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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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31 私は全てお見通しのプラチナガール

マージェスター通りは今までの綺麗な街並みとは違い、まるでゴミ箱をひっくり返したような雑多な街だった。


地面に風呂敷を広げ、その上で怪しげな薬を売る者


自分が売り出したい魔道具を、実演販売する人


使い魔用の動物を販売する店


魔法使い用の杖を露店で削りながら売る人



そんな乱立する店やその客たちから、デボラとグレンを見て、声がかかる。


「おお、グレン!生きて帰ってきたか!金稼いだんだろう!買っていっておくれ!」


そう言って、グレンの肩を掴むもの──


「おお、君がプラチナガールか!かわいいじゃないか?魔力はあるのか!」


そう言って話しかけてきたのは、長い顎ひげを伸ばし、仙人のようになった見知らぬ男──



思わず声を返しそうになるが、グッと堪えて曖昧な笑みで首を振る。



色々言いすぎて、レグに迷惑ばかりかけたから、今回こそ何も言わない。


私は心の中で拳を握りしめて、そう決める。


だが──


「ええっ!魔力がほとんどない!!じゃあ、顔だけか。残念!」


(ん?)


「プラチナの子、ほとんど魔力なしなのかい?それでこの街に来て何を見るんだろうね?」


(んん?)


「魔力がほとんどないのに、プラチナカードってことは、相当な弓使いなんだろうなあ」


(えっ!)


魔力がなかったら残念?

いえ、本当は魔力はピカイチあるわ!

だから、本当は残念じゃないの。


しかも、顔もダメだと言われなかったわ。

ダブルで良かった!


って……本当に、喜んでいていいのかしら?


先ほどと違って、この街の価値観は、魔力があるかないかなのね。


ただ……弓を使ったこともないのに、勝手にハードルが上がってないかしら?

それはそれで、自分の首を絞めている気がする。


わたしは、あちこちで引き止められながら、とにかく誰かと会話をしなくて済むように、転々と移動しながら店を眺めて歩く。


むしろ、グレンの方があれだけレグスタインに言われたのに、いろんなものに夢中すぎて、私が引っ張って歩いている。


「グレン!行きたいお店あるんだよね。辿り着く前に時間が無くなっちゃうわよ」


「分かってるんだけどさ、ダンジョンでいくつか道具を落としてしまって、何買おうか迷ってるんだよ。魔石のお金っていくら使っていいのかな?欲しいものがたくさんだよ」


グレンは、誰かに声をかけられると、すぐ財布を出して店主に言われた物を買おうとする。


ダメじゃないの!

先ほどのギルドの1000Gの前金で、すっかり金銭感覚がバグり始めてるわ。


「グレン、まずは買わなければいけなかった物を買いましょう。で、何を買いにきたのかしら?そうだわ!私のローブをちょっと見にきただけじゃなかった?」


思い出した。

そもそも買う予定すらなかったはずよ!


「ローブも見るよ。でも見てよ!あの魔法陣を描く染料!あんな真っ赤な染料みたことがないよ。ゴーストウルフの血を混ぜ込んであるからあんなに赤いんだってさ。ゴーストウルフって聞いたことはあるんだけど見たことないんだ。一つ欲しいじゃないか」


引っ張るわたしをグレンが引っ張り返す。

そして、吸い寄せられるように露店の染料店にグレンは近づいていく。


「血を混ぜ込むのなら、あんなに発色良くならないですって!絶対なにかの植物の実ですから買っちゃダメです。植物系は、きちんと処理しないと劣化も早いですから」


思わず、予定外の買い物ばかりしようと足を止めるグレンに、私はダメである理由を伝える。


「ええっ!プラチナの子が血じゃないと言ってるぞ」


「魔力はないっていうけど、鑑定能力が高いんじゃないか?それなら、ギルドがお墨付きを与えるのもわかるな」


「おい、店主!どうなんだ?本当に、この中にゴーストウルフの血が入っているのか?」


そう周りが反応し、私はまたやってしまったと慌てる。


だが──


「魔力のない小娘に、この染料の凄さがわかるわけがない。みんなだって、魔法陣を描き込むからこそ、それを描く染料がいかに魔法の力を拡幅させ、正確に展開させるか分かっているから染料にこだわっているんだろう?」


店主はすでに60歳は超えているだろう。

そのベテラン魔法使いはにやにやと私を見ながら、小娘は何も分かっていないというふうにみんなに声をかけた。


このままでは、見た目18歳のわたしが何かを言っても、嘘をついているのはわたしと思われてしまう。


くっ


こいつは詐欺師だ!

私にはそれを証明できる【知識】がある。


私は、悔しくて唇を固く結んだ。


その時だった。


「お前たち、プラチナカードの知識量を舐めるなよ。魔力がなくても、それを上回るものがあるからギルドがプラチナ渡してるんだよ。

デボラはな、魔法のことで嘘はつかねえ!」


私のそばにいたグレンが、目を覚ましたかのように店主を睨みつける。


グレン!!だめじゃないの!

目立ったらダメなのに、思いっきり私に加勢してるじゃない!


だけど、私を信じてくれたのだ。

ここで庇ってくれたグレンに私が答えなくてどうするの!


わたしは意を決して口を開いた。


「そ、そうよ。私は物の真贋を見分けるのが得意なの。だから、ギルド長に一目置かれているのよ。」


ごくっと唾を飲み込む。

嘘じゃない。

こんな店主の嘘には騙されない。


「ゴーストウルフは、ただの魔物ではないわ。名前の通りゴーストなのよ。魔物であるスピンウルフの魔石を、倒した後にきちんと取り切らなかったら、ゴーストウルフに変化するの。でも、ゴーストだから「血」は存在しないのよ」


そして、私は指を指して店主に、


「正しい魔法陣を描くのに、偽物の染料でうまく魔法が展開されるはずがない!お前の悪事はお見通しだぁ!」


と叫ぶ。


そのうち──


「おい、誰か鑑定能力あるやつ連れてこい」


「その染料分析してくれ!」


「ああ!逃げやがった!!扉のカード認証でバレるからな。ギルドに報告してやる!」


そのまま、大騒ぎの渦になる。


あ………私、また、やっちゃったんじゃない?


恐る恐るグレンと顔を見合わせる。


「やりすぎた!!」


「とりあえずこの場から逃げよう!」


そして、二人で脱兎のごとく走りだし、混乱の続く場所から抜け出した。




「さすがデボラ!うっかりあの染料買うところだったよ」


ここまでくれば大丈夫と、大騒ぎになっている場所から建物をいくつか挟んだ反対側の通りに出てきた。


こちらでは、賑やかな露店はなく店構えのしっかりとした専門店ばかりで、用事のある人以外は来ないようだ。


急に静かになったが、通りに300年前にも嗅いだ薬草の香りが漂っていて、ほっとする。

どこかで薬を蒸留しているのかもしれない。


「レグに怒られるわ!早速、悪目立ちしたじゃないの!」


私は、半分涙目でグレンに抗議する。


「大丈夫!この街では、こんないざこざ日常茶飯事だ。」


グレンは悪びれないが、私は目立ってしまったので落ち込みが半端ない。


「とりあえず、今日は買い物は禁止!」


わたしは慌てて、グレンの財布の紐を固く閉めた。

そして、懲りずに再び色々な店で足を止めるグレンの背中を引っ張りながら歩く。


魔法が使えたら、財布の紐が解けない魔法をかけるのに!

魔法が使えたら、グレンを浮かせて歩くのに!!


ああっ!魔法が使いたい。


お店を覗いては楽しそうにするグレンを見ると、私も本当はいろんなお店に行って他の魔法使いと一緒に魔法談義をしたいという欲求が膨らんでくる。


「さすがに、何も買って帰らないのは悲しすぎるよ。ねぇ、デボラ、何か買おうよ。気になるお店はないの?」


「あるのはあるけど……」


今歩く道は、ほとんど人がいない。

店構えがしっかりしたところが多いので、お値段が高い商品を扱っているのだろうか?


「実は、先ほどから気になっている匂いがあるの。」


わたしは、300年前にも嗅いだことのある香りの元を目で追った。


「多分、あの店から匂ってくるんだけど……」


わたしが指差す先には、営業中を示す暖簾がかけられているのに、明かりもつかず真っ暗な店があった。


「空いてるのかなあ?」


グレンは何の匂いだ?と鼻をくんくんさせる。


「これは、センキクソウを煮出したにおいだけど……それだけだと苦くて飲めないのよね。だから、いろんな物を混ぜ込んで薬にするの。ただ……」



私がそれを知ったのは、仲間からもらった事があるからだ。

そして、今、匂っているその香りの中には、センキクソウだけではなく、混ぜ込んでいる他の材料まで当時のものと同じ匂いが含まれている。


それは【冷えた体が数時間は暖かい】という画期的な魔法薬だった。


もし、細かい分量まで同じ物で再現していたとしたら?



たしか、それを飲ませてくれた魔女の名前はリリー。

改良を重ねて作った秘薬だと言っていたはず。


私は、そのお店の暖簾をくぐり、扉のドアノブにゆっくり触れた。






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