第3話 沙羅の決意
この前の事件に首を突っ込んだせいで、私は時雨さんからすごく怒られました。
でも最後に、時雨さんは少しだけ表情を緩めて言いました。
時雨「……だが、自分から外に出たことは悪くない。ずっと部屋に引きこもってるよりましだ」
沙羅「……!」
私が時雨さんに褒められたのは、それが初めてでした。
美鈴さんは笑いながら言います。
美鈴「まあまあ。本当は素直じゃないだけなんだから」
私は思わず顔が熱くなりました。
沙羅「や、やめてください。褒めないでください」
すると時雨さんは、ぶっきらぼうに言います。
時雨「褒めてねえ」
美鈴「でも顔真っ赤だけど?」
時雨「……母さん」
そんな二人のやり取りに、私は少しだけ笑ってしまいました。
その日、私は久しぶりに家族と食卓を囲んでご飯を食べました。
温かい料理も、温かい空気も、全部が久しぶりでした。
その日の夜。
沙羅はノエルを抱きしめながらベッドに座った
沙羅「ノエル。今日、久しぶりに外へ出ました」
沙羅「憧れの人にも出会いました」
沙羅「時雨さんにも、初めて褒められました」
まるでノエルが返事をしてくれるかのように、話しかける
少し考えてから、小さくつぶやいた。
沙羅「由衣姉ちゃんを頼ってみようかな……」
水瀬由衣さん。
更生施設にいた頃、年下の私にも優しく接してくれたお姉さんです。
携帯電話を時雨さんから渡された時、家族以外で登録されていた連絡先は由衣姉ちゃんだけだった。
聞くところによると、由衣姉ちゃんは時雨の教え子らしい
勇気を出してメッセージを送った
沙羅「おやすみなさい、ノエル」
そして小さく問いかけます。
沙羅「ノエル……私、本当に探偵になれるかな」
そうつぶやきながら、その日は眠りについた
翌朝。
リビングへ向かう
沙羅「おはようございます」
時雨「おはよう」
美鈴「おはよう、沙羅ちゃん」
朝食の途中、
沙羅「不登校クラスですか?」
時雨「母さんがお前を心配して調べていた」
沙羅「美鈴さんが……」
時雨「どうするかはお前次第だ」
私は少し考えて答えました。
沙羅「考えてみます」
部屋へ戻ろうとすると
美鈴「沙羅ちゃん、少しいい?」
沙羅「はい」
美鈴「私はね、沙羅ちゃんに学校へ行ってほしいの」
沙羅は黙っていた。
美鈴「小学校でつらい思いをしたことは知ってる。でも、お友達を作るには学校へ行くしかないの」
美鈴は少し寂しそうに
美鈴「私は……行けなかったから」
沙羅「友達ならノエルがいます」
そう答えると、美鈴は優しく笑っていた。
美鈴「すぐに決めなくてもいいのよ」
部屋へ戻ると、由衣姉ちゃんから返信が届いていました。
由衣『今週末、時間ある?』
私は少しだけ笑顔になります。
沙羅「相談してみようかな」
週末。
クロノシティのカフェ。
ここは沙羅の行きつけのお気に入りのお店
沙羅はいつものように黒いパーカーを深くかぶり、マスクを付け、ノエルを抱いていた。
白い髪と肌を隠すために始めた格好も、今ではすっかり癖になっていた。
向かいには由衣姉ちゃん
昔は派手なギャルでだったが、今は少し落ち着いた大人の女性になっている。
由衣「で? 沙羅から呼び出すなんて珍しいじゃん」
沙羅「少し相談があって……」
由衣「珍しいね。何?」
私は少し迷ってから口を開きました。
沙羅「学校って……行った方がいいんでしょうか」
由衣は少し驚いた顔をした。
由衣「急にどうした?」
由衣「友達もできるし、私は行った方がいいと思うよ」
沙羅は俯く
沙羅「……」
由衣は優しく言った
由衣「でも、行きたくないなら無理しなくてもいい」
由衣「あの事件の原因は、沙羅へのいじめだったんでしょ?」
私は小さく頷く。
沙羅「でも……ずっと引きこもるのも嫌なんです」
沙羅「探偵になるために」
由衣「探偵?」
私はアルカード様との出会いをすべて話した。
助けてもらったこと。
探偵に向いていると言われたこと。
そして探偵になりたいと思ったこと。
さらに、不登校クラスを勧めてくれた時雨たちのことも。
沙羅「でも……学校へ戻ろうと思うと、いじめられていた時や事件のことを思い出してしまって……怖いんです」
気付けば涙があふれていた。
沙羅「時雨さんには……なかなか言えなくて」
由衣姉ちゃんは優しく微笑えんだ
由衣「そっか」
由衣「先生には相談しにくいよね」
ふわりと優しい風がカフェを吹き抜けた
水瀬由衣の特異――
羽(C級特異者)
まるで沙羅を励ますような優しい風だ。
由衣「でもさ」
由衣「沙羅が探偵になりたいなんて、大きくなったね」
由衣「昔は私にべったりだったのに」
沙羅「やめてください!」
沙羅は恥ずかしくなって顔を赤くなった
由衣は笑っていた。
由衣「でもね」
由衣「その探偵さんが言ったこと、私もそう思う」
由衣「施設でも推理小説ばかり読んでたし、沙羅の推理すごかったし」
由衣「十歳とは思えなかったよ」
沙羅はさらに顔を赤くする。
由衣「夢ができたなら追いかけな」
由衣「私は叶えられなかったから」
由衣「沙羅には叶えてほしい」
沙羅「犯罪者の私でも……夢を叶えていいんでしょうか」
由衣「もちろん」
由衣は迷いなく答えた。
由衣「沙羅はまだ中学生」
由衣「これからいくらでもやり直せるよ」
由衣「私も応援する」
由衣「まずは人に慣れること!」
由衣「不登校クラスなら似た子も多いし、過ごしやすいと思うよ」
由衣「何かあったら、また相談しな」
沙羅はゆっくり頷いた
沙羅「由衣姉ちゃんがそう言うなら……行ってみようと思います」
由衣「よく言った」
由衣「偉いよ、沙羅」
沙羅「やめてください。褒めないでください」
由衣「じゃあ今日はケーキ奢っちゃおう」
由衣「甘いもの好きでしょ?」
沙羅「子供扱いしないでください」
由衣姉ちゃんは楽しそうに笑いました。
ケーキを食べた後 沙羅は由衣に聞いた
沙羅「そういえば、颯太兄ちゃんは今何をしているんですか?」
由衣「颯太?」
由衣「しばらく会ってないから分からないな」
沙羅「そうですか……」
沙羅は少しだけ寂しく笑った
沙羅「会いたいな」
家へ帰ると、美鈴が出迎えてくれた
美鈴「おかえりなさい」
沙羅「ただいまです」
沙羅はは少しだけ深呼吸して言う
沙羅「美鈴さん」
沙羅「私……不登校クラスへ行きます」
美鈴は静かに微笑む
美鈴「そう」
その笑顔だけで十分伝わったことが分かった
そして、不登校クラス初登校の日。
沙羅はいつも通り、黒いパーカーを深くかぶり、マスクを付けたまま教室へ入った
先生が前へ立った
先生「皆さん。今日からこのクラスに入る、霧島沙羅さんです」
私は小さく頭を下げます。
沙羅「よろしくお願いいたします」
教室の後ろから、小さな声が聞こえた。
活発そうな女の子「何、あの黒い子……」
活発そうな女の子「気になる」
活発そうな女の子がそう言った
その言葉を聞きながら、沙羅は静かに席へ向かった
夢へ向かう、新しい一歩。
それは、決して簡単な一歩ではなかった。
沙羅の人生を変える出会いはここから始まった。




