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夜爪を切る、足元を黒猫が横切る、目の前に死体が横たわる。  作者: マンモスうれピー奈


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6/10

死体邂逅 ──あるいは死体願望

マンモスうれピー奈と申します!

学業との両立を目指し『毎日投稿』を目標に掲げているので、応援の程よろしくお願いします〜〜!


※本作はカクヨム様にも重複投稿しております。

 コンビニを出て少しすると突然、「なんか変な臭いする」とイチコちゃんは独り言のように言い放つ。

「……え?」

「クロちゃんは感じない? なんか腐ったような、酸っぱい臭い」

 私はふるふると首を横に振るも、イチコちゃんはあっちの方からする、と廃墟も同然の雨風をただ浴びるだけとなった建造物を指差し、「うーん」と首を捻る。

「まぁいっか。アイス溶けちゃうし早く行こ」

「……悪いけど、先行ってて」

 なんとなく嫌な予感がして、アイス入りの袋をイチコちゃんに押し付けて件《くだん》の建物を視界に捉える。

 ベニヤ板を何枚も繋ぎ止めたような風貌の建物は、前身が想像できないほどの廃墟と化していて、近づくとどこかおどろおどろしい印象を覚えた。

「どうしたのクロちゃん。もしかして、おトイレしたくなっちゃった?」

 イチコちゃんは、「あんま遠くに行っちゃだめだからねー」と呑気に声を張り上げていて、相変わらず暗所での意思の疎通は困難ではあるが、外で待機しているようで一安心だ。


 扉の名残と見られる、四方にくり抜かれた穴をくぐり抜けると、そこはアマゾンだった。

 ……まさかそんな現実逃避がまかり通ることもなく、靴越しに伝わる硬い感触と不快感を催す饐《す》えた匂いは、およそアマゾンとは対極の無機質なコンクリートの空間なのだけど。

 空気の通り道が限られているのか、建物内は熱と湿度とついでに不快感が充満し、だからこそ臭いの原因となる「なにか」の腐敗が進行しているのか、と柏手《かしわで》を打ちたい気分だった。

 いやいや。いくら死体製造業が新しい産業としてこの街で産声を上げている現状を加味しても、この臭いの原因となるのがそれとはまだ限らないでしょ?

 だいたい有機物かつ炭素を含む物質なんて、ローランド式取捨選択法を用いればこの世の有象無象の二割五分もあり、ましてやこの腐臭の出処が人間と言い切れる根拠は何ひとつない。

 うん、そうだよね。落ち着いてきた。

 なるべく肺の空気を循環させないように深呼吸して。

 スマホの電灯機能を起動させた。

 あーー気のせいであれ気のせいであれ気のせいであれ。


 死体があった。人間の。


 私と同年代くらいの女性が、コンテナボックスを六つほど列《つら》ねて作られた簡易的なベッドに仰向けで寝かされていて、おびただしい量の乾いた血が床を赤黒く染め上げていた。

 服は上下ともに脱がされており下着姿で、刃物の刺し傷とみられる刺創《しそう》が離れた距離で確認できるだけでも、首と腹部と足首の複数箇所にある。

 その惨状を目にして、皮膚を突き破るのではと錯覚するほど心臓が乱高下し、勘弁してよとこの場に居合わせてしまった不幸を嘆く。

 死化粧をしていない遺体を見るのはこれが二回目だった。初めては一年前、妹の亡骸を。

 当時と比べると、この女性とは家族ではなく他人という間柄のため心理的な負担はいくらかマシなのだけれど、心音は加速していくばかりで。

 だからこそ、自然とこの考えに至った。

「わたしが、なんとかしなきゃ。私が、」

 だって私には護りたい人および恒常的な暮らしがありだって警察は妹を助けてくれず死体はお題目で逮捕の時も完遂した喜びが勝っていてだから。

 だったから、だからこそ。

「私が捕まえるんだ、犯人を」

 冷静になれ、私。もう二度と大切な人を奪われないように、こんな形で害意を発奮する殺人犯の自由を奪うために。

 そのためには。

 脚の震えを堪《こら》えて遺体に近づき、その細部を確認するために屈む。被害女性は、見たところ年齢も体重も私とそう変わらない気がする。

 服を脱がされ外気に晒された肌は青白く、頸動脈と腹部、足首、それと脇にも深い刺傷がある。加えて、首には縄状の締め跡が未だにくっきりと残っていた。

 気になる点は、首を絞めた痕《あと》があること、わざわざ脱衣させていること、刺突数が過剰なことの三点かな。

 脱衣は刃物を刺すためになされたとして、首の締め痕と無数の刺傷はどういうことだろう?

 どちらか片方でも確実に死へと至らしめられるのに。

 そもそも、刃物で刺す必要性はなくないか?

 死因は恐らく絞殺だろう。外から死体が置かれているこの位置までに血痕がないことが、それを裏付けしている。

 つまりは、犯人は屋外もしくは屋内で被害者を絞め殺し、この位置まで運んで服を脱がした上で、わざわざ刃物で刺したということだ。

 殺害した後に刃物で刺したのは私怨のため?

 いやそれなら縄状の道具を使わず、自らの手で為した方が殺す実感が湧かないだろうか。

 それならまだ、犯人は小心者で確実に絞殺できたか不安になり、保険として刃物で何度も刺したと考えた方が納得できる。

 ……死体を既に二つも作ったというのに? 人の生き死にが判別できないほど未熟なの?

 それか殺人犯が複数人、もしくは模倣犯《もほうはん》がいる可能性がある?

 うーん、このまま考えてても埒《らち》が明かない。

 更なる情報を得るために、私は靴下を脱ぎそれを両手に被せる。指紋が残らないよう手袋代わりにして、ご遺体の手足に触れていく。

 試しに手足を引っ張ってみるが、彫刻のように固まっていて動かない。関節が曲がらないことから、死後硬直がピークに達していると考えられる。とすると、死亡推定時刻は昨日の夜から今日の早朝にかけてかな。

 素人が確認できることは、精々このくらいだね。

 都合よくダイイングメッセージが残されていたり、犯人を突き止めるためのキーアイテムなんて物がその辺に落ちてる道理もなく、この情報だけで犯人をプロファイリングして行くしかない。

 そろそろ引き上げるか、と立ち上がったところで。

「クロちゃん遅いよー! こんなとこで…………なっ、に、これ……?」

 イチコちゃんの声がした瞬間、この惨状を見せないために慌ててスマホの電灯を切るが手遅れで。

「イチコちゃん、来ちゃダメ!」

 私は叫ぶも、死体を目にしてしまったのか、イチコちゃんは次第に震えが止まらなくなり、ガチガチと歯が噛み合わなくなっている。目は虚ろで、死体と私の顔を交互に見つめる。

「えぁええくろちゃん、のしたい? しぬ、しんでるのくろちゃんん? ええでもいきてるほうのくろちゃんもいて、」

 イチコちゃんは錯乱している様子で、どうやら死体がクロちゃんに見えている?

「イチコちゃんしっかりして。私は、クロちゃんは生きてるよ」

 駆け寄り、イチコちゃんの恐怖で冷えきった手を私の頬にペタペタと触れさせる。

「〜〜〜〜〜〜ッ!」

 限界だった。イチコちゃんは声にならない金切り声を上げると、体は重心を失ったようにふらつき前から倒れそうになる。私はその肢体《したい》を支えるため、慌てて正面から抱き留めた。

「イチコちゃん?」

 多分、気を失ってるだけだよね? 試しに肩をぽんぽんと叩くも反応が見られない。

 最後にもう一度、朽ち果てた女の子へと視線を送ってから、糸が切られたように動かなくなったイチコちゃんを背負って死体が寝転ぶ建物を後にした。




 部屋に着くと、イチコちゃんを無垢《むく》で純白で清麗な(これ以上の描写は省略)ベッドに寝かしつけた。

 布団をかけてやると、暑苦しいのか時々顔をしかめゴソゴソと身を捩《よじ》らせはするが、やがてすやすやと寝息を立て始めるイチコちゃん。

 私は凝った肩を解しながら歯磨きをして、ドロドロに溶けたアイスの包装を摘んでもったいないなーと嘆く。

 明日にでも新しいものを買いに行って、古いやつは私が食べればいいか。

 口をゆすいだ後、融解したアイスを冷凍庫へ入れているとその物音に反応してか、ガバッと布団が捲られる。

 その方を見遣ると、青ざめた顔のイチコちゃんがベッドカバーを掴んだまま、ぷるぷると体を震わせている。

「イチコちゃん」

 声をかけて駆け寄ると、イチコちゃんは私の姿を認めてか、「あれ……くろちゃんいきてる……?」と小声でひとりごつ。

「しんだくろちゃんといきてるくろちゃんがいて……そのあと、どうしたんだっけ……?」

 尚も錯乱しかけるイチコちゃんを落ち着かせるように、私は横からギュッと抱き寄せた。

「大丈夫、大丈夫だから」

 子供に言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す。

 暫《しばら》くそのままでいると、次第に安心したのか、イチコちゃんは私の腰に腕を回して抱き返してくれた。

「クロちゃん、今日はこうして寝てもいい……?」

 か細く甘えるような声音のイチコちゃんに、私は「いいよ」と返事をする。

 そうして抱き合ったままベッドに横になり、照明の光から遮るように布団を頭から被った。

 私の胸に収まったイチコちゃんは上目遣いをして、ねだるようにお願いを口にする。

「クロちゃん、今度はずっと傍にいてね。離れないでね」

「うん、約束する」

 甘い匂いを漂わせるイチコちゃんの頭を撫でながら、密かに決意を心に誓う。

 彼女を護るためにも、私が犯人を見つけなければ。

最後まで読んでいただきありがとうございます✨


ついに死体とご対面! イチコちゃんの錯乱ぶりも気になります!


これからの展開に興味を持ってくれた方は、ブックマークや⭐️など応援していただけると嬉しいですっ!


次回更新は『11/3日、19時00分&19時30分』にそれぞれ1話ずつ投稿します!

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