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今日も、たぶん平和じゃない  作者: RieL


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第四十二話 いつもより少しだけ

 土曜日。


 駅前は、休日らしく人が多かった。


 綾乃は改札を出たところで、辺りを見回していた。


「綾乃」


 後ろから声がして、振り返る。


「あ、松寺くん」


 優太が歩いてくる。


「待った?」


「ううん。今来たところ」


「そっか」


 優太が笑った。


「映画、何時からだっけ?」


「十一時半」


「じゃあ、まだ少しあるな」


「うん」


「どこか見てく?」


「いいね」


「綾乃、行きたいとこある?」


「え?」


「前に気になるって言ってた店とか」


「あ……」


 綾乃は少し考える。


「ある」


「じゃあ、そこ行こう」


「いいの?」


「うん。時間あるし」


「やった」


 綾乃が嬉しそうに笑う。


 優太も、つられるように笑った。


 *


 店を見て回っていると、綾乃がふと足を止めた。


「これ、かわいい」


「ほんとだ」


「前に見たときも気になってたんだ」


「そうなんだ」


「でも、今日は映画もあるし……」


「あとでまた見に来れば?」


「え?」


「映画終わってからでも時間あるだろ」


「あ……そうだね」


「気になるなら、ゆっくり見ればいいじゃん」


「うん」


 綾乃は嬉しそうに商品を見る。


 優太は、その隣で待っていた。


 急かすこともない。


 別の場所へ行こうとも言わない。


 綾乃が満足するまで、ただ待っている。


「ごめん、待たせた」


「別に」


「見てるの楽しかった?」


「うん」


「じゃあよかった」


 二人は店を出た。


 映画館へ向かう。


 *


 映画館に着く。


 チケットを確認してから、二人で売店の前に並んだ。


「何飲む?」


 優太が聞く。


「うーん……」


 綾乃はメニューを見上げる。


「どれにしようかな」


「俺、これにする」


「じゃあ……私も同じにしようかな」


「いいよ。別に合わせなくても」


「うん。これ美味しそう」


「じゃあ、それにしな」


「そうする」


 二人で注文を済ませる。


 綾乃が受け取った飲み物を見ていると、優太が笑った。


「それ、前にも飲んでたよな」


「え?」


「この前、一緒にいたとき」


「ああ。そうだっけ」


「うん」


「よく覚えてるね」


「そう?」


「うん」


 綾乃は少しだけ不思議そうに優太を見る。


 優太は特に気にした様子もない。


「行こう」


「うん」


 *


 映画が始まる。


 二人並んでスクリーンを見る。


 途中。


 面白い場面があって、綾乃は思わず笑った。


 隣を見る。


 優太も笑っていた。


 目が合う。


 優太が小さく笑う。


 綾乃も笑った。


 それだけなのに。


 なんとなく嬉しかった。


 *


 映画が終わった。


「面白かったね」


「うん」


「私、あのシーン好きだった」


「ああ、あそこな」


「そうそう」


 二人は映画館を出ながら、感想を話す。


「松寺くんは?」


「俺は最後のほう」


「意外」


「何で」


「もっと最初のほう好きそう」


「どういうイメージだよ」


「なんとなく」


「適当だな」


 綾乃が笑う。


 優太も笑った。


「でも、来てよかった」


 綾乃が言う。


「うん」


「楽しかった」


「俺も」


 優太は少しだけ綾乃を見る。


「じゃあ、また行こう」


「うん!」


 綾乃は嬉しそうに頷いた。


 その笑顔を見て。


 優太も自然に笑った。


 *


「さっきの店、もう一回行ってみる?」


 映画館を出て、優太が言った。


「え?」


「さっき気になってたやつ」


「あ……」


 綾乃は目を丸くする。


「覚えてたの?」


「うん」


「じゃあ、行きたい」


「じゃあ行こう」


「うん」


 二人で、さっきの店へ向かう。


 綾乃は目的の商品を手に取った。


「やっぱりかわいい」


「まだ迷ってる?」


「ちょっと高いから」


「そっか」


「なくても困らないし……」


「でも、欲しいんだろ?」


「うん」


 優太は少し考えた。


「じゃあ、買って後悔するかどうか考えたら?」


「え?」


「今買ったら、あとで『やっぱりいらなかった』って思うかもしれないんだろ?」


「うん」


「だったら、買ったあとに後悔するか、買わなくてあとで後悔するか、どっちが嫌かで決めればいいじゃん」


 綾乃は商品を見つめる。


「……それなら」


「うん」


「買わないほうが後悔しそう」


「じゃあ、買えば?」


「うん!」


 綾乃は笑って、レジへ向かった。


 店を出る。


 綾乃が紙袋を持っていると。


「貸して」


「え?」


「持つよ」


「大丈夫だよ」


「いいから」


 優太が自然に袋を受け取る。


「でも……」


「ちょっと重いだろ、それ」


「ありがとう」


「うん」


 優太は何でもない顔で歩き出した。


 綾乃も、その隣を歩く。


「……今日の優太、なんか優しいね」


「そう?」


「うん」


「いつも通りだけど」


「そうかなあ」


「そうだろ」


 優太は本気でそう思っているらしい。


 綾乃は少しだけ笑った。


「まあ、いいや」


「何それ」


「なんでもない」


 *


 駅へ向かう道。


 夕方の人通りの中を、二人で並んで歩く。


「今日は楽しかったね」


 綾乃が言った。


「うん」


「映画も見れたし」


「うん」


「買い物もできたし」


「よかったじゃん」


「うん」


 綾乃は嬉しそうに笑う。


「また一緒に行きたいな」


「……うん」


 優太は少しだけ綾乃を見る。


「また行こう」


「うん!」


 綾乃が笑う。


 優太も笑った。


 今日一日。


 綾乃と一緒にいて。


 楽しかった。


 また一緒に出かけたい。


 そう思った。


 それが少し特別なことだとは。


 優太は、まだ気づいていなかった。


 ただ。


 綾乃が楽しそうなら、それでいい。


 そう思っていた。


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