18 幻のプラチナカードがほしい
「まあそうやって、何を聞いてものらりくらりお前たちがかわす理由を作ってくると思ってたんだよ。だから、一番警戒していない時に、まずデボラがどれほどの腕の持ち主かを確認したかった。ところがだ!」
ギルド長は、腕と足を組み、じっと私を見つめる。
とても居心地が悪い。
言いたいことがわかっているからだ。
「ソフィアさんは.......故障してしまった」
私は呟いた。
いたたまれない。
心がないはずのカレンさんが、あんなにソフィアさんが壊されたことを怒っているのに、その原因は自分なのだ。
「ふん、そんなこと知ったことか。握手のタイミングであんなふうに目の前で故障されて、デボラは責任を感じてるしショックを受けたんだ。それなのに、わざわざお前が握手したから故障したんだと言いにきたのかよ」
レグスタインは、嫌悪を隠さず、今まで聞いたことがないぐらいドスを効かせた声を出した。
「レグスタイン様、刺殺しますか?」
カレンがスーッとレグスタインの横にやってきて、家庭用包丁を返せと手をクイッとさせてアピールする。
「おいおい、だから謝りに来たんじゃないか。こんなことになると思わなくて、デボラにもソフィアにも悪いことをしてしまったよ。おそらくだが......デボラ、君は相当強いし、かなりの魔力の持ち主なんじゃないか」
ギルド長が、レグスタインとカレンの反応にギョッとしつつも、その目は、少しの隙も見逃さないと言わんばかりに鋭く細く睨んでいる。
瞬時に、部屋に一斉に5人の男たちの鋭い威圧が室内に満ちた。
「帰れ!全然謝罪する気なんてないだろ。」
キリフが、ギルド長の襟元を掴み、他のみんなも一斉に立ち上がる。
私は...どう答えようか?
魔女であることを隠そうと思っているのに、5人にもばれているし、ギルド長からもすでに魔力が強いと疑われている。
完全な連敗中だ。
魔女であり魔力が高いことを隠せる気がしない。
「私は、計測したことがないので自分の強さは分かりません。ですが、もし自分が強かった場合、どうなりますか?」
結局、今後ダンジョンに入るにしても、ギルドを利用するたびに、力を測られることからは逃げられない。
ソフィアさんを壊してしまった今、ギルド本来のステータス測定器をもう壊すことは出来ない。
さすがに、数日で正体を隠し通す手段を思いつくのは無理だ。
私の声でキリフのギルド長を掴む手が少し緩まる。
ギルド長は、ほっとしたように、自身にかかるキリフの手を外し、居住まいを正した。
「ギルドは特に何かすることはない。高い能力ならそれに応じたランクカードを作るだけだ。ギルドにとって大事なのは、信用だ。それだけの力量を持っているのか?ちゃんと依頼を達成できるのか?利用者同士でトラブルを起こさないか?それだけだ」
「そうなのですか?」
私は首を傾げた。
魔力が高いからって、すぐ捕まるわけではないようだ。
むしろ......ギルド長に楯突いてまで、私を守る5人とカレンさんが心配だ。
「ただ......強すぎれば噂になる。噂になれば、中央まで情報がすぐ漏れるだろう。」
どうやらギルド長は、事情はわからないまでも、訳ありで魔力が強い女性という認識をすでに持っているらしい。
「それは......出来れば避けたいです」
そう小さな声で伝えてみた。
ギルド長は、はぁーっとため息をついた。
「そう思って、別室の防音設備が効いたところで能力を見てから話をさせてもらおうと思ったんだ。だが...正直ソフィアが吹っ飛ばされる強さとは思わなかった」
「あれは、想定外だったんですね」
「もちろんだ。ソフィアを危険な目に遭わせようなんて思うことはないし、デボラに失礼なことをしようと思うことはない。ダンジョンの素材の売買もみんなが注目しているから、防御も効かせた部屋を使った。ソフィアは戦闘能力も高い人形だから、受け取った素材も守れるからね。だが、それをあっさり上回った。」
そこまでギルド長は話すと、私の出方を待っているようだった。
「私の力量が、噂にならない方法は......ありますか?もし、ギルド長さんが言うように、私が強かったなら.......ですけど」
私は、レグスタインの反応を見た。
レグスタインは、少し目を閉じてどうするか考えているようだ。
強いパーティーと行動を共にして、ギルド登録をしなければ、それは何かがあるからだと噂になる
素直にギルドの登録をすれば、間違いなく現代の人とは違う数値が出る。
瞬間、仮死状態になることもできるが、ギルド長の見ている前で死ぬのは無理。
それに仮死状態のスコアの出方も想像できない。生存能力0と出たら、今度は人間ではないのかと疑われてしまう。
「うちに、利権を回してくれると言う条件で俺の特別カードを配給する。それならどうだ?」
ギルド長がそう発する言葉に、5人がギョッとする。
「特別カード?」
「ステータス登録をするときに、ステータスを取る必要もないとギルド長が判断したお墨付きのカードだ。これで強いと言うのは周囲に知られるが、何が、どのくらいというのは隠せる。」
そういうと、胸元から銀色のカードを取り出した。
「お、おい!プラチナカード!実在したのかよ?」
ヘンケルが恐ろしい物を見たようにカードを直視する。
「先ほども言っただろう?利権を回して欲しいって。今回のダンジョンの素材だって、どうせ枢機院のやつらが大半をせしめていく。例えば、一つ魔石があれば、凍えて死ぬやつも減る。それがあいつらは、支援する貴族に大量に贈るだけだ。もらったやつらはどうするかわかるか?」
5人は、下を向いている。
どうやら使い道がわかるらしい。
「魔石ですよね。魔力の代わりにつかうとして......薬か何か?ですか?」
「はっ、そうだよなあ。貧しければデボラみたいに使い道もわからないだろう。やつらはな、魔石を宝石にして、ドレスにたくさんつけるんだよ。」
「えっ?魔物の心臓を?」
悪趣味としか思えない。
かつて、ダンジョンに関わらず、魔物たちのせいで命を落とすものは多かった。
それは、今だって変わらないと思う。
それなのに、その魔物の心臓を飾る?
「では、魔石を優先的にギルドに卸せばいいということか?」
キリフが、眉をひそめながらギルド長に聞くと、軽く笑って
「さすがに、それだけなはずはないだろう?プラチナカードだぞ。俺だって、世界中のギルドから、何を聞かれてもデボラがそれだけの力量だったからだと話すわけだからな」
「ではなにを?」
珍しい魔石をたくさんただ納めたらくれるというわけではなさそうだ。
「ユニコーンの角が、至急欲しい」
「ユニコーン......は?おとぎ話かよ?そんなもの無理に決まってるだろう!」
レグスタインは、真面目な顔でそう答える。
だが──
5人の、そして、私の目は泳ぎ始める。
あるよね......
空間バッグから取り出して、ポキッとやったらミッションコンプリートだよね。
「ええと......もし、それをお渡ししたらどうなるんですか?」
「ユニコーンの角を渡せる可能性が.......何か手に入れられる算段があるのか?」
おずおずと聞く私に、ギルド長が飛びつくように、必死の形相で聞いてくる。
「あるわけないだろうが!お前、最初からそのプラチナカードを見せただけで、渡す気なんてないだろう!」
レグスタインは動揺を抑えながら、あるわけないという顔で演技し始めた。
ユニコーンが珍しいものなら、結局は、渡した後に、どこで手に入れた?という噂になるものね
私も、困ったという表情をしてみる。
「もちろん、ユニコーンの角が手に入ればプラチナカードは渡す気はある。だが、こっちも時間がない。妻が......妻の命がもう長くないんだ」
そう絞り出すような声を出す。
「ユリアが!どういうことだ。」
キリフが真っ青な顔で、ギルド長に詰め寄った。




