人生と宿ってのは似たようなもんなんだよ
寝床に金を掛けて生活を質素にするか、生活に金を掛けて寝床を適当にするか
現代風に言えば、ソシャゲに課金して食費切り詰めるか否かって事ですよ(適当)
早いところ宿を探したい、コレはお互い一致してるんだけど、そういや俺らってばこの辺というか王都に土地勘が無い。
とは言え、別に宿って言ったって極端な話、メシが食えるかもしれない寝床って考えしかこれまたお互いに無いワケで。
「ぶっちゃけ寝れるならどこでもいいんだよなぁ俺はなぁ…」
「というか私なんて元々魔獣なんだし、最悪魔獣形態に戻れば床に毛布でも敷いたら寝れるわよ」
「俺も一応サバイバルの心得はあるし、火と竹と布があればその辺の草原でも十分寝れるし」
「……ニンゲンなのにいい寝床を欲しないってのも中々珍しいヒトね……」
「高級な寝床がイコール心地よい眠りをもたらすかと言われればそうじゃないからな」
…一度父親の会社の慰安旅行だかに家族で参加した事があったんだけど、その時の宿がすっげぇハイクラスなホテルだったんだよ。
ベッドも「何が入ってんだコレ」ってぐらいふっかふかの最高級マットレスだったらしいんだけど、ふっかふか過ぎてなんか気持ち悪くなって寝付けなかったんだよね。
いやーあの浮遊感はキツいっす!
「うちの父親が言っていた。『人生と宿ってのは似たようなもんなんだよ。一生懸命働いた金を寝床の為に使うのか、生活の為に使うのかってところがね』と」
「どういう事?」
「究極的な言い方をすると、宿ってのは寝る為だけの場所なワケだ。数時間の活動をせずに身体を休めるだけの時間の為に金を掛けたいと思うのか、残りの時間の為に金を掛けるか。前者は安心と休息を買えるし、後者はゆとりと経験を買える。どっちを選ぶかは人それぞれって事だな」
『マイホームの為にローン組むか、ローンより安い賃貸で差分を趣味に当てるか』って話を、異世界のソラにしても分かんないだろうからなぁ…
そして父親はどうしてその話を『7歳の俺』にしたんだろうなぁ…
持ち家は大事、それを持ってる私は凄いだろう?とでも言いたかったんだろうか。
最後は灰燼と化したワケだけどね、文字通り。
「つーワケで、どっかしらで評判のいい安宿の情報を聞かなきゃならんな。こういう時だけ頼るのはアレだけど、こんな場合の情報収集のテンプレと言えば…」
予想外にも金は驚くほどあるんだけど、コレはまず俺らの装備類につぎ込まなきゃならんからなぁ…。俺は武器と魔法耐性アクセがあるから後は防具程度なんだけど、ソラがこのまま人間形態で行くんなら装備一式揃えなきゃならんし。
かと言って値段だけで宿を選んだら痛い目を見るのが異世界異文化の基本。情報はどこでも武器なんだなぁって実感するわ。
なんせ自分のレベルが適正かどうかすら分かってなかったからな!
「……やっぱり『あそこ』だよなぁ……どうせ行かなきゃならん場所だし、パパパッと行ってサササッとやってスススッと聞いてさっさと寝よう」
「擬音が多すぎて何をどうしてるのかさっぱり分からないわよ…?」
「まぁとりあえず行こうか……『冒険者ギルド』に」
やっぱ冒険者ギルドだろうなぁ、その手の情報って。
いくら王都のギルドとは言え、初心者ってのが存在しない場所は無いだろうし、多少なりとも初心者支援の情報ぐらいあるもんだろ。
そして冒険者ギルドに行くとなると、出てくる可能性が高いテンプレも一緒に付いてくるんだけど……どうしてくれようか。
「…なんで冒険者ギルドに行こうって言うだけでそんな表情になるのかしら…?」
「よく聞くんだソラや。世の中にはな、初めて行く特定の場所には『お約束』とか『テンプレ』ってものがほぼほぼ必ず存在するんだ。お兄さんはね? それが大っ嫌いなんだよ。面倒なんだよ。そこから色々といらぬ人から目をつけられたりするんだよ。平穏なんて言葉が一瞬で吹き飛ぶんだよ。もうのんびりしたくても出来ない状況に追い込まれた(架空上の)人間を何人も目の当たりにしたんだよ俺は…」
「ニンゲンって『めーよ』ってのが好きなのじゃなかったのかしら? ユウトは『めーよ』が欲しくないの?」
「…名誉なんて一切欲しくないね。名誉ってのは、貰った瞬間から『この人はこうあるべきだ』っていう『義務』が発生するんだよ。一つでもそうでないような事をすれば、自分を知らない他人から勝手に『なんてふざけた人間なんだ!』って手のひらを返される。…それになにより…」
「なにより?」
「『名誉』を理由に、赤の他人を助けるなんてまっぴらゴメンだよ、俺は」
ドラゴンを倒せたから、お前はドラゴンが出た時にはその剣を振るって人々を救えだの、絶対に俺は嫌だ。
『助けて』って言ってくれれば助けるし、そもそも気まぐれで誰かを助けるかもしれないけど、『出来た事』を『やらなきゃならない』でイコールで勝手に結ばれる環境なんてクソくらえだわ。
俺は誰かを助ける為に冒険者になるんじゃないんだし。
「…というワケで! 俺が平穏に過ごせるよう事を円滑に運ぶ為に、やらなきゃならん事が一つ出来ました」
「え?」
「衛兵詰所まで戻りましょう。そしてシューゾさんに伝言をお願いするのです」
『冒険者ギルドで俺を待ってろ。さもなくば登城してやんねぇぞこのヤロウ』
ってな!




