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第2話「語尾を伸ばすのがカッコいい」100年前の古い価値観にキレそうですがオジサンは規格外でした


「つまり、貴方はその大剣と共に100年ここで封印されていたと……そういうことですか?」



私は目の前の男──クーノスさんの語った出来事が俄には信じられず、疑いの眼差しを向ける。



「まぁ、お嬢さんが信じられないのも無理はねぇーよ。オジサンだってイマイチ信じちゃいねーんだからさ」



そう言って彼は大袈裟なリアクションをしてから、私をもう一度確かめるように注意深く見る。



「そうですね……今は王国暦1500年。冒険者ギルドができて約150年ってところですかね」



私は彼に再度、自分の身分証明書を今度は数字がよく見えるように手渡した。クーノスさんはそれを受け取ると、観察するように何度も裏返したりしながら確認する。



「そういや、さっき……踏み込みの瞬間に、左足をわずかに内側へ絞る独特の軸移動。三節棍に隠しちゃいるが、あの癖は『ファルディシエ流』の歩法だな?」



「っ!?」



息が止まった。隠していたはずの、血に染み付いた体術の癖。手渡した身分証にも書かれていない私の家名。



「なるほどねぇ。確かに数字を見ても俺が生まれた時代よりずっと先だ。それにしても、100年前もあの家の連中は頭が固くて有名だったが……まさかあんな名家を飛び出して、こんな泥臭い回収屋──いや『羊皮紙課』だっけ? なんてやってる物好きがいるとはねぇ。家への反抗期かい? 『ファルディシエ家のお嬢さん』」



「……撤回、してください」



「ん?」



「私の仕事と誇りを『反抗期』などと愚弄することは、絶対に許しません……!!」



ジャキ、と手元で一瞬で組み上げた三節棍の先を、彼の喉元へ突きつける。



「私はレルカ特務捜査官です! ファルディシエの家なんぞ、とっくに捨てました! 次にその名を呼んだら、本気で首を叩き折りますからね……!!」



「……へいへい。悪かったよ、レールカお嬢さん」



「『ー』も要りません!!」



「おっと失礼。これも今じゃ古いってやつなのか。オジサンの時代は母音を少し伸ばしめに発音するのが流行りでカッコ良かったんだよ」



ぴゅーぴーと間抜けな口笛を吹きながらクーノスさんはカラッと笑っていてムカつく。絶対、私のことをからかっているに違いない!



一泡吹かせてやると思い、構えを取ろうとしたところで忘れていた気配が急激に現れた。



そう、あのよく口の回る男──いや、アレを一人と数えるのはおかしい。もう人間ではなく動く死体アンデッドなのだから一匹が正解だろう……が、拍手をして私達を観ていた。



「いや〜見事な立ち回りだ。そこの方、お強いですね。是非我々と共に世界をひっくり返しませんか? そこの女よりよっぽど良い環境を用意しますよ」



「何を言ってるかさっぱり分からんね。こんなオジサンを褒めてくれるのは嬉しいけど、この状況で『ハイそうですか、一緒に行きましょう』とはならないだろう? 普通」



一人と一匹が会話している間に、私はごく小さな声で慎重に、でもなるべく早く光魔法の詠唱を始める。



「というかなんでオジサンが魔物……それもアンデッドの仲間になると思うわけ? 常識的に考えて無理でしょ。アンデッドと人間は相容れない。そこは何百年経っても変わってないだろうなッ、お嬢さん(・・・・)!」



「我が目の前の障害をねじ伏せよ! ──!」



アンデッドの男に向かって、光の閃光の槍が幾つも向かっていく。たっぷりと詠唱した光の上級魔法。並大抵の魔物なら即消滅だったのだが……どうやらそんなにアレは甘くないらしい。



「アハハハッ! 残念でしたね。それは貴女のとっておきだったはず。進化したワタシ達に効くはずが……」



その言葉は残念ながら最後まで形になることはなく霧散した。アンデッドの首が──ゴトリと見事に落ち、転がっていく。



「そっちこそ残念だったな。オジサンを忘れてもらっては困る」



彼は大剣をまるで刀のように扱い、血飛沫を払ってから丁寧に鞘へ納刀し、直ぐ様先程まで彼と大剣を覆っていた布を巻き付け、鎖で封を締める。



「貴様ラ!! 覚えておけ、我等の仲間はまだ……」



「……ん? おっと、何か言ったかい? この頃、歳なのか耳が少し遠くなった気がしてな」



男は自分で斬り伏せた首を何でもない仕草で踏み潰し、アンデッドを完全消滅させる。



何か最後に喚いていたが……まぁ、いいか。



「すいません。クーノスさん、油断しました」



「いやいや、気にしなさんな。随分と耐久力のあるアンデッドだったな、変な技も使ってたし何者だアイツ……」



クーノスさんは何かを確かめるように汚い古い布に巻かれた先程の大剣を軽く叩いて私の答えを待つ。



「えーと、話せば長くなるのですが……」



クーノスさんに状況を説明しながら、私はここへ至るまでの道のりを思い出していた。

そもそも、私がこのエンプリア旧坑道へ足を踏み入れたのは、単なる調査のためだった。

第1話&第2話をお読みいただきありがとうございました!

100年の封印から目覚めた男・クーノス。完璧主義で生真面目なエリート捜査官レルカは、さっそくこの『100年前のシーラカンス男』にペースを乱されまくりです……!

噛み合わないふたりの特務捜査アクション、ここから本格始動します!


次回の第3話は、【8/10(月)の19:00頃】に投稿予定です。

(※序盤は毎日更新予定です!)


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