第10話 オジサン、宿に残された謎の暗号から瞬殺で隠し場所を導き出す!
ギルドの酒場での情報収集を終え、私たちはエドガーたちの定宿へと足を向けていた。
女将に事情を話すと、長い付き合いだったのだろう。言葉に詰まりながらも、彼女はまっすぐに部屋へと案内してくれた。
「まぁ、でも……定宿なだけで、特にこれといった怪しい物はないですね」
エドガーとモルブの部屋は、他のメンバーのものと変わらず、ただの質素な一室にしか見えなかった。
冒険者はそもそも私物を多く持たない。このパーティも例に漏れずそのタイプらしい。
一方のクーノスさんはと言うと、枕元のミニテーブルに張り付くようにして何かを調べている。
「お嬢さん、鉛筆持ってるかい?」
「えっ、はい……これをどうぞ」
私は彼の突飛な行動に眉をひそめつつ、言われるがままに懐からそれを差し出した。
彼はテーブルに備え付けてあるメモ用紙の端を軽くなぞると、何を思ったのか、鉛筆の芯を寝かせて黒く塗りつぶし始めたではないか。
「ちょっとクーノスさん、何をしてるんですッ!?」
「しっ、静かにしろ。ほら、走り書きだが何か残してやがる」
── G S R 6-7 ──
うっすらと鉛筆の跡が浮き出てきたメモには、そう記されていた。
「これって、何かの暗号ですか?」
「だろうなぁ。願わくば、奴さんの隠し部屋の場所であってほしいもんだが」
とりあえず、この宿で得られる手がかりはこれ以上なさそうだということになり、私たちは一度ギルドへと引き返すことにした。
ギャレットの部屋にはすでに強制捜査が入り、すべての私物は押収済み。
だが、残念ながらそこにも怪しいものは何一つなかったという報告が上がっている。
先ほどのメモの暗号さえ解読できれば……。
「あっ、レルカお姉ちゃんだ!」
考え事をしながら歩いていた矢先、不意にそう声をかけられた。
振り返ろうとした時にはすでに、数人の影が私の足元にしがみついている。
「ふっ、油断大敵だな。背後を取られるとはまだまだ……って、コラ! 俺に登るな、暑苦しい!」
私とクーノスさんは、忽ち子どもたちに群がられ、完全に身動きを封じられた。
「ねぇー、遊ぼうよー」
こうなると、真面目な捜査中であっても少し断りづらい。
私は困り果ててクーノスさんに視線を送る。彼はふれあいを受け入れるように肩をすくめると、子どもたちを連れて近くの広場へと移動してくれた。
もっとも、遊び始める前に、私は彼に耳打ちして子どもたちの事情を伝えておく。
「……彼らは、私たち羊皮紙課が保護した異能力者たちなんです。施設で力の使い方を学びながら暮らしています」
「ふーん、そうなのか」
彼はそれ以上深く突っ込もうともせず、子どもたちに両手を引かれるがまま、無邪気な輪の中へと放り出されていった。
(──異能力も、過去の事情も関係ない。ただの『子供』として、あの人はあの子たちを見ている)
背の高いクーノスさんに蜘蛛の子を散らすように群がり、ケラケラと笑い声をあげる子どもたち。
時々、悪戯心から異能力を使って彼を翻弄しようとする者もいるが、彼はそれすら大笑いしながら受け流し、遊びの一部へと変えてしまう。
その光景を少し離れた場所から見つめながら、私は胸の奥が不意に熱くなるのを感じていた。
いつか、怯えていた幼い日の私がずっと欲しかった温もりを──目の前の彼が、あまりにも自然に体現している。
それは任務の義務感だけでなく、私の凝り固まった心を少しだけ前へと向かわせるのに十分だった。
本当に、あの人は規格外で――一体何者なんだろう。
いや、それを探る必要なんてないのかもしれない。
彼はただのクーノスさん。それだけで、今の私には十分なのだから。
ふと、子どもたちが駆け回る広場の脇に目をやる。
そこには、この旧市街の古い名残か、フェンスに絡みついた薔薇の花が名残惜しそうに咲いていた。
──薔薇……。
はっと息を呑み、私は先ほどメモで見つけた文字を脳裏で反芻する。
『G SR 6-7』
「……っ! ギャレットのGに、SRは……この近くの薔薇通り……!」
点と点が、鮮やかに線へと繋がった。
第10話をお読みいただきありがとうございました!
1回お休みしてしまってすいません。もう1個の方が1部クライマックスの為に作業が忙しくて……。今週はちゃんとお届けできる予定です。
次回の第10話は、【8/28(金)の夜(19:00頃)】に投稿予定です。
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