第6話 100年前の最強剣士、身なりを整えたらヤバすぎた
一人で降りてきた時より倍以上の速さで、私たちは旧坑道を駆け登る。クーノスさんは気絶しているモルブさんを片方の肩に担いでいるにもかかわらず、私と同じ──いや、恐らく私に合わせたペースで走っていた。
流石にあれだけ派手に減らされれば、アンデッドたちも出てこないのだろう。
何回か他の種類の魔物に遭遇したが、二人掛かりならもはや瞬殺である。
「もうすぐ出口です。とりあえず事の顛末をなるべく早く直接ギルド本部に伝えたいので、まずは街に戻ります」
「OK。コイツもこのまま連れて行けばいいか?」
そう言ってズリ落ちそうになった彼を、クーノスさんは再度背負い直す。
──にしても全く起きない。長時間の探索による疲労もさることながら、何より目の前で仲間がアンデッドと化すという悪夢のような光景を見せられたのだ。精神の限界を超えてしまっても無理はない……。
「ええ、彼はギルドの救護班に受け渡します。私は報告が終わり次第、先ほどの男──ギャレットがU型に侵食されてから行った悪足掻きを調査しなければ……」
「まぁ……そうなるわな。これが表沙汰になればギルドのメンツは丸潰れだ」
私が淡々と答えると、クーノスさんは苦笑しながら進む。この会話をしている間も、私たちは並行して魔物を屠りながら足を止めていない。
「ええ、絶対に調べ上げないといけません。それに、調書も取りたいのでご同行願ってもよろしいですか?」
「あぁ、まぁそーなる気がしてたよッ!」
スパッと気持ちの良い位に魔物を真っ二つにしつつ、クーノスさんは応えた。その時、出口から漏れ出る外の光に一瞬目が眩むが、次の瞬間、私たちはやっとの思いで旧坑道から抜け出すことが出来た。
◇
街道に入れば、地面に埋め込まれている魔法陣のお陰でよっぽど強い魔物以外は近づいて来ない。
やっと一息つける。
そう思って振り返ると、私より酷い状態のクーノスさんがはっきりと視界に入った。
薄暗い中では気にならなかったが、100年もあそこに封印されていたのと、さっきまでの戦闘で魔物の返り血などを浴びまくった不潔極まりない姿。
私もよっぽどだが、それを軽く超えるくらい薄汚い。
「私もですが、その不衛生極まりない格好で街に入るわけにはいきませんね……」
私が最後まで文句を言い切る前に、彼は軽く周りを見渡してから深く息を吐き出した。
「おいおい、そんなに臭うかい……?」
彼はくんくんと自分の匂いを確かめるように、肩から掛けているマントを嗅ぐ。
「臭う臭わないの問題ではありません! このままだと衛兵に不審者かゾンビと間違われて捕まりますよ! まずは宿をとって、服を買い直します!!」
「やはり、この格好じゃお嬢さんに迷惑かかるか……」
その瞬間、彼の周囲の魔力反応が異常値を示した。凄まじい量の魔力が渦巻き、私の視界から彼の姿が一瞬消える。
「我の纏う全ての時を遡り、あるべき姿へと回帰せよ!──リヴェルシオ・インテグラティオ!」
眩しい光の熱量が去ったあと、先ほどとは見違えた清潔感溢れる男がそこに立っていた。
「……今、何をしたんですか? 古典文法の『逆転』と『再構築』って言いましたよね……!?」
驚愕する私をよそに、男は何が何だかといった顔で首をすくめてみせる。
現代では高階級の儀式魔術でしか使われないような古代語の詠唱を、この男はただの「身づくろい」のために、呼吸をするように使いこなしてみせたのだ。本当に何者なんだろうかこの男、ただの傭兵だと言っていたけれど……。
「あー……悪いね。オジサンの時代は、こういう大雑把な着替え魔法しか普及してなくてねぇ。現代のスマートなやつは知らんのだよ」
「……な、何ですか今の魔法は。身だしなみを整えるためだけに、一国の宮廷魔術師レベルの魔力を放出しないでください!」
私の抗議に、男はさっぱりとした顔で首を傾げてみせる。
汚れてくすんでいた髪は、光の加減で白髪が混じる渋いアッシュブラウンの毛並みを取り戻し、無精髭も綺麗に削ぎ落とされていた。着古したダスターコートも、新品のように整っている。極め付けは、魔物に襲われてボロボロになっていたモルブさんの方も真新しいローブのように綺麗さっぱり修復されていた。
「言われた通り身綺麗にしたんだ、文句はないだろう? お嬢さん」
先ほどまでの『浮浪者』はどこへやら。そこにいたのは、酸いも甘いも噛み分けた、嫌になるほど絵になる大人の男だった。
(……くっ、見た目だけは無駄に整っているのが余計に腹が立つ……!)
私はそれ以上何も言えず、自分の身の方を現代の魔法を使って綺麗にする。
「それが今の魔法かー。分かりやすくていいな!! おっとすまない、お嬢さんも一緒にかけちまえば良かったなぁ。対象範囲が俺に触れてるモノに限定しちまってたから、コイツは綺麗に出来たんだけどな」
そう言って笑いながらモルブさんを一度下ろし、状態を確認していた。まぁ、この状態なら二人とも問題なく街に入ることはできるだろう。
「はぁー、本当に何なんですか!? もうっ……コホンッ! お時間いただきありがとうございました。身綺麗になった事だしそろそろ街に向かいましょう」
◇
「ようこそ! ここが自由都市グラナーダです!」
誇らしげに胸を張りながら私は言う。クーノスさんは眩しそうに目を細め、眼下に広がる活気あふれる街並みを見下ろした。
「グラナーダ……100年前は寂れた漁村だったのに、ここまで大きくなるとは時の流れを感じるねぇ。っで、何が自由なんだい?」
「ここはどこの国からも独立した都市なので、自由貿易都市って意味ですよ、クーノスさん」
「なるほどねぇ……」
しみじみと頷くクーノス。100年の時を超えた男の、どこか切なくも深い旅情──
──が、漂うはずだった。
「……って、しみじみ浸ってる場合じゃありません!!」
私はガバッとクーノスさんの顔前に詰め寄った。
「いや、なんで服装は綺麗になったのにこの大剣の周りの布は魔法が効かないんですか!? ボロ切れのままじゃないですか!?」
「あー、この布か……ちょっと特殊な素材で出来てて魔法を無効化するんだ。そのお陰でこの剣を持ち運べてるわけで……その」
何か言いづらそうに大剣を抱えて私から距離を取る。
「何ですか!? ハッキリと言ってください。話によってはやはり、新しい布を買いに行きますよ」
私にそう迫られて悩みながらも、彼は応えた。
「あー……そのなんだ。このボロ布外すと、この街が軽く吹き飛ぶから外せないんだよ、コレ」
──その、まるで明日の天気が雨みたいな手軽さで紡がれた言葉に、私の思考は完全に停止した。
第6話をお読みいただきありがとうございました!
100年前の英雄(?)クーノスさんの規格外な実力が垣間見えたお話でした。ボロボロの姿から一転して見せた大人の余裕と男前な姿にギャップを感じつつも、彼が背負う大剣のヤバさに冷や汗が止まりません……!
【読者の皆様へ質問です!】
一気に謎と危険度が増したクーノスさんですが、彼の第一印象や気になるポイントはいかがでしょうか?
「イケおじ姿が格好いい!」「その大剣の正体が気になりすぎる!」など、クーノスやレルカへの感想をぜひコメントで残していってください!
次回の第7話は、【8/16(日) 19:00頃】に投稿予定です。
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