第3話 定時退社は諦めました。昔の人の衛生概念が低すぎてアンデッドがうじゃうじゃ湧いています
この頃、盛んに採掘が行われていると言われていたが、やはり奥の奥に入ると道は整備されていないし、空気が澱んでいる気がする。
元は旧坑道と言われていて、寄り付くのはゴロツキなど腹に一物抱えた危ない連中か、珍しい植物が自生しているとかでそれの採取の依頼を受けた冒険者たちくらいだった。
その冒険者が偶然発見した新しい鉱脈のお陰で大型討伐が行われ、冒険者ギルド主体で採掘を始めたばかりのはずだが……急激に魔鉱石が出るようになる事などあり得るのだろうかと疑問を抱く。
その疑問を解決するために私が派遣されたのだった。
装備を整えて来ていて正解だったな……。
荒くれ者の気配は消えたが、周囲に漂う魔素の濃度は異常なほど高い。魔鉱石の影響だ。
やはり、新しい鉱脈を発見したというのは事実なのかもしれない。
つまり、ここに棲みつく魔物たちも比例して強化されているということだ。
足元に転がる古い骨を検分しながら、ぐっと眉間にシワを寄せた。
現代の規約なら遺体の焼却が義務付けられているが、この旧坑道時代にそんな衛生概念はない。放置された遺体が濃厚な魔素を吸い上げれば──行き着く先はアンデッド化だ。
特に質が悪いのは、死後すぐアンデッド化した個体。
生前そのままの姿と口調で人間を騙し、仲間に引き込もうとする悪質な手合いだ。
(……もしそんな『偽者』に遭遇したら、迷わず首を撥ねなきゃダメね)
新人冒険者なら一発で引っかかる罠だが、私は特務捜査官だ。手加減するつもりは微塵もない。
数百年前はネクロマンシーが普通に悪用されていた時代もあったが、今では禁術。初心者では滅多にお目にかかれない危険な魔物なのに、ここ──エンプリア旧坑道ではうじゃうじゃ発生している。
(本当、昔の人の衛生概念の低さと文化の未発達ゆえの負の遺産……いや、犠牲者たちね)
ギルドは安全に採掘を行うために何度か討伐隊を組んだが、不法占拠する人間は追い出せても、魔物の掃討はそう簡単にはいかない。
それに、アンデッドに的確に対処できる冒険者も限られている。だからこそ仕方なく、ギルド職員である私が本業の調査のついでに、直接確認へ出向くことになったのだ。
本当は相棒と共に来る予定だったが、あいにく相方の男は厄介な案件に捕まり、仕方なく私だけが先行してやってきたというわけだ。先日行った先輩職員の話だともうそんなにいないと言う話だったが……。
「かなり討伐したと報告書には書いてあったけど、全然まだいるじゃない!? 手抜かりではなくって!?」
襲いかかってきた歩くキノコを、三節棍の一撃で叩き潰す。
本当に昔の人間は迷惑な負の遺産を残してくれたものだ。せめて遺体の処理くらいしておいてほしい!
続いて迫るアンデッドの首を横一閃に払いながら、私は盛大なため息を吐く。
「……というか、これ下手すれば町一つ普通に滅ぼせる規模なんですけど!?」
思わず小声で毒づいてしまう。
──ああ、これ絶対に今日の定時退社は無理だ。
厄介な案件に捕まったとか言って仕事を押し付けてきた相棒の顔が脳裏に浮かび、無性に腹が立ってくる。
そんな事を考えながら長い距離を歩いて来た。確認した地図ではそろそろ坑道の終着点のはずなのだが……まだまだ道は続いて見える。
これは、ここで野宿する可能性も出て来たな。仕方がないが装備だけは整えて来てある。2〜3日ならどうにかなるだろう。
「ここで一応行き止まりと地図は言ってるけど、先があるな……仕方がない、進むか」
そう言って足を一歩踏み出した場所が、急激に崩れ落ちる……いや違うな、元から崩れていたのが私の重みが加わった事によりさらに崩れたということだろう。
私は咄嗟に土魔法で足場を作り出し、難を逃れるが崩れた地面はかなりの勢いで下へ下へと落ちていき、次に音が鳴り響いたのは随分と後になってからだった。
──つまり、この下の空間はかなり深く空いていて、その底にはまた地面が存在しているという事である。先に空いていた穴は、誰かが既に落ちていて救助を待ってる可能性が出てきた……。
残念ながら下層の様子は一切窺えないが、そこも確認する必要がある。もし魔物の巣窟になっているのなら、討伐しておかないとこの後の魔鉱石の採掘事業に関わる。
私の体力も魔力もまだ存分にある。継続には支障はない。本部の方にはとりあえず要救助者がいる可能性を伝達して、明かりを灯す為に私は光魔法を唱えるのだった。
「我が眼前に迫りし闇を打ち払え! アチェンデ(点火せよ)・ロイヒテン(光を放て)!」
大規模魔法だったので流石に魔力をかなり持ってかれるのを覚悟で使ったが、大気中に保有される魔素が多いようで私の残存魔力が減った気はしなかった。
それは戦闘を継続するという点では歓迎なのだが、このような洞窟で魔素の濃度が高いという事は、魔物はより強く凶暴になっているという証だ。
どうか、要救助者がそこそこ手練れであることを願って、私は自分で作り出した足場を使ってゆっくりと慎重に下層へと降りていくのだった。
第3話をお読みいただきありがとうございました!
昔の人の衛生概念のせいで大量発生したアンデッドの処理に、急遽一人で挑むことになった主人公。残業確定の絶望感と、押し付けてきた相棒への殺意(笑)に共感していただけたら嬉しいです。
皆さんは、仕事や作業で「あ、これ今日定時に帰れないやつだ……」と察した絶望の瞬間ってありますか?
「残業あるある分かる」「レルカ頑張れ!」など一言だけでも大歓迎ですので、ぜひ気軽にコメントで教えてください!
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