間だと伝えたつもりだったんだが、じいには違う「大切な人」と伝わってしまったんだ。だから、みんなも交際のカモフラージュのためにつれてこられたと誤解されたみたいだね。」


「大切な……人……あ、あの、もちろんそういう意味ではないとわかっているけど、うれしいわ。私、みんなに迷惑ばかりかけているのに、そういってもらえて」


私は、違った意味に捉えられてしまったことは恥ずかしいけど、それ以上に大切な仲間だと言ってもらえたことにとても胸がいっぱいになる。


「もちろんだよ。デボラは大切な仲間だし、大切な子だ。ああ、こういう言い方が誤解を生むんだよな。

とにかく、そんな気持ちでデボラの体調を気にしていたから、色々気づくのに遅れてしまって、おかしいと思った時にはもう変な気遣いの嵐でね」


部屋は、大きな天蓋がついたベッド一つで、二人で横になっているのに広々としている。


しかも、いくら広いとはいえ、レグのベッドを半分奪ってしまったのね。


私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


周囲を見回すと、ベッドの横には応接セット、そして夜嗜むためのものだろうか?お酒や水がワゴンにのっていた。


「デボラの部屋は、そのドアの先。ご丁寧に俺の部屋と繋がっている。まあ、いつも一つ屋根の下にいるから大差ないかもしれないけどね」


そういって、今度は視線を部屋の横のドアに向ける。

私もつられて部屋の壁を見ると、壁紙と同色で目立たないように備え付けられたドアがあった。


「あっちが、本当の私のベッドだったのね。準備してくださったのに、使わなかったなんて申し訳ないわ」


「いや……誤解していたようだから大丈夫じゃないかな?」


そういって、レグスタインは、いそいそとベッドから出て、ワゴンに向かって歩いていく。


「昨日はずっと気分悪そうだったし、喉も乾いただろう。少し飲むといい」


そう言いながら、コップに氷を入れるカランカランという音と、コポコポと水を注ぐ音がする。


後ろから見たレグスタインの耳から首は、私と同じように赤くなっていた。

気まずい雰囲気をなんとか和らげようとしてくれているんだわ。


私はレグスタインの優しさに心がホッとしたのだった。




















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