第4話 詠唱こそが魔法の本質。光の刃で叩き潰す凶悪な群れ
予想していた通り、下層には広い空間が存在した。魔物が群がっている可能性も考慮していたがそれもなく、かなり古い年代に作られたと思われる石造りの遺跡が広がっている。
人影もなく、魔素溜まりもない。静謐な空気が場を満たしていた。
壁の装飾を慎重に観察すると、数百年はゆうに経っている代物だ。これは掘り出し物があるかもしれない。調査課の応援で赴いた旧坑道にこんな物があるとは……後で追加の記録部隊を派遣する必要が出てきたな。
「うっ……わぁ!! 助けてくれ!!」
──突如、そこに人の悲鳴が響き渡る。
私が確認していた遺跡の奥、無理やり穿たれたような異質な洞穴から、ボロボロの格好をした人たちが飛び出してきた。
そして、それを追うように魔物の群れが押し寄せてくる。残念ながら、彼らに戦力を期待するのは無駄そうだ。かなり消耗が激しいらしく、息も絶え絶えになっている。
「みなさん、私の背後へ! 私は冒険者ギルド職員のレルカと申します。事情は後です、パパッと片付けますから!」
私は左腕に括り付けてある三節棍を取り出し、魔物の前へと躍り出た。やはり奥にいる分だけ強化されている個体が多いが、私一人で十分に討伐できるレベルであり、肩慣らしにもならなかった。
「助かったよ。えっと、レルカさん? オレはガロ」
そう言って四人組の中で一番背が高く、年嵩の男が頭を下げてきた。彼がリーダー役なのだろうか。
「いえ、ギルド職員として当然の義務を果たしたまでです。ガロさんたちはどうしてここに?」
私の一言に彼らは顔を見合わせ、再びガロさんが口を開く。
「ギルドの討伐協力依頼を受けて来たんだが、道に迷っちまってこんな奥まで来てしまったようなんだ。仲間の一人がドジ踏んで下層に落ちちまってさ……仕方なくそいつを探してこんなとこまで来ちまったってわけだ」
パーティメンバーたちもガロさんの言葉に同意するように頷き、各々が証言を始める。
「わたしはマチルダ。そこのデカブツと一緒に前衛職をやってて、その落ちたドジ……戦士の男を探してるんだけど、見かけなかったかい?」
「そんな言い方をしないでくださいマチルダさん。そもそも、ボクを庇ってエドガーさんは穴に落ちてしまったんですよ……くっ、エドガーさん」
「泣かないでモルブ。丈夫なエドガーさんならきっと大丈夫だから……」
なるほど、前衛職三人、後衛二人の基本に忠実な構成か。そして後衛の男モルブさんを庇って戦士のエドガーさんが下層へ落下……心配した全員で捜索した結果、迷子になったと。
「ギルドへの連絡は入れましたか? この坑道なら伝達魔法が使えるはずですが……」
「それがオレ達、そんな奥深くまで潜るつもりが無かったから道具の在庫が無くて……すまねぇ」
(……あー、このパターンね)
たまにいるのだ。節約のために魔導具を買い渋る冒険者というものは。
伝達魔法は基本中の基本だが難易度が高く、術者によっては使えない者もいる。それを救済するために冒険者ギルドが専用の魔導具を開発し販売しているのだが……確かにそこそこの値段はするし使い捨てだ。
しかし、安全のためなら多少の懐を痛めるのは許容範囲だろうに。二人も魔法士を揃えているわりにどちらも使えないとは、随分と初心者なのだろうか。
「そうですか……先程『要救助者がいる可能性がある』と連絡しておいたので、暫くすれば追加部隊が派遣されてくるとは思いますが……とりあえず、まずは貴方方の手当てをしましょう。治癒魔法を使った方が確実ですが、今は念のため魔力を温存したいのでこちらをお使いください」
私は腰のポシェットから応急手当セットを取り出し、リーダー然とした男、ガロさんに手渡す。
手当を手伝おうかとも思いたいが、彼らの手際が思いのほか良かったため、私は装備の再確認をしながら周囲の警戒に専念することにした。
それにしても、先程の魔物の群れは随分と無秩序だった。このような坑道は本来、自然系や動物系の魔物が主だ。
だというのに、彼らが追われていたのは物質系──魔素などが石や宝石に溜まり、意思を持って人間を襲う魔物。その強さは魔素の保有量に依存する。この濃度の高い坑道ですくすくと育った強力な個体たちのようで、確かに伝達魔法すら使えないレベルのパーティでは厳しいかもしれない。
だが、今回の討伐協力要請は、それ相応の実力者しか受けられないよう規制をかけていたはずだ。なぜ彼らのようなパーティが受諾できているのだろうか……?
「……したい。もっと……増えなければ」
──思考を切り捨て、私は無詠唱で光の下級魔法を目の前の魔法使いの女へ……いや違う、女だったモノへと放つ。
「ニーナ……さん?」
怪我が軽かったため、早めに治療を終えて私のすぐ近くにいたモルブが震える声で問いかける。そうか……彼らは見たことがなかったのか。それで対処が遅れてこの有様か!
放たれた光の閃光を、ニーナだったモノは異様な関節の動きで『回避』してみせた。
だが、その動きはもはや人間のものではない。それと同時に、先程までリーダー然としていたガロ、そして前衛のマチルダの瞳から光が消え、ユラユラとこちらへ蠢き始める。
──これは厄介なことになった。アンデッドだ。
それもただのアンデッドではない。最高に不運な(アンフォーチュネイトリー)アンデッド──通称『U型』。生前の記憶と能力を駆使して人間を騙す、討伐難易度Aランクの凶悪な個体だ。
今ここで出てくるのか……ということは、あのエドガーという男の生存も絶望的かもしれない。
このU型アンデッドは人間を捕食して仲間を増やす。そして普通の低級個体と違い、理性を模倣する。つい先ほどまで普通に会話していた仲間が、実はU型でした……なんてオチはザラだ。
見分ける方法? そんなもの、とりあえずなんでも良いから光魔法をぶち当てるしかない。
間合いを取るように身を引いたニーナ含め、ガロとマチルダの三体が揃って爪を立てる。間違いなく全員同類だ。よって、この場でまともな人間なのは私と、横で怯えている魔法士の男、モルブだけ。
あの三人がいつからU型に成り下がっていたのかは判断がつかない。まずはこの三体を排除してから、この男から事情を聴き出すしかないな!
「モルブさん! 震えていてもいいですが、絶対にあの三体に噛まれたり引っ掻かれたりしないでくださいね! 対処が遅れたら貴方もアレの仲間入りですよ!」
「ひぃー……助けて、助けてレルカさん!」
「ちょっと、人の服を掴まないでください!! 動けないでしょう!」
情けない男を足蹴にして下げさせ、速やかに戦闘態勢に入る。幸運なことに、こちらへ襲いかかってくるのはこの三体だけのようだ。さっさと光魔法で消滅させてしまおう。
モルブさんには酷な現実かもしれないが、あの状態になったら二度と助からない。これ以上彼らに罪を重ねさせないことが、せめてもの情けだ。
「光よ。地獄の扉から拒絶された魂を今、送り返します──!」
世間では無詠唱を持ち上げる風潮もあるが、私の考えは逆だ。
自分の体内魔力だけで強引に発動する無詠唱など効率が悪い。しっかりと呪文を唱えて大気中の魔素を潤沢に取り込み、己の魔力はただの『着火剤』として使う──それこそが、魔法というものの本質だ。
一時凌ぎの無詠唱下級魔法とは桁違いの威力を秘めた光の刃が、三体をまとめて呑み込んでいく。
3体のU型アンデッドは、抵抗する間もなく砂のように脆く崩れ去っていった。
現場に残されたのは、彼らが身につけていた装備品のみ。
アンデッドにされた末路はあまりにも無残だ。
骨すら残さず、光魔法によって全てを地に返される。果たして私は、自分の仲間がこうなった時にすぐさま手にかけることができるだろうか……。
いや、今はそんな感傷に浸っている暇はない。U型が出たということは、この奥にはまだ大量のアンデッドが潜んでいる可能性がある。
第4話をお読みいただきありがとうございました!
会話していた仲間たちが実は手遅れな「U型アンデッド」だったという、絶望的な展開でした。無詠唱ではなく、あえて「詠唱」を行うことで大気中の魔素を味方につけるレルカの魔法観や、彼女の圧倒的な戦闘力が際立つ回でもありました。
皆さんは今回の展開で、どの部分が一番印象に残りましたか?
・「仲間だと思って会話していたのが実はアンデッドだった恐怖」
・「レルカの圧倒的な強さと『詠唱こそ魔法の本質』という持論」
・「モルブの情けなさと、取り残された今後の展開」
「〇〇のシーンが良かった!」「レルカかっこいい!」など、一言だけでも大歓迎ですので、ぜひ気軽にコメントで教えてください!
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