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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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28 私なら治せます

「今回ばかりはデボラの言うことは聞けない。前回、ユリア殿の時に君の腕を手放して俺は後悔した。デボラが一人で抱え込む癖は、俺たちが止めなければならないと思っている。」


レグスタインは、ギルド長と私の間に立ちギルド長を睨みつける。


「そうでなくても、二度、ギルド長はデボラの許可なく、ステータスを覗こうとしている。二人きりにはできない。どうしても話があるなら、俺も同席だ」


私はそう言われて、一人で悩まなくてもいい安堵感と、聞いた話を私だけで処理することはできなくなる不安感で落ち着かなくなる。


だが──


「まあ、そうだよな。俺も正直二人きりじゃない方がいい。デボラの強さや能力は、麻薬のようなものだ。なんとか自分の方に取り込めないか?そう思わせるものがある。

俺もユリアの時の二の舞はしたくないからね」


ギルド長はそう言って、私とレグスタインではなく、キリフをチラリと見た。


「ふん、それならここにいる俺たちはみんなデボラの依存症だ。お前が入る隙はない」


キリフは、冷静に蔑むような目でギルド長を見返す。


「な、な、何みんな恥ずかしいことを言ってるんですか!」


誰が麻薬ですか!


私は、そばにいたレグスタインの背後に隠れて真っ赤に頬を染めた。



レグスタインと私以外は、廊下に出てもらう。

ギルド長は、前回とは違い、諦めに近いような、達観したような……私をじっと見据えていた。


「あ……あの……」


私は、話したいと言われて、内容の想像もついていたがどう話せば良いのかわからない。


「てっきり、今日はキリフのためにみんなが怒鳴り込んできたのかと覚悟したんだがな。レグスタインを含めて、みんな今まで通りすぎて拍子抜けした。まあ、その後の魔石でぶっ飛んだけどな」


レグスタインは、そう言ってわずかに口を歪めるギルド長と気まずそうな私の二人に視線を送っている。


何のことだ?

そう思っているだろう。


私は、レグスタインにだけ事前に話すべきだったのだろうかと不安になった。


「その……話すのならば、ギルド長からみんなにじゃないと駄目なんじゃないかと思って言わなかったの。事情もあるのかもしれないし、私はここに至るまでの経過がわからないし……」


そう、レグスタインに歯切れ悪く言い訳をする。


「なんのことか……俺には聞かれてもいいとギルド長は判断したから同席を許したんだよな?」


レグスタインは、皆目見当がつかないという感じで、眉をぴくりと動かしながら、考えるように顎に手を当てた。


「ああ、もういいんだ。デボラ、気を使わせてしまったな。この間、俺はデボラのことをもっと知りたくなったんだ。

男女関係で傷ついたはずのキリフが新たに女性メンバーを受け入れたこと、明らかに強い魔力を持ち、謎の出自、完治不能の死の淵にいたユリアを助けた少女は何者なのか?」


だが、レグスタインはそれを聞き、ますますギルド長に怒りを向けた。


「その好奇心で、デボラを二度、攻撃しようとした意識はあるのか?」


「ステータスを確認する技術はギルド長が持つ秘術だ。攻撃するという意識は今もない。ただ、俺のギルドの管理下における少女かどうか知りたかった。

レグスタインは、デボラがこの間怒っていたのは、ステータスを確認されたからだと思っているだろう。でも違うんだ。」


ギルド長は、そこで私に視線を移す。

そうなのか?という表情でレグスタインも私の顔を見たので、私はしぶしぶ頷いた。


「そうです。私は、何をされそうになったのかわからなかったんです。機械のソフィアさんはともかく、人が人の能力を明確に測れるということに出会ったことはなかったですから。」


ただ、手に魔力が押してきた感覚があったので、反射のリフレクト魔法を展開した。

それにより、相手がしてきた行為を相手に返せるのだ。


「私は、ギルド長が私にしてきたことを探りました。その際、ギルド長の個人情報を把握したんです。」


思わず手に入れてしまったギルド長の情報は、私がみんなから聞かされていたものとは違っていた。


だから、それをみんなに伝えることができなかった。


「ギルド長、あなたは足の後遺症で冒険者が出来なくなったと言っていましたけど、どこも後遺症なんてないですよね?体は健康体です。他の数値は、基準とすべき数値がわからないので何のことか全く分かりませんでしたけど……」


おずおずとそれをギルド長に伝えると、


「はあっ!!」


レグスタインは、今までの冷静さを保つ努力を忘れて、信じられないことを聞いたように目を見開く。

ギルド長は少しだけ微笑み返してきた。


「俺の最大の後悔だ。最初は、怪我で後遺症が残っているふりをするつもりはなかったんだ。むしろ、ユリアとキリフが想い合っているそばにいるのがつらくて、離れるためについた嘘だった」


人に打ち明けたことで、力が抜けたようにギルド長はソファーの背もたれに寄りかかった。

そのまま天井を見つめて話し続ける。


「ずっとユリアが好きだった。キリフよりも先だった。ユリアをパーティーに誘ったのも俺だ。彼女は快活で、弓がうまくて、剣士だった俺との相性はバッチリだった」


ユリアさんは、もう一度冒険者に戻りたいと言っていた。

ギルド長は、レグスタインより強い。

その強い人と相性よく動くことができるユリアさんも相当な腕前だったんじゃないかしら?


私は、ユリアが過去に固執した気持ちがわかる気がしてきて、頷いて聞いていた。


「でも、いざパーティーを組んでユリアが惹かれたのはキリフだ。俺とユリアは友人止まり。

キリフは、多くを話す奴じゃないし、神官というだけあって達観しているというか落ち着きがあってさ。そんなところに惹かれたんだろうな。」


「二人は恋人関係だったということですか?」


「いや、みんな両想いなんだなとわかっていたけど、言葉にしていない感じだった。だから、俺は自分の気持ちにけじめをつけるために、告白して、玉砕しようと思ってユリアを呼び出したんだ。」


そこまで言うと、ギルド長は当時のことを思い出したのだろう。手で顔を押さえて黙り込んでしまった。


それを見て、レグスタインと私は顔を見合わせた。


「あの……後遺症がないことは知ってしまいましたけど、辛いのであればそうなった経過のことまでは……」


私が手で、それ以上は話さなくていいと留めたが、ギルド長は首を振った。


「話してしまいたかったんだろ。デボラ、止めずに話させてやろう。これは、ギルド長の懺悔なんだろ?」


レグスタインの言葉に、ギルド長は言葉なく頷き、会話を続けた。


「告白しようと呼び出した時、突然、幻惑蝶の羽の音が聞こえた。

俺は慌てて大量に襲ってきた蝶を、手持ちの爆弾で仕留めた。

蝶は退治出来たが、幻惑蝶にやられて混乱に陥っているユリアの様子にすぐ気づけなかったんだ。

彼女は、混乱で自分自身も傷つけていたし、そのまま、俺の足に矢を飛ばし、更に持っていた短剣で襲いかかって来た」


「幻惑蝶を退治しても、一度混乱状態になると状態解除までは時間がかかりますしね」


「ああ、幻惑蝶を退治したことで油断もあった。その後は、キリフが混乱の浄化と回復をかけてそばに付き添っていたよ。俺はあの二人が寄り添っているのを見るのはキツくてさ。

治ってからも、あの時の怪我の後遺症で、もう冒険者はできないからやめると言ってしまったんだ」


「それは……」


それは、幻惑蝶のせいとはいえ、責任を感じるだろう。

もし私がレグスタインに同じことをしたら……


生涯、タダ働きさせてくれというわね。

間違いない。


ユリアさんの場合は、結婚して支えるという手段だったのか。


「彼女が、生涯あなたのそばで支えたいと言った時断ればよかったんだよ。本当に好きな奴のところで、好きな奴を支えてやれって言えば良かった。でも、それが言えなかった。ずっと後悔だ。ユリアが痩せて、死なせて欲しかったと思うまで追い詰めてさ……」


ギルド長は、頭を抱えて、うめくように後悔を口にした。


「過去は変えられませんけど……」


私は呟くようにギルド長に伝えた。


「多分、私は、よっぽどの後遺症でない限り大体の古傷でも治せると思うんです。私に治してもらったことにして、その上でこれからどうするかユリアさんとキリフと話し合ってみてはいかがでしょう?」


「こ、こら!デボラ!」


レグスタインが慌てて、私の口を塞ぐ。


「むぐぐっ……」


多分、大体の古傷を治せる人なんていないのよね。

私は、口を塞がれた状態でレグスタインに、それしかないと助けを求める。


「だめだって!なんで古傷が突然治るって話になるだろ」


レグスタインは、しーっと指を口に当てて、目を見開き、ダメダメと眉間に皺を寄せる。


「ダンジョンで魔女の秘薬を拾ったことにしたらいいじゃないですか。あそこは、かつて魔女狩りがあった場所ですから、薬瓶のひとつや二つ落ちていても疑われませんよ」


私はすがるようにレグスタインを見つめる。


今更、ギルド長が後遺症は嘘でしたって言ったってみんな傷つくだけじゃないの。


それなら、治してもらって後遺症はなくなったけど、ユリアさんがどうしたいのか聞いたほうがいい。


だが──


ギルド長は、突然涙目のまま笑い出した。


「へっ?」


その笑いは堪えきれずに肩まで振るわせている。

レグスタインも横でため息をついた。


「やっぱり麻薬だな。すがりたくなり、頼りたくなる。そして、迂闊で危険すぎる。デボラ、お前その状態を続けていたら身を滅ぼすぞ。守ろうとするレグスタインが可哀想になってくる」


「あ、あの?何かやらかしました?」


いい案だと思ったのに、何をやらかしたのだろう。

全くわからない。


「わからなくていい。お前の優しさは充分伝わった。レグスタイン、どう思う?ここで、デボラがうっかり俺を完治させたことにしてもいいか?

そして、外向けには、お前たちがダンジョンに置かれてた「いつのものかわからないワイン」を拾って、ギルドで買い取ったことにする。それを独り占めして飲んだら治ってしまったことにする」


レグスタインは、額に手を置きため息をついた。

私を見るその目は、困ったような、それでいて優しい目をしていた。


「レグ……私、また何かやらかしたのよね。怒ってる?」


「怒ってはいないが、どうやって守ればいいか不安になる」


そう言われて、うぐっと言葉につまる。


私がみんなを守ると言っているのに、レグは、私は守られなければならないと言う。


「前途多難だが、枢機院からデボラを守りたい理由も悪目立ちしたくない理由も想像はついた。

俺も、この立場からデボラを守らせてくれ。かわいい魔女さん」


「ひゅっ!」


私の表情が凍りつき、ギルド長に向けて、目が大きく見開かれる。


それを見て、ギルド長はしてやったりの顔で私にニヤッと笑った。




















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