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夜爪を切る、足元を黒猫が横切る、目の前に死体が横たわる。  作者: マンモスうれピー奈


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「イチコ・シークレット」#2

マンモスうれピー奈と申します!

学業との両立を目指し『毎日投稿』を目標に掲げているので、応援の程よろしくお願いします〜〜!


※本作はカクヨム様にも重複投稿しております。

 食の好みの違いに気づくのが同棲の始まりであれば、歯ブラシを買いに夜出かけるのも同棲の始まりなのかもしれない。

 時刻は十一時を指し示す頃、暗い夜道を、イチコちゃんに手綱を握られながらお散歩デートに興じていた。


 イチコちゃんが歯ブラシの備えがないことに気づいたのは入浴後で、既に借りたルームウェアを肌に纏《まと》っていた私はそれでもコンビニ行きを決意した。

「コンビニで買ってくる」と告げると、欲しいものでもあるのか、イチコちゃんは「私も行く!」と同行を申し出てくれた。

 ドレミファソラシドと一オクターブ駆け上がるまでもなく、お遣いくらい一人でこなせるんだけど、私。

 巷《ちまた》では連続殺人事件なるものが近隣住民の反対を押し切り敢行されているが、なにかあれば護ればいいかと楽観的に考えて、「じゃあ一緒に行こっか」と快諾。

 尚も深夜のコンビニデートといったシチュエーションに浮かれていた私は、イチコちゃんに「外は車とかで危ないからね」と着けられた首輪とリードによって、現実へと引き戻された。

 私にとってはデートだけど、イチコちゃんにとってはお散歩に該当されるらしい。

「こんな装いのカップルは標的にされないか」と持ち前の後ろ向きポジティブ思考を発揮することで、どうにか前を向いた。



 今夜は雲の層が薄いのか、輪郭がはっきりとした月がさめざめと光の雫を垂らしてくれている。

 ちょうど夏休みシーズンで虫捕りに適した夜だというのに、この街の現状を鑑みると許可する親はいないだろう。なにせ、この街では虫ではなく殺人犯の捕《と》り物劇が行われているのだから。

 一昨日、昨日と一人ずつ死体が発見されて、この街の過疎化は確実に進行している。

 それにしては昨夜も今夜も、巡回している警官が一人も見当たらない。私が知らない内に事件は収束したのか、それとももう起きないと日和見《ひよりみ》しているのか。

 どちらにしても妹の事があった手前、警察は当てにならないと踏んでいた。

 まぁ殺人鬼のことは、実際に出会《でくわ》してから考えればいいわけで。

「クロちゃん、そこ真っ直ぐじゃなくて右だよ」

 考えごとをしていたら、イチコちゃんの声で現実へと引き戻された。ついでに首もぐいっと。

 どうやら私の家とは最寄りのコンビニが異なるらしく、イチコちゃんはそこ右そこ左と、道を手とり足とり舵とり教えてくれている。

 とはいえ首輪とリードといった形状的にも先行するのは私の役目で、少しでも歩調を早めると首が締まるため気を張り巡らす行路となった。

 ついでに今の私は暗闇下で「黒猫のクロちゃん」と化しているため、文句を発したところでイチコちゃんには伝わらない。

 殺人鬼による殺害よりも、イチコちゃんによる絞殺の方がより身近に迫る危機なんじゃないかな。

 そうしてイチコちゃんと歩幅を揃えることに注意しながら歩いていると、前方から前触れなく人影が現れる。

 癖のある銀色の長髪を揺らめかせて緩慢な足取りで歩くその女性は、私の首輪を見てフッと笑うが、すぐに視線を外して前に向き直る。

 話しかけられなかったことに胸を撫で下ろしながらも、首輪でお散歩してる変人カップルに話しかけてくるのは同じく変人だけかと考えを改める。

 それにしても綺麗な女性だったな。ダウナーな雰囲気で、なにか影がありそうな人だった。ああいう人が犯人だったりするのかも。

 その後ろ姿を見送っていると気づけば曲がり角に差し掛かっていたようで、「クロちゃんそこ左」とまた進路を正される。

 前方の注意を怠っていたからか、前から来た人にぶつかってしまった。

「わっ、すみません」

 ぺこりと頭を下げる私に、気にするなとばかりに一瞥《いちべつ》をくれた女性は首輪が巻かれた首元を見て硬直し、「なんや自分ら。そんなけったいなもん身につけて」と関西弁で声をかけてきた。

 警戒しながら視線を送ると、高い部分にまとめた金髪と真っ赤のジャージといった目立つ出《い》で立《だ》ちの女性が気怠そうに佇んでいた。

 やや前傾姿勢ではあるが背が高くスラッとしていて、全体的に肉付きの薄い印象を抱く。

 反面、顔立ちははっきりとしていて、切れ長な目は気の強さを感じさせた。

 美人さんだな、と心の中で呟く。

 こちらの警戒心を感じ取ったのか、「ごめんやで、急に話しかけてもうて」と砕けた調子で話しかけられる。

「いえ、思わず話しかけたくなる装いだと思いますし」

 金髪の女性は、「そうやな」とケラケラ笑う。

「うち二階堂いう者やけど。自分らは?」

「イチコって言います」

「……クロです」

 質問された手前、無視する訳にも、更にはイチコちゃんといるため本名を名乗る訳にもいかず、迷った挙句「クロ」を名乗ることにした。

「そうか。イチコちゃんと、パツキンの方のねーちゃんはクロちゃん言うんか」

 あっ、まずい。

「え……? 二階堂さん、クロちゃんとお話できるんですか?」

「……? そりゃできるよ」

 まずいまずいまずい! 自分で課した枷だけど、こんなにも早く苦しめられるとは。

 イチコちゃんが疑念を抱かないように、慌てて口を挟める。

「えーっとですね、説明は難しいんですがこの子は私のこと猫に見えてて。なので猫と喋れる体でいてくれると大変助かるんですが」

 破れかぶれでほらこれ、と首輪を見せてお願いすると、二階堂さんは「ほー」と物珍しいものを見たように感嘆し、「まあええわ」と承諾してくれた。

「そうそう、うち猫ちゃんとお話できるんよ」

「へー! すごいですね、私は猫の状態のクロちゃんとはお話できないのに」

 なんとも奇怪な会話が展開されて、私は冷や汗が止まらない。

 案の定、二階堂さんは顔いっぱいに疑問符を浮かべているし。頼むから何事にもルーズで大らかな人間であってくれ。

 その願いが通じたのか、「あー自分ら、こんな夜中にどこ行くんや」と別の話題でお茶を濁してくれた。

「知っとるやろうけど、ここ三日間、毎日人殺されとるから危ないで」

「そうなんですか? 私たち今からコンビニに行くんですけど、危ないですかね」

 もしかして、イチコちゃんはこの街で殺人事件が起きていることを知らないのか……? 大学で誰かしらが話題にあげてそうなものだけど。

 とはいえ私も詳細を知っている訳ではないし、人のことをとやかく言えないか。

「そういう二階堂さんは、どこかお出かけですか?」

 私は興味本位で質問を返す。二階堂さんは片手をポケットに突っ込んではいるが、見たところ大きな手荷物はないようだった。

「大人の遊戯してきた帰りや。わかるやろ」

 二階堂さんは、「これやこれ」と左手をドアノブを回すかのように回転させる。

 大人の遊戯というと……もしかして、私と同じ性的趣向の方なのだろうか。

 となると、あの手つきは女性の胸をまさぐっているようにも見えなくはない。

「えぇわかります。女の子を手篭《てご》めにしてきたんですよね」

「そうそうマヴいねーちゃんとイチャコラ……ちゃうわボケぃ!」

 キレの良いノリツッコミだなぁ。心地いい。

 しかし今の質問は相手が生粋の関西人だったから助かったけど、令和の時代にセクシャリティの話を持ち出すのは本当によろしくない。

 よくよく考えてみると、手を回す動作をする、いま大人がハマっている遊戯なんて一つしかないじゃないか。私もまだまだ教養が足りないな。

「失礼しました。ガチャガチャですよね、最近流行ってますし」

「そうそうめじるしアクセサリーを求めて二、三軒……ちゃうわアホォ! パチンコや、わかるやろ!」

「すみません、まだ未成年なもので」

 本当は20歳だけどね。どこに沸点があるか分からない初対面の相手には、真空状態を構築して着火できない環境を作るほかない。

 イチコちゃんは、そんな私たちのやり取りを不思議そうに傍観していた。

「あぁそうなんか。なら尚のことはよ帰りや」

 二階堂さんは大人としてすごく真っ当な気遣いをしてくれる。私は「えぇそうします」と答えながら、最後に気になったことを聞いてみた。

「パチンコ、当たったんですか?」

「ぼちぼちや。その代わり、えらいイイモン見せてもらったし今日は帰るわ」

 二階堂さんはひらひらと手を振って、背を向け悠然と去って行った。

 イイモン……私たちのことを言っているのかな?

 まぁ美男美女ならぬ美女美女カップルだしねっ。

 グニャリとひしゃげた後ろ姿を見送っていると、「なんだか変わった人だったね」とイチコちゃんはぽつりと呟く。いやいや私たちには負けるでしょうよ。




 首輪を外してからコンビニに入り、歯ブラシとお泊まりで必要なあれやこれやを物色していると、「ねぇねぇアイス食べながら帰ろーよ」となんとも魅力的な提案を受ける。

 イチコちゃんが持つカゴの中には既にカップアイスが入っていて、既に買う気満々といった様子だった。

 思わず顔が綻んだ私は「いいね」と短く同意し、溶けちゃう前にと適当な棒つきアイスをカゴに投げ入れた。


「五点で2645円になります」

 レジは無感動に数字を羅列して、さももっともらしく財布を出すがイチコちゃんに「いいよ私が払う」と止められる。歯ブラシと衣類は自分が使用するものだし、これからお家に住まわせてもらうし、と尚も食い下がる私に、「クロちゃんの飼い主だから私が払うの!」とイチコちゃんは乱暴にお札を置いた。

 店員さんは「飼い主」という単語に反応するかのようにピクリと頬を震わせたが、「355円のお返しです」と何事もなかったかのように接客を完遂する。

 釣り銭を受け取るイチコちゃんに、「ありがとう」とお礼を言うと、自慢げにむふーと鼻を鳴らされた。

「クロちゃんは猫なんだから、大人しく私に養われてたらいーの! そのためにバイトもしてるんだし」

 えへんと誇らしげに胸を張るイチコちゃん。

 悪いなーと思いながらも、女の子に養われるといった初めての経験に喜びを隠せない。

「私のはカップだし、公園で座って食べよーよ」と肩に撓垂《しなだ》れ掛かるイチコちゃんに、「そうしよっか」と同意した。一日に二箇所も公園に行くなんて、まるで小学生みたいだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます✨


パチンコ好きの二階堂さんに、ダウナーな銀髪お姉さん! ようやく役者が揃いつつあります!


これからの展開が気になるよって方は、ブックマークや⭐️など応援していただけると嬉しいですっ!


次回の更新 → 『11/3 12:00』 を予定しております。

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