26 魔石の中で眠りたい
ギルド長からプラチナカードをもらい、私たちはまず、先立つものを作ろうという話になった。
それなら、300年前に大量に溜め込んでおいたものがある。
でも、その前に……
「これも売るのか?」
レグスタインが眉をひそめた。
「だってまだ1個しか使ってないから499個あるんですよ。ダンジョンに大量にいた魔物ですし、私からすれば300階まで潜って一回も会ったことがないと報告するほうが違和感ですよ」
「欲しいと言ったものの、ギルド長、これを見て真っ青だな。破産するんじゃないか?」
レグスタインは、魔石を一個つまみ、天井に向けてみる。
天然にカットされた黒い魔石は、灯りの光を反射して宝石のようだ。
私は、数を数えやすくするように、50個ずつ一列に並べ、ブラックコウモリの魔石499個を机に置く。
「ええええっ!売っちゃうの!ブラックコウモリの魔石なんて滅多にないよ。ほら触るだけで魔力を感じる」
グレンも一つを手に取りガタガタ震える。
魔法使いにとって魔石は使用頻度が高いので、グレンの魔石への思い入れは強い。
「グレンのこの反応を見ると、やっぱり売らないほうがいいんじゃないか?悪目立ちしないだろうか?それか、少しだけ売るとか……」
キリフが心配そうにブラックコウモリの魔石を見つめる。
「生態を考えたら、集団で襲ってくる魔物なので数個だけ流すのはおかしいですよ。それに、強い敵ではないです」
私は腕を腰に当てて、言い張る。
だって、これが売れなかったら、空間バッグにある大量のレアなものたちは今後どうしたらいいのか?
「俺たちがやっつけたことにして大丈夫なんだろうか?」
ヘンケルも不安そうに、片眉を下げて気乗りしない感じだ。
「噛まれたら、噛んだ相手をヴァンパイアにしてしまうので怖いんですけど、一匹一匹は野うさぎレベルです。
だから、集団で襲ってきたので、グレンさんの火炎魔法と私の弓、あとは爆弾でやっつけたことにしましょう」
私がそう言い切ると、5人が一斉にのけぞる。
「う、うーん、ヴァンパイアね......まあ、誰も噛まれなかったで通すか。ギルド長も君の力を把握できなかったにしても、強いというのは悟ったようだし。よし、ギルドで売るか?」
レグスタインは、50個ごとに分けて袋に入れる。
「残り49個は、お金が無くなってから売ってもいいし、持っておこう」
そう言って、残り49個の入った袋を返される。
「だよね!全部売っちゃうなんて勿体なさすぎだよ。俺は、デボラからもらって毎日飲んでいるマナポーションですら、飲まずに飾っておきたいぐらいなのに......」
グレンの表情がぱあっと明るくなる。
「ベースは水ですから飲まないと腐っちゃいますよ」
私は、グレンの反応に笑ってしまう。
グレンは最近、暇さえあれば訓練をしていて、魔力の糸は、数日で10センチ以上伸びた。
このペースで、魔力の糸を伸ばせるようになったから、一年も続ければ相当伸びるだろう。
そして、訓練のたびに、ギリギリまで魔力をつかって、私の手作りのマナポーションを飲んでもらうのだ。
いつももったいないと言って涙目なのだけど……
「そうだ!マナポーションをまたたくさん作っておこうと思うんです。今の赤いのは小型ドラゴンというトカゲサイズのクズ魔石ですが、他のくず魔石からも色々薬を作りたくてとっておいたんです。
同じマナポーションでも、魔石によって効果の出方が違うんですよね。
この中に他にも売れそうな魔石ありますか?」
私は空間バッグから、クズ魔石が詰め込まれた背丈ほどもある巨大袋を3袋ぷかぷか浮かせる。
「これ一袋5000キロぐらいなんですけど、魔石としてはすごく小さくて、魔物も小型ドラゴンと同じような雑魚魔物なんです。使うには、同じ魔物同士の魔石で分けなければならない作業があって面倒で一袋にまとめてたんですよ」
私はそれを机の上に置こうとするが──
「待て待て!それを置いたら、机が壊れる!」
レグスタインが叫ぶ。
へっ??
それと同時に、魔石袋を置いてしまい──
ベキッ
メリメリメリ
軋む音は一瞬、その後は
バキバキバキバキ
「ああああ!机が!!」
総量15トンの重さに耐えきれず、私の魔石袋によって机はぺったんこに!
「ああああああ!どうしましょう!すいません!」
私も涙目になった。
◇
「魔石の種類わけは無理だけど、色分けならカレンに頼んだらいいよ。とりあえず、今回はそれを売るのはやめよう。なんか、とんでもないものが混ざってそうな気もするし......」
「これを機に、ギルドにあったような石作りの机にするか?それなら壊れないだろう」
レグスタインとキリフは、机が壊れるとは思わなかったなと唸りながら机の細かい残骸を片付ける。
「本当にすいません」
私はしゅんとなりながら、机の大きな残骸を浮遊させて1箇所にまとめた。
「魔石を分けるんだったら、俺も、やる!絶対やる!なんだったら魔石の中で眠りたい」
グレンの鼻息も洗い。
「俺たちも手伝うよ。見たことない魔石もあって面白そうだしな」
ヘンケルとバインも協力したいと話した。
だが──
「いや、いよいよここで本題だ。お前たちとデボラは、ギルドで金を手にしたら、その足で歴史博物館に行くぞ。300年前の地図を見ないと、どこに行けばいいかも見当もつかない」
レグスタインは、そう話しながら、自分たちがとってきた魔石もカバンに詰めた。
「歴史……博物館?どこにあるんですか?」
「枢機院がある中心街だ。だから、デボラに接触してくる奴がいないようにみんなで固めたい」
それを聞き、みんなの表情が一気に引き締まる。
「宿はどこにする?予約したら枢機院のやつら、間違いなく俺たちにも面会を求めてくるだろ?」
ヘンケルが、どこかからホテルリストを持ってきた。
「どうして、面会を求めてくるんですか?」
ダンジョンで取ってきた珍しいものを個人的に売って欲しいという交渉だろうか?
私が不思議そうな顔をすると、キリフ以外はみんなげんなりした顔をする。
「ああ、みんな年頃だからな」
バインもため息をつく。本当に嫌そうな顔だ。
「年頃...... ?」
「見合いだよ。みんな、長男ではないが貴族の子息だ。ダンジョンから無事に帰ってきて、冒険者としての名前も知られている。縁を結びたがるんだよ」
ヘンケルが、ホテルの人間にも気をつけないとなと言いながら、リストをめくりつづける。
「みんな......貴族」
あの時代の貴族とは違う。
そう思っても、私の時代の支配者や貴族たちは、魔女狩りを扇動した張本人たちなので、良い感情はない。
だが、今の時代は魔力のあるものが貴重だという。
魔力をもつ彼らがみんな貴族なのは、不思議ではないよね。
「そういえば、みなさんはお付き合いされていた方はおられないのですか?」
私はふと気づいた。
ユリアさんが、キリフと私が行動を共にすることを嫉妬したように、他のメンバーに交際相手がいたら、同様に、泥沼になりかねない。
気づかなかった自分の迂闊さに真っ青になる。
「はは、大丈夫。こんな仕事だからね。みんな長続きしないんだよ。だから冒険者は冒険者同士結婚したり、故郷に彼女がいるのに、メンバーと恋仲になってしまったり、別のメンバー同士取り合ったりするケースがあるんだ」
レグスタインは、苦笑いをしてキリフを見ると、キリフも肩をすくめて、もう懲り懲りだよという顔をする。
「まさに俺がそのパターンだ。ユリアとジークと俺の三角関係で、ギスギスするし、お互いの連携も悪くなる。他のメンバーにも悪いことをしてしまった。だから女性はいらないと思ってたんだよ」
こんな言いにくい話も二人の関係だと遠慮なく話せるらしい。
「それ、私はいいんでしょうか?その……確かに私は318歳のおばあちゃんですけど、みんなからみると18歳ですよ?」
ユリアさんのように、勝手に嫉妬するかもしれないじゃないの。
キリフと私の歳はかなり離れていてもその反応だった。
見た目の歳が近い残りの4人の関係者に勘違いされた時には、私が結婚の障害になりかねない。
「それが原因で結婚しなくていいなら、デボラに感謝するよ」
グレンは、とにかく結婚せず魔法の研究に没頭したいと話した。
グレンは真面目な研究肌の魔法使いだ。
貴族のお付き合いや全く異なる仕事をするぐらいなら、今のようにダンジョンに潜ったり、国から依頼を受けた研究をする方が気楽だという話には納得できる。
「俺たちは、デボラの旅に付き合うと決めてるんだからね。縁談に巻き込まれたら行けなくなる。何がなんでも逃げるさ」
そう言いながらヘンケルがめくるホテルリストに、グレンが「ここは?」と指を指す。
ヘンケルは、首を振り、ここは支配人と公爵家が繋がってるとため息をつく声が聞こえる。
「俺の家に来るか?」
レグスタインがちょっと迷ったように、みんなに声をかけた。
「俺は前妻の子供だから、本宅には住んでない。別宅には、他の貴族も来ることはないし、侍女は決めた人間以外は雇っていない。後妻のスパイも多いからね。」
「いいのか?久しぶりに戻るなら、無事に戻ったことを報告しに本宅に顔を出したほうが良いだろう?」
キリフが心配そうに言う。
「ないない。なにせ、父親とも俺が学園を卒業した時に会ったきりだ。ダンジョンで死ななくてがっかりしてるんじゃないかな。そんな状態だから、みんなが別宅に泊まっていても関心もないはずだよ。執事に帰宅は極秘にと送っておけば、本宅から縁談話もこないはずだ」
「まあ、俺たちみんな似たような境遇だよな。だから、縁談が進むと断れないし、面倒なんだよ。そんな気持ちで結婚しても相手にも悪いしな」
ヘンケルが少し寂しそうに微笑むと、グレンもそれを聞いて同意する。
「魔石を見つめてた方が楽しいよな」
その言葉にみんなが笑い出す。
みんな、家の中での立場は複雑なんだわ。
自分の痛みを分かち合ってくれるのは、同じように傷ついたことがあるメンバーだからかもしれない。
そう私は感じていた。




