16 ギルドからの洗礼
案内された部屋には、幌馬車の板だけの席とは見るからに違う、革張りの品のいいワインレッドの椅子とピカピカに磨き上げられた天然石で出来た机が置かれていた。
ギルドには相当お金もあるし、いいものが揃ってるんだわ
そうはっきり分かる。
「楽に座ってくれ」
ギルド長が椅子に案内すると、笑顔の女性がお茶を持ってやってくる。
「あら?どこかでお会いしたことがあるような......」
思わず口に出る。
でも、思い浮かばない。
300年前の知り合いが生きてるわけはないもの。
気のせいかしら?
「自動人形だよ。レグのところもカレンがいるだろう。同じ工房で作られた人形だ。接客専用と言いたいところだが戦闘能力も高い。」
そう言われると、なんとなく顔立ちがカレンさんと似ている。
カレンさんは、とても優しいけど愛想はない。
こっちの方は、常に笑顔だ。
きっと接客専用だからね。
ただ...なんか聞きなれない言葉が──
「戦闘能力?」
不思議そうにしている私に気づき、ギルド長はその女性を呼び止めて、私の前に立たせる。
「お嬢さん、ギルドは初めてなんだね。」
「はい。デボラ=マッケンジーと申します。今日は、ギルドに初めての登録をするために来ました」
私はギルド長に頷いた。
「ギルドは血気盛んなやつが多いんだよ。金も絡むから、トラブルも多いし、血が流れることもある。仕事に絡む話なら、力づくで止めなければならないし、強盗だって普通にあるからね。そんな時に彼女、ソフィアの戦闘能力は頼もしい」
ギルド長は、そう笑ってソフィアを紹介する。
「デボラ様、カレンがお世話になってます。カレンは私の兄弟人形のような存在です。」
そう、笑顔で手を差し出した。
「はじめまして、私こそカレンさんに良くしていただいてます。」
私も、差出された手を握り返すために、手を伸ばし、握手した。
その瞬間──
手を通じて、ソフィアの手から激しい魔力が飛び出てくる。
パアアアアアアーン
まるで何かが激しく破裂するような音
激しい魔力を感じた瞬間──
私は、建物が吹っ飛ばないように、そして中の人が守られるように、瞬時に防御を部屋全体に張り巡らせる。
激しい風圧と熱風から、昨夜、付与と素材をつけたばかりの服が私を守る。
部屋は破壊せず、私とみんなも無事だったが、ソフィアさんは.......
「ソフィアさん!ソフィアさん!!」
ソフィアの体が異常高温となり、パチッパチッと体の関節などのあちこちの部分に火花が散る。
「強制停止」
ギルド長の声が響き、ソフィアの体は停止。
動きも火花も止まり、焦げ臭い匂いと煙が立ち込めた。
その焦げ臭いに、私はかつて火炎砲を喰らって助けることができなかったかつての仲間の死に際を思い出し、震えが止まらなくなる。
「いっ......いやーーーーっ!」
頭を抱え、苦しんで火の中で亡くなった仲間の最期の声と、焼けていく臭いが頭に浮かび、過去のフラッシュバックで混乱しそうになる。
思わず力が抜けそうになり、
「あ......あ...」
声にならない声が、私を支配した。
レグスタインとキリフが私の異変に慌てて、背後に引っ張る。
「おい、ジーク!どういうことか説明してもらおうか?」
キリフの低い声と、睨みつける視線がギルド長に注ぎ込まれる。
「何で?私はソフィアさんと握手をしようとしただけなのに...どうして?」
握手をしようと......
押し寄せてきた魔力.....
瞬時に跳ね返してしまった。
私のせい?私のせいでソフィアさんは...
自分が原因でトラブルが起きて、ソフィアさんが壊れてしまった。
そのショックに、体が硬直する。
「ふう、これだけの防御を瞬時に貼るような人間そういねえよな。デボラちゃん、この部屋を心配してくれたんだろうが、ここは防御を貼らなくても、常に防音、防御、密閉された空間で被害は出ないから安心したらいい。
俺の方が、どういうことか?いろいろ聞き取りたいんだがな」
そう睨むように、ギルド長はレグスタインとキリフを睨んだ。
その瞬間、キリフの拳がギルド長の頬に決まる。
体が大きいので吹っ飛ばされることはないが、それでもみるみる間に頬は腫れていき、唇の端から血が滲んだ。
「大丈夫、絶対俺たちがついてるからね」
グレンとヘンケルが左右を、後ろにバインがスタンバイして私を囲む。
しばらくピリピリした空気が続き、ふーっと息を吐き、ギルド長が手をあげる。
「確かに、いまのはこっちの落ち度だ。ちゃんと話すから、みんな一度警戒を解いてくれ」
だが、その声が遠のいていく。
足元の感覚が、冷えて分からなくなっていく。
私のショックは取れず、私はそのまま意識を消失する。
そして、気がつけば再びベッドの中だった。
◇
昨夜、みんながギルドで冒険者登録をして、正式にパーティーメンバー登録も済ませようと言ってくれたのだ。
「登録が済んだら、体調が戻り次第、君の望みを一つづつ一緒にかなえさせて欲しい」
そうレグスタインが声をかけてくれた。
望みは、みんなが帰りたかった思い出の地を、みんなの代わりに巡ることだ。
5人を巻き込むのは申し訳なかったが、何もわからないし、買い物一つ出来ない自分にとって、魔女であることを隠さなくていい人たちがそばにいるのは心強い。
そう思っていたのだが......
「ギルドで登録をするにはステータスの確認が必要になる。力量に合わない人が、危険な依頼を受けないための制度で、場所によっては入場を規制される場所もあるんだ」
「ステータス確認はどうやって?」
自分の力なんて測ったこともない。
少し興味があるが、今の時代にそぐわない結果はいただけないのはわかる。
とはいえ、入れない場所があるのも困る。
出来れば、ギルドというところに登録しておきたい。
「専用機械に手を当てるんだ。魔女というのはバレないが、高い生存力や魔力、能力は見られてしまう。それを回避したいんだけどどうしようか迷ってる」
レグスタインは目を閉じていろいろ考えを巡らせているようだ。
私も、力を隠す手はないか思案する。
そうだ!
「少しぐらいの時間なら死ねますけど?」
「は?」
また、何が言い出したぞ!
そんな顔をしているので、慌てて否定する。
「少しです。1分とかです。生きているものに反応する魔物も時々いて面倒な時に生存本能を停止させるんです。でも、酸素が回らなくなるので1分です」
「息止めるってこと?」
「いえ、ちゃんと心臓も止めます」
「却下」
レグスタインはとんでもないと、眉間に皺を寄せた。
「じゃあ、瞬時に機械を壊しましょうか?そうすれば、値は出ません」
「それしかないかなあ、でも、毎回壊すわけにはいかないぞ」
「次の時までに、値が低く出るような道具を作ります。」
私は胸を張って答える。
「本当に作りそうだから怖いんだよな......でも、今回は壊すしかないか」
そう言っていた記憶が、じわじわ思い出されてきた。
それなのに、私は、ソフィアさんを壊してしまった。
「結局、防御結界を張ってギルド長さんには疑われるし、ソフィアさんは...」
私は項垂れる。
強制終了に火花が散るソフィアさんの体──
「デボラ様、ソフィアなら痛みも苦痛もありません。怒りも悲しみもありません。なんでしたら、ビルダーに修理して貰えるのでリフレッシュするでしょう。ただ、ビルダーにとって、ソフィアも私も娘同然。ギルド長に返すかは別問題!」
カレンのエプロンから無意味に家庭用包丁が出される。
「ギルド長!感知!刺してきます!」
「えっ!」
カレンが、すーーーっと音もなく、包丁を直角に持ったまま部屋から出ていく。
それと同時に家のインターホンの鳴る音が......
まさか!!
「カレンさん!!ダメです!ダメーーーッ!」
私はベッドから飛び起き、カレンを追った。




