「高千穂・ガールズバウト」#2
マンモスうれピー奈と申します!
学業との両立を目指し『毎日投稿』を目標に掲げているので、応援の程よろしくお願いします〜〜!
※本作はカクヨム様にも重複投稿しております。
茹だるような暑さの中では蝉をも憔悴しきっており、そのせいか、手に持ったレジ袋の中にはアイスが複数顔を覗かせていた。
いつもより奮発して購入した合い挽き肉と、パン粉や玉ねぎなどの食材の数々はズシリと重く、体がへたる暑さも相俟って重力がより鬱陶しく感じられる。
初めてイチコちゃんに手料理を振る舞うといった状況に、気分とついでに会計も高揚してしまったが、二人分の食材費はこんなものだっけなと気を持ち直した。
この狭い街にはスーパーが三軒ほどしか営業しておらず、イチコちゃんのアパートへの帰路はそこそこ距離がある。対して私の家からは近かったため、買い物がこんなにも重労働であることを久しぶりに思い出すのだった。
道すがら公園のベンチが視界に入るも、この陽射しが照りつける中で休憩を挟むといった考えは芽生えるはずもなく横目で過ぎ去る。ましてや20歳といい年齢なのに短時間のうちに何度も踏み入るわけには……あぁ昨晩は結局、公園に行こうとはしたが死体との運命的な出会いがあって断念したんだっけ。
犯人もこの暑さに参って殺人など辞めてはくれないだろうか。冷房の効いた部屋で時代劇でも見た方がよっぽど有意義だと思うのだけど、殺人犯はその名の通り、殺人といった凶行に精を出しているわけで。どうにか殺害意欲は減衰できても、その行為自体を辞めさせることは不可能かもしれない。
どうすれば人を殺すのやめてくれるかなーとか呑気に考えるが、いかにこの猛暑で脳細胞が死滅したとて犯罪者の頭と共鳴することは、私もそれに成り下がることを意味する。
将来は犯罪者じゃなくて、イチコちゃんの飼い猫、いや撫子さんに養ってもらうのもいいなと空想を膨らませていると。
通りがかった空き地から、ガルルルと興奮した犬の鳴き声が聞こえてきた。
なんだなんだとそちらを見遣ると、女の子が大きな野犬に襲われている。
見たところ女の子は小柄で、中学生だろうか。瞳には負けん気が宿り、横たわりながらも握り拳で必死に対抗している。けれどもその反撃は犬には蚊が止まったほどにしか感じられないのか、体格差が如実に優劣へと表れていた。
そこで格闘技の観戦よろしく戦況を分析している場合ではないなと気づき、「ちょっと、大丈夫!?」と声をかけながら近づいて、手に持っていた袋を犬に向けて振り回す。
袋は犬の鼻先を掠め、それ以降は空振りに終わるものの、警戒してかそいつは私たちから距離を取る。
そのまま対峙していると数的不利だと判断したのか、大仰に鼻を鳴らしてどこかへ走り去って行った。
その場に取り残された私と小柄な女の子。ひっくひっくと嗚咽を漏らしていて、その姿に幼き日の妹を重ねてしまう。胸がざわつくが首を突っ込んでしまった手前、最後まで面倒を見ようと「災難だったね。怪我はない?」と声をかける。
てっきり「怖かったぁ」と泣きつかれる等の反応を想定していたのだけど、涙目ながらもキッと睨みつけるような視線を向ける女の子に「余計なお世話です」と凄まれて萎縮してしまう。
「あ、そう」とそのまま立ち去っても良かったが、泣いている女の子、それも中学生くらいの年頃の子をほっとくのも体面が悪いなぁと考え、めげずに話しかける。
「えーっと、どこか痛むところはある?」
「だから余計なお世話だと言っているんです。勝手に首を突っ込まれて、正直迷惑です」
「……そっかぁ、お姉さん余計なことしちゃったかな?」
そういうお年頃なんだろうなと思い、大人の対応を心がけた。まあ色々あるよね、プライドとか。
「勘違いしないでください。この涙は痛みや恐怖由来のものではなく、負けてしまった悔しさで出ているんです。言うなれば、甲子園で敗退した球児と同じ」
一町内会での子どもの涙が高校球児が流すそれと同等なわけあるか。
それでも私は「そっかそっか」と笑顔を作り、労わるためにその子の頭を「えらいねー」と撫でる。
しかしその手はバシッと弾かれて、女の子は「子供扱いしないでください」と牙を剥く。
「あたし、高校生ですから」
思わず「えっ」と目を見開いてしまう。
女の子はそんな反応を受けて、「やっぱり、高校生だと思ってなかったですよね?」と目敏く詰め寄ってきた。
「それくらいの年頃かなって思ってたよ? 顔は大人びてるし」
私は慌てて誤魔化すが、女の子は呆れたように「はぁ」とため息を吐いた。なんだか撫子さんを彷彿とさせるリアクションだな。
改めてその子の容姿を眺めると、着ているパーカーは(いくらオーバーサイズがトレンドとはいえだ)体格に適しておらず、土埃を被ってはいるが髪には天使の輪が輝いている。
その姿を認めても、やっぱり中学生にしか見えないなと思う。
「高校一年生かな?」
興味でつい出てしまった質問は蛇足でしかなく、再度睨まれて「二! 二年生です!」と眼前に指が突き出されてしまう。その子は不機嫌な様子だったが、次第に表情に陰りが見え始め、「こんなんだからいつまで経っても犬にすら勝てないんだ……」とボソリと嘆く。
「……ん?」
その発言に違和感を覚えた。なんだか、犬と戦うことを望んでいるような物言いだな。
「もしかして、犬に襲われていたんじゃなくて自分から喧嘩を挑んだの?」
自分から聞いといて、いやまさかなと思っていると、「そうですよ」と女の子はあっさり肯定してしまう。
「強くなるために、動物を見かけたら勝負を挑むようにしているんです」
「なんでそんなことを?」
「……お姉さんに関係あります?」
女の子は冷たく言い放つと、立ち上がってパンパンと土を払った。その拍子に手が繊維で擦れたのか、「痛ったぁ」と顔をしかめる。
手を見ると噛まれたのか、はたまた引っ掻かれたのか、血がポタポタと滴り落ちていた。
「手、出血してる」
「え?」
指摘されるまで気がつかなかったのか、女の子は遅れて手の方に視線を向けて「わっ」と驚く。
たしか家に消毒液と包帯を備えていたっけ。でも未成年の女の子を家にあげるのもな。
「君、家は近いの?」
「まあまあ遠くですけど」
その返答を皮切りに、家に帰って取ってくるか、と方針を定めた。
「私、家に帰って治療するもの取ってくるから。ここで待ってて」
ペースダウンになるからと持っていたレジ袋を地面に置き、小走りで自分の家へと向かう。
女の子は袋の中身を気にして、「お姉さんこの袋、生物入ってますけど!」と叫んでいたが、気にせずスピードを早めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます✨
負けん気つよつよ女子高生、高千穂ちゃんの登場です!
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※次回の更新は、『11/4 19:00&19:10』を予定しております。




