23 みんなからのハグ
久しぶりに、出血して、毒を煽って、幻惑蝶と闘って、仮死状態になって.......
ちょっと盛りだくさんすぎたなあ
特に蝶が入り込むため、傷口を大量につけなくてはいけなかった。結果、出血多量で、これは想定外。
あと、女王蝶が私の心臓を狙いに来るのがわかっていたのに...
心臓を止めて、女王蝶諸共殺すために体から出さないようにする。ここまでは計画通りだけど、口を固く閉じて仮死に入ったから、レグスタインさんを危険な目に遭わせてしまった。
うーん、反省!
やっぱり300年眠っていると勘が鈍るのかしら?
私は、キリフの手で別室に運ばれると、すぐに空間バッグを開けた。
「レグスタインさん、すいません。念の為すぐ解毒剤を飲んでください」
私は解毒剤の瓶をレグスタインに差し出す。
レグスタインは、少し泣き腫らした顔で
「ありがとう。ありがたくもらうよ」
そう力なく微笑んで、解毒剤を口にした。
それを見てホッとして、私もハイポーションを取り出し、一気に飲み干す。
みるみる、身体中の傷は見えなくなり、服はあちこちに血が滲み、刃物で破れた跡だけが残る。
あとで、洗って血を抜いて、縫っておこう
せっかく買ってもらったのに、悪いことしちゃった。
私は、服の破れた部分を少しだけ指で触れて、服を整え直した。
「よし!これで、今度はユリアさんの体に幻惑蝶が残ってないか探知して、いなければギルド長からプラチナカードですね」
私は、みんなに微笑みかける。
だが──
「............」
みんなは誰も笑い返してくれない。
室内には重苦しい空気で、静寂が支配する。
困ったような、どうしたらいいかわからないような視線。
「あれ......?あの......私何かまたやらかしました?」
叱られる気はしていた。
仮死は300年前でも、師匠のオリジナル技で使える魔女はいないし、幻惑蝶の寄生の退治方法はホラーで、あまりおすすめできる治療法ではない。
でも、みんな助かったのだから大目に見てくれないかしら?
それとも、レグスタインを危険な目に遭わせたことだろうか?
彼は、このパーティーのリーダーだもの。
何かあればみんなが困ってしまう。
でも、口移しされるのは私だって想定外だったのよ。
「デボラ、すまなかった。俺はなんてことを君に頼んでしまったんだ。ユリアを助けたかったからって、仲間を危険に晒してしまった。本当に、すまなかった。」
キリフが、突然、目から大粒の涙をこぼす。
そして、落ちる涙も拭わずに、突然私を抱きしめてきた。
「へっ?」
私は、ユリアが助かって、一番喜んでくれるはずのキリフに泣かれて、どうしていいかわからず硬直する。
「ずるい!俺もだ!デボラが破茶滅茶な性格なの知ってたのに!今の時代のことをちゃんと教えて欲しいってデボラから頼まれてたのに!自分を傷つけて人を守ろうとするのは間違いだって俺は教えてなかった」
バインが、私を抱きしめるキリフの横から抱きしめてくる。
二人とも、もしかして、私の体を心配してくれたの?
いや、都合よく考えすぎかしら?
思わず、私は硬直する。
でも、ふときっとそうじゃないわねと考え直した。
「昔も自分を傷つけて人を守るのはいいことではないですよ。助け方として美しくないですからね。でも、幻惑蝶は、強い魔力に寄生する習性があるから、毒入りの魔力を吸わせるのが手っ取り早くて.......あはは」
心配してもらっているなんて勘違いだったら恥ずかしいし、必要な被害であることを伝えてみよう。
そして、二人から抱きつかれたこともあり、照れ笑いしようとした。
だが、ヘンケルからも涙ぐまれてしまう。
「それ、デボラ苦しいでしょ。どうして俺たちが、デボラが苦しい思いをすることをさせて、平気だと思うの?黒竜は、この時代にデボラに幸せに生きてもらいたいから俺たちに託したんだと思う。それなのに、デボラは俺たちのせいで痛くて苦しい思いをしちゃったじゃないか」
ヘンケルもバインとは逆の横側から、キリフや私を包むように抱きしめてきた。
何が?
何が起こってるの??
どうしたらいいのだろう?
みんなが喜んでくれると思っていたのに......
ユリアさんが助かって、良かったと言ってくれると思ったのに、どうしてみんなに泣かれてしまったんだろう?
私は強いのに──
どうしてみんな心配するの?
多分、心配してくれているんだよね。
その時......
「デボラ!無事ユリア殿は生還したぞ。意識もしっかりしてるし、大丈夫だ。
床の蝶をとりあえず片付けたほうがいいんだろ?俺の風魔法で......って......」
遅れて部屋に入ってきたグレンが、3人の男たちに抱きつかれている状況を見て、目を丸くし、固まった。
そして、震える。
「ひどい!俺、デボラから頼まれてたことを最後までやり遂げたのに、どうしてみんなデボラを抱きしめてんだよ!俺だって、そんなどさくさに参加したいぞ!!」
そう言うが如く、まるでタックルのように、グレンが後ろから飛びついて抱きしめてきた。
「デボラ、アレはなしだ!部屋は血まみれだし、蝶の死骸が大量だし、みんながデボラが死んでるとか、レグがデボラにチューしたとか叫んでるし!!頼まれたことやってたけど、今度は俺もデボラに付き添いたい。ユリア殿は、別に俺の仲間でもなんでもないんだからさ」
それを聞いて、チュー??と一瞬なんのことを言われたのか戸惑うが、ああっ!と先ほどまでの想定外を思い出す。
「レグスタインさんのはチューではなくて、私が女王蝶を退治するために口を開くことが出来なかったので仕方なくなんですよ。あれは、想定外で......ああ、もしかして!」
私はみんなを押し退けて、レグスタインの前に立つ。
「もしかして、私、レグスタインさんの唇を奪ってしまった!
だからレグスタインさん、先ほど、泣いてたんですか?すいません、あれは想定外だったんですよ」
私はパニックになる。
予定調和ではないことをどう理解してもらうか?
だが、レグスタインは、目を大きくして眉間に皺を寄せる。
「もしかして、仮死してまで唇を奪おうとする色仕掛けの一環と思われてますか?いやいや、猛毒飲んだ後ですからね。そんな色直掛けの仕方したら、下手すれば心中ですよ!」
「大丈夫だ。おそらく、誰一人色仕掛けとは思っていない。もっとも、グレンは、俺がどさくさに紛れたと思っているようだが.......」
ギロッとレグスタインは、グレンを見る。
「だって、レグ!俺は最初の部屋を見た後は、ずっとユリア殿につきっきりで、バインとレグの実況中継の叫びしかきいてないんだからさ。というか......あれ?デボラ、お前傷が治ってないか?」
グレンが、呆然とした顔で、私を見つめている。
グレンは、私を信じて、私が頼んだことをしてくれたのね。
ユリアさんに万能薬を飲ませてくれた。
これで、あと、私がユリアさんの体に蝶がいないことを探知して、いなければ完全に終わり。
私はホッとする。
「無事ミッション終了です。予定外に傷口が深かったり、出血が多かったので、ハイポーションを飲んでおきました。やっばりハイポーションは治りが早いですね」
そう伝えると、グレンの手がわなわな震える。
「デボラ!どうするんだよ!!そんな効き目のいいハイポーションはないよ!せいぜい、全部の血が止まるレベルだよ。ただでさえ、完治ができないはずの幻惑蝶の寄生から復活させたのに、ギルド長とユリア殿になんて言い訳するつもり?」
そう言われて、私はショックで固まった。
思わずレグスタインを見つめる。
「それでも、デボラが傷だらけよりはマシだ」
レグスタインはポツンと一言だけ、悲しそうな顔をしながら私につぶやいた。
ええっ!どうしよう。
同じところをもう一度切ってみようか提案しようと思ったのに、できる雰囲気じゃない!
明日も二回、9時10分と21時10分更新予定です。




