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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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33 その心は受け継がれている

嫌なことを思い出してしまったわ。


そんなこの薬にまつわる過去の話を、ここでするわけにはいかない。


店主は、私の心の葛藤には気づかず、リリーはいなくなったという言葉に頷いた。


「そうかい……実はうちは歴史のある薬屋で、その祖となるのは、かつて魔女狩りにあった魔女だという言い伝えがあるんだよ」


店主は、再び立ち上がり、私たちに話しかけながら匂いのする奥へ戻っていく。


そして、コポコポと液体を注ぐ音と、陶器がかさなるような物音をさせたかと思うと、再び腰を曲げながらお盆に湯気の立った湯呑みを二つ持ってきた。


「プラチナの子が言っていた匂いはこの薬だと思うね」


湯呑みから立ち上がる湯気の香りは、確かに、あの日と似た匂いが漂っていた。


《暖かくなる薬があるよ》


そういって、笑顔で私に薬を渡してきたリリーの顔がふと重なる。


私は、湯呑みから立ち上がる湯気を思いっきり吸い込んだ。


「そうね。全く一緒ではないけど、ほぼ一緒だと思うわ」


私は静かに頷いた。


「祖の名前も、リリーって言ったらしい。彼女は大昔にあった魔女狩りでダンジョン処刑にあったという話だ。【閃光の頭】が行ったところだよ。祖は息子に魔女のレシピを託して、その息子はこっそりとレシピに使う植物たちを育てて、次世代に託し続けたと言われている。」


「まあ!じゃあ、その時のレシピ?」


300年後まであの薬が引き継がれていた!


過去のものがなくなってしまい、変わってしまっている中で、残っているものがあった。


私は、感動で泣き出したくなる。

だが──


「いや、やっぱりすべての材料の株を育てて揃えるのは難しい。年月の中で気候も環境も変わると育たないものも出てくるさ。だから、その代ごとに試行錯誤して薬効が変わらないように繋いでいる。私の代でも少し変えた。この薬は臭いし飲みにくいから、材料よりその分量の調整が難しいのさ」


店主は、あはははと笑いながら飲むように勧める。


(分量の調整が難しいだなんて、リリーと同じことを言ってるじゃないの)


わたしは、店主に微笑み返す。


ただ、前に飲んだ時は、毒薬だったわ……


私はせっかく出された懐かしい薬なのに、飲むことに少し躊躇した。


だが、そんな私の事情なんて知らないグレンは迷わずその湯呑みを受け取り、


「デボラ!苦い薬は一気に飲んだ方が飲みやすいぞ!」


そう、言いながら腰に手を当てて、迷わずぐいっと飲み干す。

そして首を傾げる。


「あれ?もっと飲みにくいのかと思って気合い入れて飲んだんだけど、意外と甘いんだな」


そうあっけらかんと言い放った。


そして──


「うわぁ、すごい薬だな。体が?いや違うな。周りが暖かくなったんだけど。これすごいな。俺、魔法薬でこんなに効き目を感じるものは初めてなんだけど!」


300年前のあの時の私と同じように、暖かくなったと感嘆の声を出している。


(あの時と同じ)


私もそっと湯呑みに口をつけた。

目を閉じてみる。


あの時の味とは少し違うのに、あの時の味以上に美味しい。


「美味しいわ」


そう呟くと、ふわっと私の周りに春の空気が漂う。

そして、不思議と心の中も暖かくなってくる。


リリー、あなたの愛した息子は、あなたを愛していたし、待っていたんだわ。だって、ちゃんとあなたの味を受け継いで、絶やさずその子孫も薬屋を続けているのよ。


きっと、この時代も、この薬で誰かの心を温かくしているわ


そう心の中で呟く。


「しかし、不思議なこともあるもんだ。祖も魔女狩りで息子と引き離されたらしいから、心残りだったのかねえ。あんたは現物を飲んで、材料まで聞いたわけだから幽霊じゃないんだろうけどさ……

この薬もだけど、魔女の技術はすごいから、何かしらの魔法でダンジョンに来た人に、薬を配り続けていたのかもしれないね」


リリーの子孫である店主は、リリーが300年前に仕掛けた魔法で私がその薬を手にしたと思ったらしい。


この世界に魔女はいなくなったからこそ、魔女はみんなの知らない奇跡を魔法で起こせるのではないかと思われているようだ。


「そうね。もし彼女に今会えたら、むしろ、この今の時代の薬を飲ませてあげたいわ。ちなみに、この薬は持ち帰り可能なの?」


わたしは全て飲み干し、暖かくなった空気と心に幸せを感じたまま、店主に話しかける。


「ああ、もちろん。薬だからね。買っていっておくれ。

匂いがひどいからこの薬だけは、マージェスター通りでのみ売っているんだ。私の息子や娘は他の支店で同じように祖から引き継いだ薬を売ってるし、支店によって売る薬が違うのもうちの特徴さ」


相手が客だとわかり、店主は嬉しそうに手もみをしはじめる。


「息子さんや娘さんも薬屋を営んでいるのね。ちなみに祖だったリリーさんは、どのあたりの出身だったの?」


「その祖が書いた記録によると、北の田舎の村の出身だったらしいよ。カラリ村といったかな?冬の寒さが厳しい地域で、流行病や栄養失調が多かったそうだ。だから、薬が重宝されたということだったが……」


「カラリ村……」


私は、つながっていく歴史に心がはずんでいく。


リリーには子孫たちが繋いでくれたこの薬を持って行こう

そう心に決める。


私はまだほのかに暖かい薬を手にして店を後にした。


「すっかり長居してしまったな……やばい、ローブを見にいく時間がなくなった。レグたちのところに帰るぞ」


グレンにいわれて空を見ると、高かった太陽が西に傾いている。


「大変!みんなに心配かけちゃうわ」


私たちは、大急ぎで来た道を戻りレグスタインたちの待つ場所に合流するのだった。




合流地点に戻ると、なぜかキリフが泣いている。


「どうしたんだよ。キリフ?」


「なんか……キリフとユリア殿が相思相愛だったと思っていたんだけど、ただの当て馬だったみたいで、ユリア殿の本命は最初からギルド長だったらしいよ」


ずっと泣かれて困ってるんだとため息をつきながらバインが私たちに耳打ちした。


ギルド長が脚が治ったと伝えたら、ユリアさんはどうするのか心配したけど、脚が治ろうと治るまいとユリアさんには関係なかったということね。


「結婚生活も長い二人だから、キリフと一緒になる可能性は低いとは思っていたけど、まさか、そもそも最初からキリフと両思いですらなかったとはね……やれやれ、デボラは楽しく過ごせたかい?」


キリフを慰めているレグスタインが、薬しか持っていない私を見て、他には買わなかったの?と心配してくる。


私は、先ほどのマージェスター通りの話をレグスタインに伝えた。


「へぇ、300年前の薬か。そんなところに出会いがあるとはね」


「ええ、驚いちゃった。正直、リリーのことはいい思い出ではなかったの。だから、少しだけ今日のことで救われたわ」


私は五人に、300年前にリリーからされたことを告白した。


それを聞いた五人の表情は、一気に険しいものになる。

300年も前のことなのに、みんな一斉に


「デボラ大丈夫?」

「後遺症はないのか?」

「ごめん、そうと知っていればあの薬は俺が全部飲んだのに」


と心配そうな声を上げた。


わたしは手を振って平気だと笑いながら、リリーのその後の話をした。


「リリーが亡くなって、わたしは彼女の空間バッグを調べたの。どうしてわたしや仲間に毒を盛ってしまったんだろうって。何かヒントがないかと思ったのよ」


座って飲んでいた魔女たちは、ほぼ即死で抗った形跡もなかった。

やはり、リリーがやったんだと確信する。


「空間バッグの中には、彼女の書き記したものがあった。

彼女は、魔力をなくす薬が作れないか研究していて、多くの試薬をつくっていたわ」


「魔力をなくす?薬でそんなことが可能なのか?」


グレンは驚いて聞き返した。

わたしは、首を横に振って否定した。


「あの時代だって、薬でそんなことは無理だと思われていたわ。でも、リリーにとって魔法薬こそが、唯一自分が持つ武器だったのよ」


とんでもない発想だわ。

だって、魔物の心臓にあたる魔石には魔力が含まれるように、魔力と生命反応は直結しているのだから。


人から魔力を消すことは、同時に命を消す行為と同じだ。


「でも、私たちと違ってリリーの場合は、ダンジョンから脱出しても普通の女性と同じようにならないと子供の元には戻れない。だから、体から魔力を消す薬を作らなければならないと思いこんだのね。」


あの時、すでに精神的に普通の状態ではなかったのかもしれない。


そこに書いてあったさまざまな試薬のレシピの多くには、魔力を消すために多くの毒草や魔魚の内臓の毒などあらゆる毒との組み合わせが記されていた。


「空間バッグの中には、試薬どころかただの毒薬としか思えないものばかり並べられていたわ。

それなのに、記録には後は治験を繰り返すだけだと書かれていた」


わたしはため息をついた。

あの記録と試薬の中身を、亡骸の前ですりあわせていく作業は、本当にやるせないものだった。


「じゃあ、デボラや他の何人かがその治験の被害にあったということか?」


レグスタインは、とんでもない話をきいたと言わんばかりに、目を見開く。


先ほどまで失恋に嘆いていたキリフも、すっかりその事を忘れたように、わたしの話に聞き入っている。


「そう。一方的にだけどね。冷静な頭で薬のレシピを見れば、それはただの毒薬で、魔力を消す効能なんてないことが明らかだったわ。そんな治験に協力する人なんていないわ」


道理でシンプルに一つの解毒剤では効かなかったはず──そのレシピを目にした時は、絶望的な気持ちになったものだ。


「ただ、憎めなかった。魔法どころか魔力があるだけでも捕まってしまった人が多かったのだもの。助かっても魔力を消さない限り、会いたい人と会えない、一緒に暮らせない。それって、助かっても誰もいない私よりつらいんじゃないかと感じたの」


まだ薬の効能が効いているのか、風が暖かく感じる。

私はその風を吸い込んだ。


「でもね、私は今日救われたの。だって、二度と会えなかったリリーの息子が、母親を忘れず、大切に母親が作ったものを、守り続けていたのよ」


「デボラ……」


グレンはいたたまれないような顔をして呟く。


「だから、わたしは、子孫が改良を続けながらあの薬を作り続けていたことをリリーに報告したいわ。さすがにあの世に薬を届ける魔法はないけどね」


私は、少し涙を浮かべてみんなに微笑んだ。


「俺としては、それを聞いて少しリリーという人を許せない気持ちもあるんだけど、デボラがいいならいいのかな?」


グレンは、私の話を聞いて、困ったように眉を下げた。


「デボラは、その子孫が作った薬をカラリ村があったところに届けたいんだね。村の名前がわかるなら、場所もわかるかもしれない。きっと、リリーも喜ぶよ。」


レグスタインは、そう言って、静かに微笑みながら私の頭に手を乗せて撫でた。



だが優しいのはそこまで──


「ところで……」


話を変えるように、私の耳元でレグスタインが、冷たい笑顔と声で囁く。


「お前たち二人が、魔法使いの街を歩いて地雷を踏んでないというのは、まずない気がするんだ。

だって、お金を持ったグレンがあの街に行って手ぶらで帰って来るなんて今までになかったからね。先ほどの話があったとしても、えらく時間がかかったじゃないか?」


「えっ!」


私は、数々のやらかしと騒動を思い出し、さーっと血の気が引く。


「あ、あんなトラブル!あの街ではよくある事で……」


グレンも慌てて言い返そうとする。


だが──


「トラブルがあったことは認めるんだね。長い空の旅になる。二人からゆっくり聞かせてもらうよ。グレン、今日はゆっくり飛ぶんだ。デボラは絨毯が苦手だからね。」


レグスタインは魔法で冷気を出すのが得意なんだわ。

そう思うほど、冷えた怒りが伝わってくる。


今こそあの薬を飲みたいかもしれない。


わたしはぶるっと震えた。


そんな私を見て、レグスタインは背後から抱きしめるように私を固定し、空飛ぶ絨毯に座る。


やがて絨毯は空を舞い、わたしは空の上で叫びながら、本日の懺悔をするのだった。



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