25 ギルド長の秘密
「しばらくは、ベッドに縛りつけてでも休ませろ!とレグスタインが申しておりました。よって縛りつけます」
失意のまま家に帰って、レグスタインの手で部屋のベッドに連れて行かれたかと思えば、まもなくカレンが紐を持ってやってくる。
「カレンさん!【縛りつけてでも】であって【縛りつけろ】ではないです!分かってますとも!ハイポーションでは血は回復しませんからね。寝て治します」
私は、ゴロンと横になった。
カレンは、えーっ、縛りたかったのにと不服そうだ。
カレンさんは家事専門の自動人形よね?
縛るは家事なのかしら?
カレンの新たな興味を開発してしまった気がする。
白い天井をぼーっと見つめながら、気づけばうとうと。
そんな時間を繰り返す。
何度かいろんな人の出入りを感じる。
みんな、よく頑張ったなって言って去っていく。
その声は、心地いい。
思わず私も「頑張ったでしょ」と笑顔で答えたくなる。
◇
「ギルド長が、プラチナカードを渡しに来るそうだ」
何日か経って、ベッドで眠っている私にレグスタインが声をかけてきた。
「そうですか。なんか、先日のユリアさんの反応を見ると申し訳ない気がします」
依頼の報酬とはいえ、ギルド長もユリアの気持ちを目の当たりにしてショックを受けているに違いない。
私は、しょんぼり肩を落とした。
「ふん、グレンは激しく怒っていたぞ。デボラの善意を蔑ろにしたって。俺も同感だ。ユリアとギルド長、そしてキリフの関係は、あいつら3人で落とし前をつけることだ。
なんでデボラが巻き込まれなきゃならないんだか」
レグスタインは、そっと私の手を握った。
「デボラ、お前が気にすることじゃない。お前は依頼を正確にこなした。
だから、堂々と報酬のカードをもらえ。そうしたら、お前の仲間たちに遺品を持って会いに行こうな。」
「みんなに.....会いに」
そのために、カードを手に入れようと思ったのだから、いよいよ会いに行けるのよね。
みんなの故郷をみんなの代わりに見ることができる。
でも、それは独りよがりなのかもしれない。
うつむいていると、レグスタインが握った手をトントンと叩いた。
「そこに着いたら、ちゃんと俺たちを紹介してくれよ。新しい仲間ができたってな」
そう言われて、しばらく頭がフリーズして、肩が震える。
新しい仲間──
元の仲間──
どちらも、仲間でいいんだよね。
「レグ......スタインさん。ダンジョンがあった場所も行っていいですか?黒竜に言ってなかった。お礼を......助けてくれて、仲間を作ってくれて......ありがとうって......言いたい」
そう言うと、力が抜けるように、涙が出る。
「ああ、そうだな。俺思うんだけど、黒竜はずーっと一人で300階にいたんだろ。多分、デボラがやってきて、誰かがそばにいてくれて嬉しかったんだよ」
そう言えば寝言を聞くのも楽しかったと言っていた。
私はぼんやりと思い出す。
「そんなデボラに、ただ、元の世界に戻るのではなくて、幸せになって欲しいと願ったんだ。だから、デボラは今回みたいに自分を傷つけるんじゃなくて、大事にしてくれ。犠牲の上にある幸せなんて望んでない。ただ、俺たちと過ごして、幸せだと思ったら黒竜にも会いに行こう」
「ただ、幸せ?」
「そう、幸せって難しいようで、意外と単純なんだぞ。あと、レグスタインさんというのはこそばゆい。レグと言ってくれ。他のやつも「さん」はつけるな。」
私は頷く。
「レ.......グ、私、ギルド長にどう接したらいい?」
「普通でいい。それに......ギルド長は、お前が思うほど清廉潔白なやつじゃない。ソフィアを使ってデボラの能力を測ったこともだし、キリフとユリアのこともだ。
妻のために、ユニコーンの角を求め、なんとか治したい。そんなの美談に聞こえるが、本来はユニコーンっておとぎ話のような産物なんだよ」
「手に入らないと分かっていて、あえて私たちに依頼してきたということですか?」
「というよりは、手に入らないのを自分のせいにしたくなかったんじゃないかと思ってる。ユニコーンの角が手に入らなかったのは、キリフが見つけられなかったからだと。ユリアが亡くなったのは、キリフのせいだと......そんな心の準備をしようとしていたんじゃないかな」
心の準備は必要なくなった。
その代わり、ユリアさんは、助けられたことに絶望している。
その絶望を受け止める役割は、ギルド長しかいない。
結局、誰のせいにも出来ない。
二人のこれからは、二人にしか作れないんだもの。
「キリフ......は?大丈夫なのかしら」
「大丈夫......ではないな。だが、グレンから聞いたユリア殿は、キリフが想っていた頃の彼女とはかけ離れている。
あいつも、思い出から離れて、現実にユリアとどんな関係でいたいのかを考えないとな。ユリアは他人の妻なんだから」
そう言われると、本当に私の出る幕ではないと思う。
ギルド長の気持ちも、ユリアさんの気持ちも、キリフの気持ちも、自分で落とし前をつけないとすすめないんだわ。
レグスタインが握ってくれるその手は、私の気持ちはみんなで支えるからと言ってくれているようで温かかった。
◇
「すまなかったな。デボラには嫌な思いをさせてしまった。あんなに傷だらけになるまで、ユリアのために頑張ってくれたのに......」
「いえ」
とても居心地が悪い。
傷があったところには、今は包帯を巻き上げている。
すいません。治ってるんです。
大したことはありません。
そう言いたくなる。
だが、みんな私の代わりに怒りの表情を隠さなかった。
「ジーク、俺はお前も知っての通りユリアに想いを寄せていた。だが、あの時、ユリアはお前を支えることを選んだし、お前もユリアと共に生きることを選んだ。俺は新しい仲間と、やり直すことにした。今も、俺にとって二人は大切な仲間だ。でも、決別したあの日、俺たちの生きる道は変わってしまった」
キリフは、ギルド長の目を見て話していた。
何日か悩む中で、そう結論を出したんだわ。
愛する人との本当の決別をここでしたのね。
私は、じっと黙って聞いていた。
「ああ、デボラをユリアのために動かしてくれたのは、お前の最後の優しさだったと分かっている。それなのに、怪我を負わせて、ユリアはお礼どころか、デボラをなじるような声掛けをしてしまった。
彼女にとって、元気に動き回り、自分より若く、力量も上の女性をお前が選んだ。嫉妬もあったんだと思う」
「そんなに若いわけじゃないですけど......」
私は口ごもる。
なんなら一番年上だ。
318歳なんだから。
だが、ギルド長は笑ってプラチナカードを出しながら話す。
「いや、羨ましいほどに若い。そして、俺たちがちょうどパーティを組んでいた頃がデボラぐらいの歳なんだよ。俺たちは、貴族に産まれて、魔力もあって、みんなからすごいと言ってもらえて、挫折というものがなかった。
俺の挫折は、ユリアの気持ちがキリフにあって想いが叶わないと知った時だ。」
私は話を聞いて、きょとんとする。
「想いが叶わないときですか?怪我して冒険者ができなくなった時ではなくて?」
「ああ、今なら、世の中には思い通りにならないことの方が多いってわかるのにな。その時は、それが一番耐えられなかった」
ギルド長は、カードに手を置くように私を促す。
恐る恐るカードに手を置く。
今度は爆発しない。
そのまま、ギルド長は、プラチナカードを前に、魔法詠唱を始めた。
聞いたことがない詠唱だわ
そのうち気づけばカードには「デボラ=マッケンジー」と刻印が打たれていた。
「このカードは拾われても他のものは使えない。君だけのカードで登録してある。落としても君の元に戻る。その名前が......仮に偽名であっても...だ」
ドキッ
思わず表情が固まり、みんなの空気もピリッと緊張をはらむ。
「何を今更。君のような規格外、貧民街にいても目立ってしまうさ。出来ればギルド専属でスカウトしたいぐらいだよ。でも、このカードを持って行きたいところに行ったらいい。君の力は、仲間に守ってもらってくれ。」
「ギルド長さん......」
やっぱり、バレるわよね。
ソフィアさんのことといい、この家でのことといい、ユリアさんの治療といい......
「あと、君には恩ができた。困ったことがあったらギルドに来てくれ。もし枢機院に狙われるなら、世界中のギルドが全面に君を守る。どこに行っても匿ってもらえるようにしてあるから」
ギルド長は立ち上がった。
「みんな、すまなかった。世話になったな」
静かにギルド長は微笑んで、私に手を差し出した。
「デボラ、ありがとう。爆発はしない。お礼のこれからの未来を願って握手をしてもらえるかい?」
「わかりました。今後ともよろしくお願いします」
私は手を差し出した。
そしてがっちり握手した瞬間──
パンッ
私の手がギルド長の魔力を弾く。
私の方が圧倒的に強いからだ。
ギルド長に焦りが見られ、手を引こうとするが、私の方があらゆる上で強いのだ。
瞬間手を離そうとしたギルド長の手を私は固定する。
「リフレクト(反射)」
瞬時に、私は彼が私に何をしようとしたのかを探る。
すると、ギルド長のステータスや身体状況、技や、プロフィールが全部体の中に流れてくる。
そして───
えっ!!まさか!!
思わず目を見開き、ギルド長を見つめる。
そんなことって......
私は静かにギルド長の手を離した。
「はは......やっぱり、君のステータスを探るのは無理だったか。しかも、その顔は俺のことを知ったわけだ」
私は、思わず握手した手を自分のもう一つの手で、握りしめた。
「お前!!」
レグスタインが、ギルド長につかみかかり、殴り合いになる。
だが──
ギルド長は、レグスタインを突き飛ばす。
レグより力は上。
それは、今も健在......
ギルド長は告げた。
「デボラ、俺の負けだ。ちょっと好奇心が勝ってしまった。じゃあな」
ギルド長は、せつなそうな苦しそうな顔をして、去ろうとする。
(伝えなきゃいけない!)
私は声を出してギルド長に伝えた。
「ええ!調べるまでもない。私は、あなたより強いわ。だから、もし今度、あなたが私の仲間の敵になる時は、私はあなたをつぶしに行く。
もし、今度、一線を越えたら、あなたが大切に思うものも私は潰せる。それを覚えておいて」
その声は、私からギルド長へ、何があっても手出しはさせないという宣戦布告だった。




