第4話 再び 学校へ
私が通う不登校クラスは、小学校高学年から中学生までが通う特別なクラスだった。
クロノシティの外からも、様々な理由で学校に通えなくなった生徒たちを受け入れている。
私はそこで、少しずつ人との関わり方を学んでいた。
初登校日のことだった。
高城リン「あの……沙羅ちゃん」
突然、明るい声が聞こえた。
振り向くと、活発そうな女の子がこちらを見ていた。
沙羅「何ですか?」
リン「もしかして……おばあさんのバッグをひったくりから取り戻して、事件を解決した女の子って……あなた?」
その言葉を聞いた瞬間、私は顔が熱くなった。
沙羅「な、何で知っているのですか?」
リン「有名だよ」
女の子は笑った。
リン「改めて自己紹介するね。私は高城リン。小学6年生。よろしく!」
沙羅「霧島沙羅です。13歳です」
リン「えっ……年上!?」
沙羅「普通に呼んで構いませんよ」
リン「じゃあ……沙羅って呼んでいい?」
沙羅「構いません」
リン「やった!」
リンは嬉しそうに笑った。
リン「これから一緒にいようね、沙羅」
沙羅「……はい、リンさん」
その日から、私の日常は少し変わった。
リン「ねえ、そのぬいぐるみかわいい!」
リンが私の持っている木製のぬいぐるみを見て言った。
リン「木でできているの?」
沙羅「はい。ノエルです」
母が作ってくれた大切なぬいぐるみ。
沙羅はずっと大切にしてきた。
リン「そうなんだ。ノエルっていうんだね。いい名前!」
私は少し驚いた。
23世紀の人たちは、この古いぬいぐるみを見て笑うと思っていた。
沙羅「……古臭いって思わないのですか?」
するとリンは首を傾げた。
リン「どこが?」
沙羅「え?」
リン「その子を見ている沙羅の顔を見れば分かるよ」
リンは優しく笑った。
リン「すごく大切にしているんだなって」
胸の奥が少し温かくなった。
初めてだった。
ノエルのことを、誰かに認めてもらえたのは。
それから私たちはいつも一緒だった。
一緒にお弁当を食べたり。
本を読んだり。
花冠を作ったり。
気付けば、リンは私にとって大切な友達になっていた。
不登校クラスに来て、二ヶ月。
ある日の帰り道。
沙羅「リンさん」
リン「ん?」
沙羅「急に変なことを聞きますが……」
私は少し迷いながら尋ねた。
沙羅「どうしてリンさんは不登校クラスにいるのですか?」
リン「え?」
沙羅「リンさんは明るくて、問題があるようには見えません」
するとリンは少し寂しそうに笑った。
リン「私ね……みんなに合わせるのが苦手だったんだ」
沙羅「合わせる?」
リン「思ったことを何でも言っちゃって……嫌われちゃった」
リンは空を見上げる。
リン「でもね」
リン「沙羅の昔の話を聞いて、私も頑張らなきゃって思った」
リン「だから言うね」
リンは振り返った。
リン「私、中学生になったら家の近くの岡山の公立中学校に行く」
沙羅「……え」
突然の言葉に、私は固まった。
その時だった。
「大変だ!」
近くの裁縫店から声が聞こえた。
店主「万引きだ!」
店主が慌てて飛び出してくる。
リン「どうしました?」
リンが尋ねる。
店主「商品が盗まれたんだ!」
リン「でも……誰も外に出てないよ?」
リンが店内を見る。
確かに、出入口には誰もいない。
私は静かに周囲を観察した。
(犯人は外に出ていない)
(透明化能力なら……)
(走れば少しは音がする)
(でも今回は何もない)
(なら……)
私は棚を見る。
そこには三つのぬいぐるみが置かれていた。
一つは侍の服を着たタヌキ。
一つは海賊帽をかぶったイヌのぬいぐるみ。
そしてもう一つ。
同じ侍姿のタヌキ。
ただし、大きさが違う。
沙羅「……そういうことですか」
私はタヌキのぬいぐるみを手に取った。
沙羅「犯人確保です」
その瞬間。
ぬいぐるみが動き出した。
そして変身が解ける。
犯人「くそっ! 捕まってたまるか!」
犯人が逃げようとする。
しかし――。
沙羅「動かないでください」
沙羅の念力が、犯人の動きを止めた。
沙羅「警察に連絡を」
店主「お、おう!」
店主が慌てて通信機を取った。
こうして事件は解決した。
店主「ありがとう、探偵さん」
沙羅「私は探偵では……」
リン「沙羅、すごいよ!」
リンが嬉しそうに笑う。
私は棚に置かれたぬいぐるみを見つめた。
沙羅「……かわいい」
その時だった。
アーサー校長「大丈夫だったかい?」
一人の男性が店に入ってきた。
店主「これは……アーサー校長!」
店主が驚く。
その人物は、ミスティック学園の学園長。
そして世界的名探偵。
アーサー・クロフォードだった。
アーサー校長「そこのお嬢さん」
沙羅はぬいぐるみを見ていて気がつかない
沙羅「……」
リン「ちょっと、沙羅」
リンに呼ばれて、ようやく気付く。
沙羅「はい?」
アーサー校長「私はアーサー・クロフォード。ミスティック学園の学園長だ」
沙羅「ミスティック学園……」
アーサーは微笑む。
アーサー校長「君は神崎君の養女、霧島沙羅さんだね」
沙羅「なぜそれを……」
アーサー校長「探偵なら分かる」
アーサーは続けた。
アーサー校長「君の推理、見事だった」
アーサー校長「見ていたのですか?」
アーサー校長 「ああ。今日の推理も見ていたし、君のことも以前から知っていたよ」
そして――。
アーサー校長「単刀直入に言おう」
アーサー校長「君は我が校に来るべき人材だ」
アーサー校長「高校生になる時、推薦させてもらうよ」
しかし私は首を横に振った。
沙羅「ありがとうございます」
沙羅「ですが……」
沙羅「私は自分の実力で入学を掴み取ります」
沙羅「ですから推薦は必要ありません」
店主とリンは固まった。
世界的名門校の推薦を断る人間など、初めて見たからだ。
アーサーは楽しそうに笑った。
アーサー校長「はは……面白い子だ」
アーサー校長「頑張りたまえ」
アーサー校長が去った後。
リン「沙羅!」
リンが叫ぶ。
リン「何で断ったの!?」
沙羅「最初から決めていたことです」
リン「名門校の推薦を断る人、初めて見たよ……」
沙羅はノエルを見る。
沙羅「私は、自分の力で挑戦したいのです」
するとリンは笑った。
リン「じゃあ私も負けない!」
沙羅「え?」
リン「私もミスティック学園を目指す!」
リン「沙羅より一年 後になるけど……また一緒にいようね」
沙羅「……はい」
店主「なら、うちをごひいきに」
店主が笑う。
店主「ミスティック学園の制服を作っているのは、うちだからね」
リン「本当ですか?」
私はもう一度、棚のぬいぐるみを見る。
沙羅「あの……」
沙羅「……この子の服、かわいいです」
沙羅「この子みたいな服を、私にも作れませんか?」
店主は驚いた。
店主「本気かい?」
沙羅「はい」
沙羅はバッグからノエルを取り出した。
沙羅「この子の服を作りたいです」
店主は笑った。
店主「今日のお礼だ。安くしておくよ」
沙羅「ありがとうございます」
リン「私にも見せてね!」
沙羅「はい」
――それから十か月後
リンの最後の登校日。
リン「じゃあね、沙羅」
リン「また会おうね」
沙羅「はい」
小さな別れ。
でも、これは終わりではない。
出会いと別れを繰り返しながら――。
霧島沙羅は少しずつ成長していく。
そしていつか。
ミスティック学園へ続く道を、自分の足で歩いていくのだった。




