第5話 退路遮断! 元凶はギルド職員!? 荷物(足手まとい)を抱えて封印の奥へ
「モルブさん、立てますか? 急いで三人の荷物を拾って撤退しましょう。これは本格的に討伐部隊を組まなければ……」
「でも!! エドガーさんが!」
グッと男の胸倉を掴み上げ、強制的に黙らせる。
私の小柄な身体でまさか自分が締め上げられるとは思っていなかったのか、それも含めてモルブさんの顔は驚愕に染まり、二の句が継げなくなる。
「あなたも見ましたよね。アレはU型アンデッド──いくら私でも、この狭小空間で単身全滅させるのは不可能です! 」
「うっでも……こんな事って……」
「U型は通常のアンデッドとは違い、増殖に特化している。既に三体いたということは、奥に巨大な群れが形成されている可能性が高いんです。あなたを護衛しながら討伐し切るなんて到底無理です!
エドガーさんの件は悔しいですが、これ以上犠牲を増やさないためにも今は呑み込んでください!」
「くっ……エドガーさん、エドガーさん……」
私が手を離した瞬間、彼は地面に崩れ落ちて嗚咽を漏らした。だが、それで覚悟を決めたのか、仲間だった三人の装備品を涙を拭いながら拾い集め始める。
私もそれを急いで手伝い、一刻も早い撤退の準備を整える。
──カツン、カツン。
そこに、規則正しい足音が響き渡った。
私と同じ、ギルド特務捜査官仕様の特殊歩行ブーツが奏でる硬質な音。
音に気づいたモルブさんが顔を上げると、希望を見出したように嬉々としてその男へ駆け寄っていく。
「ギャレットさん!! 無事だったんですね!」
そこに立っていたのは、先日この旧坑道を単身で調査した男──提出書類の不備だらけで私に頭を抱えさせた、あの職員だった。
「ちょっと貴方! なぜこの坑道がこんな惨状になっていると報告書に記載しなかったのです!? そのせいで彼らのようなパーティが不用意に足を踏み入れて……」
私は今日の不始末について徹底的に文句を叩きつけるつもりだった──だが、無邪気な子犬のように近づいていくモルブさんの『首すじ』へ、男が獰猛に口を大きく開けた瞬間、全ての違和感が繋がった。
──コイツが、元凶か!!
「離れなさい!!」
思考より早く、私は無詠唱の光魔法を撃ち放つ!
ギャレットだった『何か』は、的確に放たれたはずの光の閃光を、後ろへ軽やかに飛んで回避してみせた。突進を阻まれたモルブさんは無様に尻餅をつき、恐怖で硬直している。
「いや〜何をそんなに怖い顔をしているんだい? 『紙課』の君が応援要請を受けたと聞いていたが、まさかここまで到達しているとは思っていなかったよ。折角ここは最高の拠点だったのに……魔素も豊富で、よく『増える』ことができた」
魔物は楽しそうに、自慢げに私を見下ろしながら語る。
──嘘でしょ。ギルド職員がすでに侵食されていたなんて。
私たちが管理する都市結界は、知覚した魔物を弾く仕組みになっている。奴が報告書を提出するために一度街へ帰還しているということは──あのアンデッドは、結界をすり抜けたということ!
まだ、U型アンデッドには上の階級が存在するというのか……!?
「討伐協力の依頼を出して、エサ……失礼、仲間をたくさん増やそうとしていたのに、君が来たせいでここももう終わりだなぁ。せっかく用意した三人も君が殺してしまったし……まあいい、君とそこの男を新たな種体にすればそれで足りるか……」
ユラユラと揺れながら正気とは思えぬ妄言を呟き、男はパチンと指を鳴らした。
すると空間が歪んで亀裂が走り、そこから禍々しい魔物たちが溢れ出てくる。あれは魔族特有の転移魔法……そんな高レベルの技まで行使できるのか!
速やかに体制を立て直す必要がある。私は急いでモルブさんの襟首を掴んで回収し、来た道を戻ろうとしたが、残された逃走ルートは魔物の群れによって完全に塞がれていた。
(クソッ……退路を断たれた……!)
仕方がない。私は迷いを捨て、モルブさんたちが這い出てきた異質な洞穴の中へと足を滑り込ませた。
◇
どれくらい走り続ただろうか。
あの最高位のアンデッドは、まるで狩りを愉しむように余裕を崩さず追ってきているらしく、襲いかかってくるのは小物の魔物ばかりだ。私はまだ戦えるが、横を走るモルブさんはそろそろ限界だろう。
それもそうだ。仲間を三人失い、救いを求めたギルド職員が実は化け物で、自分たちを食い物にしていたのだから……。
「モルブさん、まだ動けますか!? それとこの先がどこへ繋がっているか、心当たりはありませんか!?」
「あっ、は、ハイ……まだ、なんとか! ですが、この先がどこに通じているかはボクも……! ただ、この先に重厚な鎖で幾重にも封印された部屋があって……ニーナさんが何故か入るのを激しく拒んだんです。だから調べずに引き返そうとしたら魔物に襲われて、それで……」
「それだ!!!」
私の突然の一声に驚き、モルブさんは目を丸くして足を止める。
「恐らく、そこに強力な『光魔法関連の封印』が存在するはずです! 鎖の由来は気になりますが、背に腹は代えられません! そこまで案内してください、モルブさん!」
「は、ハイ! こっちです、レルカさん!」
モルブさんの言葉通り、その部屋の扉は極厚の鎖によって幾重にも強固に封鎖されていた。
そして、扉の隙間から微かに漏れ出る魔力──強烈な聖なる結界の痕跡。
一応残存魔力はあるものの、幾重もの年月を経て殆ど効力を失いかけているソレを、私は光魔法を付与した小型ナイフで強引に叩き割る。
ナイフをポシェットに戻さず、そのままモルブさんの手へと握らせた。
「このナイフにはアンデッドを退ける光魔法が施されています。なるべく私が対処しますが、万が一の時はこれを使って身を守ってください!」
「ぼ、ボクがこれを使ったら、レルカさんはどうするんですか!?」
「私は光魔法が使えますし……何よりコレが相棒ですから問題ありません」
……そう言って私は、左腕に装着した三節棍を軽く叩いて金属音を響かせた。
◇
「──で、このあとクーノスさんが封印されていたあの部屋で死力を尽して応戦していたら、貴方が目を覚まして一掃してくれた……という流れだったんです。お礼が遅くなって申し訳ありません。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
一連の怒涛の経緯を静かに聞き終えたクーノスさんは、自身の顎をポリポリと掻きながら、どこか遠い目をした。
「礼ならいいが……なるほどねぇ。かつての仲間がアンデッドになってお迎えに来るってだけでも惨いのに、オマケにそいつを仕組んだ元凶がギルド職員の裏切り者たぁ……なかなかに胃が痛むお家騒動だな、お嬢さん」
「……笑い事じゃありません! お陰でモルブさんは仲間をアンデッドに殺され、自身も命を狙われて……あっ!! モルブさん!! 怒涛の展開すぎて存在を完全に忘れていました!!」
慌てて部屋の奥へ駆け出そうとする私を、クーノスさんが片手で制する。
その肩には、すでに冷め切った米俵のように担ぎ上げられたモルブさんの姿があった。
「……あ、もう回収してくれてたんですね」
「おう。さっきのデカい一撃の風圧で気絶しちまってたからな。荷物と一緒に拾っといたぜ。……で、これからどうするよ? お嬢さん」
「……まずはこの哀れな生還者を連れて、地上へ撤退します。ギャレット……あの化け物の件、上層部に報告しないと大変なことになりますから!」
第5話をお読みいただきありがとうございました!
そして、ここまで5話連続投稿にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
まさか元凶がギルド職員(しかも書類不備の男)だったとは……!
そして怒涛の展開の中で完全に存在を忘れられ、最終的に「冷め切った米俵」のように担がれたモルブさん、あまりにも不憫すぎますね(笑)。
【読者の皆様へ質問です!】
皆さんがもしこの状況に放り込まれたら、真っ先にどう行動しますか?
① モルブさんのように泣きながら覚悟を決める
② 怒涛の展開についていけず気絶する
③ 冷め切った米俵として静かに担がれる
ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです!
【今後の更新スケジュールについて】
連載開始からの連続投稿は今回で一段落となります!
次回(第6話)からは【火・金・日の週3回 / 18:00頃】に更新していく予定です。
次回は【8/14(金) 18:00頃】の投稿となります!
本作は全15話を予定しておりますので、結末までお付き合いいただけると嬉しいです。
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