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夜爪を切る、足元を黒猫が横切る、目の前に死体が横たわる。  作者: マンモスうれピー奈


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「高千穂・ガールズバウト」#1

マンモスうれピー奈と申します!

学業との両立を目指し『毎日投稿』を目標に掲げているので、応援の程よろしくお願いします〜〜!


※本作はカクヨム様にも重複投稿しております。

「あーーー!」

 赤ちゃんチックに発せられたイチコちゃんの声量は安眠を妨げるには十全ではあるが、冬でも熊でもない夏の人間の私は、しかし依然として冬眠の姿勢を崩さなかった。

「やばいやばいどーしよう!」

 布団を剥ぎ取られてゆっさゆっさと揺さぶられても、今の私は揺り籠のようにしか感じられない。薄く目を開けると、ほらベッドメリーが見えてきた。

「ねぇクロちゃんいい加減おきてよー! 私、困ってるんだよ!?」

 淡い日差しはレースカーテンで遮光され、弱々しい光の膜が顔をくすぐる。私はそこでようやく、現実と対面することを選ぶ。

「……どーしたの?」

 湿度が低いとどうにも目覚めが悪くていけないな。

「どうしたもこうしたも割り下もないの! すき焼きもないの! 私、寝坊しちゃった!」

 独特の言い回しで自身の危機を表明するイチコちゃん。

 今日はまだ水曜日だっけ。ならイチコちゃんも授業があるのか。

 当然、私もあるけど。

「いちこちゃん、いまなんじ?」

「もうお昼だよ? ミヤネ屋も終わっちゃうんだよ? ぽかぽかしてる場合じゃないんだよー!」

 んー、ということは三時過ぎくらいか。それにしてもイチコちゃん、地域のニュースを知らない割に、全国区の情報番組は見るんだ。視座が高いのはいいことだね。

「なに、落単ギリギリとか?」

「ちがうもん! 私の無遅刻無欠席記録が途切れちゃったの!」

 出席日数のニューレコードが狙えなくなっちゃった、と嘆くイチコちゃん。

 二回生になるというのに、そんな記録まだ続いてたんだ。私は初年度の四月に早々に頓挫したよ。

 きっと、昨晩あんな光景を目にしたことが関係しているのかな。

「それはショックだね」

 よしよしとイチコちゃんの頭を撫でる。

 かく言う私も、四限と五限があるんだよね。急いで準備すればギリギリ間に合うって感じか。……でもなぁ。

「きっと疲れてたんだよ。今日はさ、美味しいもの食べたりして家でゆっくり過ごそ?」

 私のサボる名分を立てるため、悪魔の囁きで誘ってみるが、イチコちゃんは「うーん」と顔をしかめる。

 思案するように数秒固まっていたが、「やっぱり今からでも大学行ってくる!」と決意を口にして身支度を始める。

 バタバタとメイクを施すイチコちゃんは、ベースメイクを済ませ、涙袋とリップだけなぞって作業を終わらせた。

 その程度でも更に可愛さに磨きがかかるんだから美人って得だなぁと眺めていると、「いつもと違うことばっかで気持ち悪い」とイチコちゃんは悶え始める。

 なるほど、普段のメイクはもっと時間をかけているように見受けられるしな。

 その後、「大丈夫、今でも十分かわいいよ」「……ほんとに?」とカップル御用達の会話が展開され、身支度を終えたイチコちゃんを玄関まで見送る。

「それじゃ気をつけてね」

「ありがと。クロちゃんはさ、私が大学行ってる間はなにして過ごすの?」

 えーとそうだな。アイスを買いに行かないとだし、ついでに晩ご飯の食材も買ってくるか。

「買い物に行って、それから夜ご飯でも作っとくよ。なにか食べたいものはある?」

「クロちゃん、猫なのに料理もできちゃうんだ」

 イチコちゃんは、すごいねぇといったように目を細める。

「……うん、まあね」

 イチコちゃんに猫と認識されることはまだ慣れない。会話は噛み合っているのに、言い表せないちぐはぐ感が尾を引く感じだ。

「それなら私、ハンバーグが食べたいな」

 私の葛藤を知る由もないイチコちゃんは、「こーんなおっきいの!」と両手で丸を作る。

 そこでこの家の調理器具を確認していないことに気づくが、ハンバーグくらいならどうにでもなるかとリクエストを受け入れる。

「分かった、楽しみにしてて。それじゃ、行ってらっしゃい」

「行ってきまーす!」

 バイバイと手を振るイチコちゃんに釣られるようにして、掌《てのひら》を胸元まで上げた。


 私たちはもっと違う出会い方があったのだろうか。

 それでも飼い猫と飼い主として出会ったことも、二人揃って寝坊したことも、長い目で見ればきっと意味があるはず。

 良いことをもたらすか悪いことをもたらすかは、後々分かることだけど。




 扉が閉まったのを確認すると、私はリビングに戻り手早くテレビを付けた。全国区の情報番組から、地元のテレビ局のものにチャンネルを合わせる。

 もし昨晩の死体が発見されたとの報道を目にすれば、恐らくイチコちゃんの海馬は刺激を受ける。それは何としてでも避けたかったため、一人でニュースを視聴する必要があった。

 しばらくは商店街でのロケ映像が流れていたが、スタジオが切り替わるタイミングでニュース報道へと移行した。昨今この街を騒がしている事件であるためか、最初に求めていた報道が為される。

『 今日午前九時頃、西宮市の元工場の建物で、二十代の女性が血を流して倒れているのが見つかり、その場で死亡が確認されました。

 女性の首には絞められた痕があるほか、刃物で複数箇所を刺されており、警察は今月19日から行われている殺人事件と関連して捜査を進めています。

 警察の検死によりますと、死亡推定時刻は昨日の午前四時ごろと見られています。西宮市での殺人事件の発覚は今週に入って三件目であり──』

 そこでテレビの電源を切る。

 へー、なるほどね。この思い付きの真偽を確かめるためにも、今日からパトロールを実行しなきゃ。

 それにしても、殺人は早朝に行われているのか。となると見つかっていないだけで、もう既に四体目が作られちゃったりしてるのかも。

 買い物のついでに死体でも探すかと思い立ち、そこでいま自分を纏っている服装に意識が向く。

 ……いくらなんでも、真昼間から寝巻きで外出するわけには行かないか。

 私は着ていた薄手のパジャマを洗濯機に放り、無断でクローゼットを開け放つ。

 ちょうどつい先程のイチコちゃんのように身支度を済ませ、適度なラインまで風貌を整える。

 黒のカットソーとデニムパンツといった装いは、スーパーに行くには充分かと満足できるものだった。同性が同棲相手だと、服の貸し借りができて助かるね。

 何度か姿見で全身を確認した後、財布を持って部屋を出た。

最後まで読んでいただきありがとうございます✨


投稿するの忘れておりました。大変申し訳ございません…!


これからの展開に興味を持ってくれた方は、ブックマークや⭐️など応援していただけると嬉しいですっ!

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