第13話 狂気の演奏会に乱入者あり! 100年前の最強剣士、作戦を無視して敵の頭上へ流星ダイブ
不気味な音が鳴り響く、街外れに佇む廃屋敷。
外観こそ蔦が絡まり荒れ果てていたが、足を踏み入れた瞬間に異様な違和感が肌を刺した。
ボロボロの廊下の床には、埃を払うように真新しい赤い絨毯が奥へと一直線に敷かれている。まるで、私たちがあらかじめ用意された『客席』へと誘われているかのように。
「嫌な演出ですね。生活感は皆無なのに、人の出入りの痕跡だけが異常に生々しい」
「ああ。案内してくれてるってんなら、素直に招待されるとしようや」
クーノスさんは鼻で笑いながらも、大剣の柄に置いた手には一切の油断がなく、いつでも抜刀できる気迫があった。
気味の悪い静寂の中、廊下の奥から強烈な魔素の気配と、脳を直接揺さぶるような狂気の不協和音が流れてくる。
(この音を聴き続けるのは、あまり得策ではないかもしれない。少しずつ、何かが削り取られている気がする……)
私たちは足音を消し、小ホールの吹き抜けになっている2階の観覧席へと慎重に滑り込んだ。
影から下を見下ろした瞬間、私はその光景に息を呑むしかなかった。
「ッ、これは……!」
かつて室内楽の演奏に使われていたと思われるホールは、澱んで歪んだ紫色の魔素で満たされていた。
そして客席を埋め尽くしていたのは──ここ半年間で行方不明になっていた冒険者たち。
彼らは全員、生気も光もない瞳をステージに向け、行儀良く、背筋を伸ばして整然と椅子に腰掛けている。U型アンデッドと化した『不運な観客』たちだ。
そしてステージの中央──。
異様な形状をした漆黒の多弦楽器を抱え、無心で音を奏で続けている男がいる。
「エドガーさん……!」
彼の瞳には光がなく、頬には絶え間なく涙の跡が伝っている。指からはしとどに血を流しながらも、まるで何かに取り憑かれたように狂気じみた勢いで弦を弾かされていた。
(正気じゃない……一体、彼は何をされてあんな状態に……!?)
「ヒヒッ……素晴らしい……! 響いているぞ、『奇跡の楽器』の音が! この調子で結界の核を打ち砕けば、魔王様も私を幹部として迎え入れてくださるはずだ……!」
ステージの脇、特等席のソファで不快な高笑いをあげていたのは──先日、クーノスさんに踏み潰されたはずの男、ギャレットだった。
「ギャレット! 生きていたんですか!?」
「あの時、予備の肉体にでも意識を飛ばしていたのか……いや〜、しぶとい野郎だねぇ」
クーノスさんは呆れたように肩をすくめつつ、鋭い視線で下の構造を観察する。
「お嬢さん、見ろ。あの狂った演奏者と楽器、そしてあのゲス野郎は、分厚い魔導結界の『障壁』の内側に護られている。生半可な遠距離魔法じゃ届かねぇぞ」
「ええ……ですが、あの結界の維持構造なら私の目で見えています。魔素の流れが集約しているのは、ステージ左右の燭台です。あそこを壊せば結界は一気に瓦解します」
冷静に敵の配置と弱点を見破り、私は短く視線を交わした。
「エドガーさんを救い出し、あの小さすぎる野望ごとギャレットを叩き潰します。クーノスさん、準備は?」
「へいへい。いつでもいけるぜ、羊皮紙課の優秀な相棒殿」
直後、黒い影が躍動した。
ガリガリガリッ!! とガラスを引っ掻き続けるような凄まじい異音がホールに響き渡る。
吹き抜けの2階手すりを粉砕し、クーノスさんが大剣を構えて真上からギャレットたちの頭上へ流星の如く降り立つ。
(いやいやいや! 正面から堂々と行きすぎですよクーノスさん!!)
私の悲鳴とツッコミを置き去りに、乱入者によって狂気の演奏会は一瞬で戦場という名の舞台へと変わるのだった。




