第158話 新しい伸尖剣と服
ララミィの能力を調べてから何日くらい経っただろうか。
気づけば気温はぐっと下がり、夜は暖かい布に包まらなければ震えるほど寒くなった。
毒を受けた体も随分と動くようになった。
外へ出ると、はるか遠くに砂漠が見えるが今自分がいる場所は緑のある、少し乾いた土地へと移り変わっていた。
もう、こんな遠くに来てしまったんだ。
つい先日まで暑くて砂ホコリによく合う環境にいたのに。
この大陸ではいろんなことがあった。
ラディ、元気にしてるかな……。
「ファウーー! 見て!」
と、ララミィがこちらを見て叫んでいる。
あれからララミィは毎日ラギ・アルデの術を練習していた。
リリスミンさんには雷のコツを聞いてはいるが、くれぐれも使用をしないように言われている。
というのも、雷のラギ・アルデは扱うのが難しくて危険らしい。
その使い手が稀とういのは、感電死が多いからなのだそうだ。
本人にも危険なため、丁寧に教えてくれる先生が必要とのこと。
そしてリリスミンさんは教えるのが苦手だから無理だと告げていた。
そのためか、ララミィは火のラギ・アルデを集中的に練習していた。
俺が得意なのも火のラギ・アルデなので教えやすいが、よほど嬉しかったのかたまに使い過ぎてバタリと倒れている。
そして倒れたララミィの上にシンクゲイドルのララーが乗っかり、キュルルはララミィを背中に乗せて寝床へ連れていっていた。
ここ数日でララミィはとても変わったと思う。
何か吹っ切れたような、そんな感じだ。
そして予定では今日中にケルチックさんの故郷、ラールフット族の集落に到着予定。
そのためか、いつも以上に張り切ってガルンヘルアを撃っている。
このラギ・アルデの力は不思議だ。
使うほどに術を放つことが自然に出来てくる。
その所作が日常に溶け込んでいるような気がする。
料理の手伝いをするのも、飲み水として提供するのも、濡れた髪を乾かすのも全て、ラギ・アルデを使っている。
これは、前世で髪を洗ったらドライヤーで乾かすとか、火をおこすのにキッチンでガスを使って火をつけるとか、そういった環境適応に近いと思う。
突然それが無人島に行って出来なくなったらすごく困るのと一緒で、この力が使えなくなったらとても困るだろう。
それくらい転生してから馴染んでいると思う。
「ファウー? ちゃんと見てる?」
「あ、うん。大分大きな火を真っすぐ飛ばせるようになったね」
「本当? 私、才能あるかな?」
「あると思うよ。僕も毎日窓から飛ばしてたなぁ」
「そうなんだ。ファウも練習してたんだね。うふふ」
「ねえララミィ。土の術は使ってみなくていいの?」
「それが、全然上手くいかなくて。でも今は、火の術が使いたいんだ」
「どうして?」
「私ね。グラノドスに助けられたって思ってるの。もちろんね、お城を壊して町を燃やしたのはすごくいけないことだし、悪いことだと思う。子供をさらわれて……止められなかったとしても。でもね、私とキュルルちゃんは守られてた。ううん、ララーを守っていたのかもしれない。それでも私は火を恐れたくない。火と共に生きたいんだ」
「そっか……そういえばグラノドスの卵。あれはさ……」
ララミィにはまだ話していなかった。
あの卵は絶対、ナギさんの故郷、ツファル族の村で育てた方がいいことを。
あの村なら人はほとんど入れないし、見つかる可能性は低いと思う。
人が悪さをしなければ、グラノドスはずっと大人しくしていたんだ。
「そっかぁ。あの子、ナギさんのところで。そういえばナギさんは?」
「先にラールフット族の集落にいるみたい。でも……」
そう。ラールフット族の集落に着いたら、多くの人とお別れなんだ。
自分とマシェリさん、ティオンさん、ドラグ、そしてキュルル。
後の人は誰もついてくるなんて聞いてない。
……ララミィも。
「ファウ。私ね、すごくいっぱい考えたの。ファウと、それにジョグさんと知り合ってからね。自分がこんな風に城を離れて、ウラドマージのこと以外を調べたりしてね。それを覚えていられるようになって。お城の塔の中で毎日、鳥を見てた。でもね、私もう直ぐその鳥と同じになるんだよ」
「ララミィ……」
「私、ファウについていく。でも、あなたの故郷までじゃない。ミストレート大陸。私はそこで冒険者になる。あなたに導かれて。そしていつか、私が大きくなったら……」
「おーいファウ! そろそろ出発だぞぉー! 乗れー!」
「はーい! ごめんねララミィ。よく聞こえなかったよ?」
「ううん、いいの。行きましょ!」
――再び荷車に乗り込むと、数刻して目的地に辿り着いた。
外に出てみると……圧巻だった。
どうみても転ぶ姿勢で踊っていたり、その姿勢で立ち続けるのは無理って状態を維持していたりする。
ケルチックさんはあんなことしてないのに、なにをしてるんだろう?
ララミィと二人で荷車から降りると、待ってましたと言わんばかりにゼフィスさんが近づいてくる。
「ようファウ。全くお前ってやつは運がいいのか悪いのか。特死の毒を食らうなんてな」
「その節は本当にお世話になりました。キュルルまで助けてもらって……」
「おいおい。俺は商売人だぜ? 先行投資に決まってるだろ。お前さんにゃゼフィス商会ご用達の獣医になってもらわないと困るからな。期待してるぜ」
「必ずよい報告が出来るよう頑張って観ます。でも、何から手を付けたらいいかも分かってはいないんですけど」
「なに。でっけぇ目標さえ建てちまえば、後は自ずと調べていくことになる。お前はまだ若い。きっとうまくいくさ」
う……そうはいっても前世と合わせるとそれなりの年齢なんだよね。
十歳でここまで考えてたら末は総理か大臣かって言われるような人じゃないかな。
「おっとそうだ。ほらよ、お前の剣だ」
「あれ? これは……伸尖剣? でも形状が随分違いますし、それに……」
よく見たら自分の腕輪が無い。
……腕輪が伸尖剣と一体化してる!?
「伸尖剣・マーキスとでも名付けておくか。そいつは俺が込めた武器でも一等品。オードレートの血を引くお前のために作ったものだ。腕輪にある耐火性をその持ち手に付与した。お前の強すぎる火の力を近くでみて、その方がいいと判断したんだ。あーあ、やっぱお前うちに欲しかったなぁ。リリスとミゲと組んだら化け物隊の完成だったのに」
「あはは……有難うございます。将来、お二人とお仕事することだってあるかもしれませんよ?」
「はっはっは。そいつは喜ぶだろうな。それとだ。こっちの服はせん別だとよ。シェルチェとルオ、ミゲからだ。あいつらとは会えないだろうからな」
「ええ!? いいんですか?」
「もらってやんな。ケルは集落ん中にいるからよ。後で会うだろ。いいかファウ。次に会うまで絶対に死ぬんじゃねえぞ」
「はい。ゼフィスさんたちはこれから?」
「お前らを見送ったらウラドの北東にある町へ向かう。ちょいと野暮用でな。それが終わったらサグドラス・オアシスにも手を入れなきゃならねえ。ついでに一商売していくがな。ここにはミストレート、スレンビーの足跡から入って来る珍しい品があるんだよ」
「スレンビーの足跡? 確か……エストマージの南にある横長の大陸でしたっけ」
「よく知ってるな。その通りだ。昔スレンビーっていう巨大な生物がいてな。そいつの足跡のような形をしているからそう名付けられたそうだ。ま、伝説上の生き物だろうけどな」
「へー……ゼフィスさんて歴史にも詳しいんですね」
「俺のは受け売りだよ。あいつのな……」
「あいつ?」
「いやなんでもねえ。ほれ、それよりお姫様をあんまり待たせるもんじゃないぜ。見て見ろあの早く行きたいの我慢してますって顔。ありゃあ将来本当にリリスみてえになるかもなぁ……おー怖い怖い」
「リリスミンさんはとても優しいですよ?」
「ファウ、お前も男ならよく覚えておけよ。女の尻は二つ追うな。いいな?」
「えーっと……」
自分にはあまり縁のないような話かな。
だってキュルルがいれば十分だもの。
でも……故郷には幼馴染、いや、姉妹のような関係の少女が二人いるから少しドキッとした。
「お前……なんでそう言われてキュルルを見てるんだ」
「キュー?」
「まぁいい。集落にはケルみてーなちょっと口が悪い奴が大勢いるが、安全なとこだ。ゆっくり散策してきな」
そう言いながら、俺の腰にしっかりと伸尖剣をくくりつけてくれたゼフィスさん。
あれ、前のより軽い……? 受け取った服は後で着替えるとして、剣はぜひ試しに鞘から出してみたい!
けど、お尻を叩かれてさっさと行けと合図をされてしまった。
ゼフィスさんを振り返って見ると、笑ってはいるがどことなく寂しそうな顔だった。
「……ファウ。竜と共にあらんことを、だぜ」




