事情説明 ~自称勇者様の場合~
僕の名前は田中遼、この春から県内の高校に通うピカピカの高校一年生だ。
勉強は上の下、運動は上の中、容姿は上の下の下ぐらいだなと思う。自分で言うのもなんだけど結構モテる。彼女も何人かいたけど、何故かあまり長続きしないんだよねぇ…。どうしてだろ?
まぁそんな事は置いといて。
その日も僕は近所に住む凄くツンツンした幼馴染の可愛い女の子と学校へと通っている真っ最中だったんだけど、いきなり僕の真下に謎の魔方陣が現れた。
幼馴染は僕から離れていた為、魔方陣にはどうやら巻き込まれないで済んだみたい。そしてその魔方陣に飲み込まれかけている僕はと言えば、『コレはもしかして異世界への召喚なのか?』と若干ワクワクしていた。
よくラノベを読むんだけど、こういうパターンでは『異世界に勇者として召喚されて、魔王を倒してくれと言われて、仲間達と共に世界を平和にする』ってのがテンプレだったハズ。戻ってこれるかどうかは分からないけれど、どうやら僕はその異世界に必要とされているに違いない。
そしてその魔方陣に完全に飲み込まれる前に見えた光景は、どういうワケか凄い黒い笑顔で僕を見下ろしている幼馴染の姿だった。
「ようこそ勇者殿、我こそがお主をこの世界へと召喚した国王である」
気が付くと、僕の前にこれまたテンプレでよく見かけるような小太りの偉そうな人が立っていた。そして予想通りこの人が国王のようだ。
…しかし、異世界のハズなのに言葉が通じるのは本当になぜなんだろう? まぁご都合主義と言われれば納得するけどね。
「お主にはこの国の東にて大量発生しておる魔物の一掃を任せたい。出来れば断らずに了承してくれるとありがたいのだが…」
…魔物! やっぱりココは異世界なんだ! 凄い…やっぱり僕は勇者としてこの異世界に召喚されたんだ! ラノベの主人公みたいだ!
「魔物討伐?! 勇者?! 僕がですか?! ハイ、お任せください! 僕が魔物はもとより、魔族や魔王までも倒してご覧に入れましょう!」
「そうであろう、やはり断るのだな?それならば仕方が無い、お主にはとりあえずこの能力強化の腕輪を……うん?」
願っても無い空想の世界の住人となった僕に、この話を断る理由が存在しなかった。国王様が何やら言っていたみたいだけど、僕は魔王を倒して名実共に勇者になる運命をもたらされたんだ! こんな僥倖見逃すワケが無い!
…でも、何故国王様はもとより、魔術師っぽい格好をした人達もキョトンとしてるんだろう? 普通ならもっと喜ばれたりするものじゃないの?
「そ、そうか、了承してくれるか。では、お主は王国に属する身としてこの国に忠誠を尽くし、勇者としての力を存分に振るうがよいぞ」
「ハイ、分かりました!」
さぁ、僕の勇者ライフはこれからだ!!
…と意気込んで数週間。皇子殿下や皇女殿下などとも親しくなったし、ギルドでもいくつも依頼をこなしてどんどん成長している。ただギルドの方からは『勇者様が強すぎて周りがついていけない為、出来る限り依頼はソロで受けていただきたい』とのお達しがあった。
まぁ実際同伴してた冒険者さんは、言っちゃなんだけど僕より弱いからちょくちょく怪我したりするし、異世界召喚で身体能力が上がったからか、僕メッチャ強いししょうがないよね。
あと訓練は意図して受けてないんだ。だって元の世界にいた時に通信空手習ってたし、動画とか漫画で居合いとか拳法とか見て形を覚えてたから、僕はそれを使い続けて行きたいんだよねぇ。カッコイイじゃん、通背拳とか居合い抜きとかさ!
で、今回は商隊護衛の任務を受ける事にした。なんかこういうのも異世界のテンプレだよね! 今までは魔物退治がメインだったけど、こういう護衛から何か始まるような気がするんだよね、恋とかそんな感じのがさ!
とは言え、この辺じゃ僕に敵う人もいないし、目的地に向かう上で困難になりそうな場所が『野獣の森』とかいう名前負けしてる雑魚しかいない森。これは余裕で終わらせて、先の町でなんかお買い物とかしようかなぁ? 皇女殿下に似合う髪飾りとかあったりしたらいいなぁ。
というワケで護衛任務が始まったんだけど、森に入ってしばらくしてからいきなり顔を隠した何者かが現れたんだ。
「わ…俺たちゃここらじゃ名のある近衛…じゃない盗賊団だ!怪我したくなけりゃあおとなしくしてな!」
…これぞテンプレ! 盗賊に襲われる商隊、そこにいる勇者! 助けたらこの商隊にいたあの可愛い女の子も僕に惚れるに違いない!
なんて罪作りなテンプレなんだろう! 僕には皇女殿下という愛する人がいるというのに、コレを機会にまた僕の事が好きな女の子が増えてしまうだなんて!
「商隊の皆さんは馬車に避難してください! ココは僕にお任せを!」
あぁ…一度言ってみたかったんだよなぁ、このセリフ! ホントヒーローっぽいよねぇコレ!
「何だこの自惚れたクソガキ? 見ろよオイ、あいつの剣の構え方! あんだけカッコつけたセリフほざいておきながら、重心もフラフラの超ド初心者じゃないか! こんなふざけたクソガキ、痛い目に遭ってもらわないと世の中分からないみたいだなぁ……野郎共、商隊は後回しだ、あのクソガキを殺せ!」
そう言って盗賊達が襲ってきたんだけど、この盗賊凄い手強い…!
僕の剣を受け流したり紙一重でかわしたりってのはさておき、連携が凄くて全然倒せない! そして的確に狙ってくるから、こちらも手数が稼げない。
でも、僕は勇者なんだ! 一人ごり押しで吹き飛ばせば状況は変えられる!
「おっとそこまでだ! クソガキ、お前護衛対象をほったらかしにして前線に上がってくるたぁ馬鹿極まりないな。お任せを、だなんて啖呵切っておいてこのザマだ。おおっと剣を置きな! そして地面にうつ伏せになってろ。人質が殺されたくなかったらなぁ!」
…しまった! 盗賊達に誘導されて、馬車から離れすぎてしまった! どうやら女の子が人質として捕らえられてしまったようだ…。ご両親は命からがら逃げ切ったようで、体勢を立て直した僕の横で『娘を返せ』だの騒いでいる。
…絶対に僕が助けるから、出来れば耳元で騒がないでほしいんだけど。
いちいちこの程度で騒がれると集中が出来ない……そうだ!
「お二人さん、お嬢さんは僕が助けます。だからちょっと眠っててください、集中出来ませんから」
僕は漫画で見た『首裏にトンと手刀を当てて気絶させる』を父親の方にやってみる事にした。やった事は無いけど大丈夫でしょ、漫画だとあんなに簡単に気絶させられてるんだから。
トン…
とやりたかったのに、力加減を思いっきり間違えてしまった。
父親の首が、刃物で切られたように、ストンと落ちた。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアア! あなたぁぁぁぁぁぁぁ!」
あぁ…! ぼ、僕が殺してしまった…!? い、いや違う! 僕が間違ったワケじゃない! こ、この母親の方は……そうだ、お腹を殴って気絶させる方法もあったし、そっちで気絶させよう!
でも、結局、失敗した。僕の右手が母親のお腹を、貫通した。
「お前…何をして…」
「あいつ…心底頭狂ってるんじゃねぇのか…?!」
「目の前で…子どもの目の前で親を…鬼畜にも程がある…!」
違う! 僕が悪いんじゃない! そ、そうだ、人質を取ったお前達がそもそも悪いんだ!
僕はただ気絶させて馬車に寝かせておこうと思っただけだ! それなのに、脆いこの人達も悪いだろ!
ちくしょう…! せめて女の子だけでも助けて、こいつらを倒せばこいつらのせいに出来るハズ!
「せめてお前たちだけでも倒せば…僕は悪くなくなるんだぁぁぁぁぁ!」




