15 手を出す?決闘のことですか?
「わぁ、空にたくさんの絨毯が舞ってます」
数日前に、もう乗るものかと思った空飛ぶ絨毯が、空を何枚も行き来している。
私が幌馬車の空間から思わず身を乗り出して空を見上げる。
土埃とふわっと吹く風にグレンから借りて頭から被ったローブが風でふわりと翻り、金髪がでそうになるので急いで体を馬車に引っ込めた。
「陸路は安全性が少し落ちるから、絨毯が手に入る人たちは空を飛ぶことが多いんだ。」
そう説明するグレンに、なるほどと私は頷いた。
魔女狩りが本格化する前は、魔女は古式の箒を自分で作り飛んでいたんだけどな。
今見ると、誰も単独で空を飛んでいないわ。
魔女狩りが始まってからはみんな、空を飛ばなくなった。
引き継ぐものもいなければ、失われた遺産になってしまったのかもしれないわね。
箒......便利なんだけどな。
ちらっとグレンを見る。
グレンは魔法使いだから、こっそり教えたら飛べるようになると思うのだけど...
今朝も指先から魔力を出す練習をしたのだ。
すぐ魔力がなくなるが、昨夜よりは少し魔力を伝える距離が伸びた。
これで、魔力枯渇するキワキワを狙って、マナポーションを飲むことを繰り返せば、魔力も増えると思うんだけど......
でも、グレンが箒で飛べるようななったら、どこで飛び方を教えてもらったんだと言われちゃうわね。
もう一度空を見る。
飛べない人から見た景色は、今の私が空飛ぶ絨毯を眺める景色と一緒だったのね。
便利そうでいいなと思うものもいれば、あいつらだけずるいと思う人たちもいたのかもしれない。
目線を、幌馬車の中に移す。
道が悪く、とても揺れるので、こっそりみんなを5ミリほど浮かせて乗っている。
そう、こっそりだったのだ。
5ミリだと周囲の人は誰も気づかないからね。
でも、みんなはすぐ気づいたみたい。
キリフは、こめかみがひくひくしてるけど、レグスタインは穏やかに微笑むのみだ。
それでも、バインは思わず「うわぁ」と嬉しそうに声を上げるものだから、ヘンケルにガツンとゲンコツを喰らっていた。
幌馬車も乗合馬車でぎゅうぎゅう詰め──
5人が私を囲ってくれているので、周りから何かを聞かれることはないが、若い女性で乗っているものは誰もいない。
妙に視線だけ痛い
「おい、そこのお嬢さんは空飛ぶ絨毯を見たことないのかよ」
「俺たちがもっといいものを見せてやろうか」
下卑た笑いを見せて笑い声を出す男たちに、思わず私は、レグスタインの服を握りしめる。すると、レグスタインが男たちを睨みつけた。
「えっ!レグの旦那」
「うわ!死んだんじゃなかったのかよ。他にも...閃光の頭のメンバーじゃねえか!」
男たちの目が泳ぎ出す。
「すいません、旦那たちのお客とは思わず。珍しいっすね、幌馬車を使うなんて」
手のひらをかえしたように笑ってくる。
「新しく来たパーティーメンバーに、この国のことを教えているだけだ。」
レグスタインが、そっけなく答えると、パーティーのことを知っていた人たちからざわめきが起こる。
「ええっ!パーティーにそのかわいこちゃん、いや...女性を入れるんですが?もしかして、その手を......専門とした...娼婦」
「はあああっ?」
ヘンケルが睨みつけると、みんな私から目を逸らす。
「先のダンジョン探索で彼女に命を助けられた。素晴らしい弓使いでね。これで、俺たちのパーティーは空中戦がしやすくなったんだ」
レグスタインが穏やかに、わざとみんなに聞こえるように話すと、なるほどと言う空気が幌馬車の中を支配する。
ここにいる人たちは、おそらく他の人たちにも聞いた話をばら撒くのだろう。
「ああ、【閃光の頭】は弓はいなかったんですね。強いから、そういうイメージがなかった。でも、相当な弓使いなんでしょうに、この国では見たことがない顔ですね。他国で重宝がられてたタイプですか?」
「彼女は、恵まれない家庭で暮らしていて、ギルドの登録料が払えない環境で野良冒険者として活躍していたんだ。だが、腕は確かだよ」
「ああ......ギルドの登録料は高いもんな。貧民街だと払えないかもしれない、それはこれから大出世だな」
最初は下卑たような笑いだった男たちも、仲間を見るような、気の毒そうな顔に変わる。
私もイメージを良くしようと思い、
「デボラです。18歳になります。よろしくお願いします」
そう、微笑みかけると、男たちの顔は真っ赤に染まり、レグスタインは慌ててローブのフードを深くかぶらせる。
ん??何も見えない。
「そんなわけだから、デボラに手を出す奴は俺たち5人を相手にしてからだとみんなに伝えといてくれ」
レグスタインのそんな声が頼もしい声に私は首を傾げる。
手を出すって──
多分、そういうことよね。
私に、決闘を挑もうとするってことよね?
私は、先ほどの馬車の男たちを思い出す。
根は悪くなさそうだし、別に5人を相手にしてから戦わなくても、戦うだけなら10秒で勝てると思うけど......
うまく時々やられないと、魔女バレするのかしら?
わざと負けるような練習も必要なのかしら?
どの程度、うまくやられたらいいのか今度聞いておこう。
そんなことを考えながら、幌馬車は街に向かって進んでいくのだった。
◇
「ここが、ギルド」
入った瞬間、歩く場所すらなく、雑踏の中で騒がしかったギルドの空間が一瞬シーンと静まり、無数の視線が突き刺さる。
「閃光の頭じゃないか!」
「久々に見た。あの巨大ダンジョンを踏破したという噂は本当だったのか」
「うわぁ、じゃあ、近いうちにあそこのダンジョンのお宝がでてくるってことか?」
コツコツコツ
レグスタインたちが歩き出す音が床に響く。
それと同時に、人々のざわめきが「興味」から「畏怖」へと変わっていくのを肌で感じた。
5人はこの世界で強いんだわ。
だったら、私は??
人の声が再び大きく聞こえる。
「おい、あの子誰だ?」
「ええっ!女の子だよな。いよいよ閃光の頭に女の子が入るってのは本当なのか。ありゃ、他の女に恨まれるぞ」
そう、耳に入ってビクッとする。
出来るだけ顔を覚えられないように、フードを深く被る。
ギルドでなければ認識阻害もかけられたんだけど──
「閃光の頭!無事によく帰還したじゃないか」
廊下の奥から、威厳のある声が響く。
そして、その声は有名な人の声らしく、ギルド内がシーンと静まり返った。
そこには、5人よりさらに大きく、鍛え上げた胸筋を意味なくピクピク動かすマッチョがいる。
そんな体だが、年はキリフより上かもしれない。
「ギルド長、久しぶりだな」
レグスタインが爽やかな声を出す。
「ジーク、お前、相変わらずだな。」
キリフは嫌なものと会ったような顔をする。
この人が、このギルドの長──
私は、気合を入れて、唇を噛み締める。
そんな耳元でヘンケルが囁く。
「キリフの前のパーティーの仲間だ。怪我で冒険者は引退して、今はギルド長をしていが、腕はレグより上だ」
それを聞き、キリフがギルド長に遠慮がない理由を悟る。
「おい、そこのお嬢さんは初めてだな。へえ、中央から閃光の頭が女の子を加えるという噂が流れていたが......いや、失礼。俺は誰かの彼女になった子を入れるのかと思っだそういうわけじゃなさそうだな。別室で話そうぜ。ダンジョンのいい物、持ってきてるんだろ」
ギルド長は、私の顔に、自分の顔を近づけてニヤッと笑う。
なんだろう?
すでに何かを見透かされているような気持ちになるんだけど、私、まだ何もしてないよね。
落ち着かず、私は、ギルド長であるジークの顔を直視できない。
思わず、視線を他に彷徨わせてしまう。
そんな私の様子を見ながら、ギルド長は
「さあ、入った!入った!」
そう手招きしながら、奥の部屋の扉を開けた。




