3話 10度目の異世界の終わり
目の前にうっすらと青白く輝く魔方陣がある。
直径3mほどの円形に六芒星が基本構図の複雑な模様を持つ魔方陣だ。
この魔方陣は士をこの世界に召喚した際に用いられた魔方陣で、魔石などからの魔力供給がなくても、100年に渡って周囲から魔力を集めて蓄積し、召喚魔法を発動できるというものらしい。
この世界の空気中には魔素が含まれており、召喚魔法陣はこの空気中の魔素を徐々に取り込んで蓄積する。
今回は魔王の魔石を用いて百年分の魔力の代わりとし、召喚時と逆の現象を引き起こし士を地球へと送還するのだ。
魔方陣の正面に設置された台座に、士は魔王が残した魔石を懐から取り出し、そして設置した。
魔王の魔石は金色の輝きを放つ直径15cm高さ25cmほどの六角柱。
先端は六角錐となり尖っている。
それは美しく輝く黄金色の水晶の結晶のようにも見える。
士はゆっくりと歩みを進め、魔方陣の中央付近へと立つ。
金色の水晶を思わせる半透明の魔石が台座の上でいっそうその輝きを強くし、徐々に金の光が魔方陣へと供給されていく。
魔方陣は青白い光から徐々に金色へとその発光色を変えようとしていた。
そのとき魔方陣の下に何か赤い光がきらめいた。
その光は金へと色彩を変えつつある魔方陣とほぼ同じサイズの円形へと広がり内に灼熱の五芒星を結ぶ。
「危ないっ!」
瞬間、誰かが叫び士は突き飛ばされた。
と、同時に灼熱の円柱が赤い魔方陣から立ち上がり魔方陣上の全ての物体は原子レベルに熱分解され、士の下半身とともに蒸発した。
かろうじて魔方陣からはじき出されていた士の上半身は、彼を突き飛ばした人間の左腕と一緒にドサリと床に落ちた。
切断面が焼けたため出血はなく、士は意識を保っていた。
顔の横には踊り子の腕輪をつけた左腕が落ちていた。
士を救おうとしたのはナーエだった。
士は腕の力で残った体を持ち上げ上を見る。
「なぜだ……」
士はその場にいる元パーティーメンバーと国王や国の重鎮どもをにらむ。
「その傷ではどうせ助からん。おとなしくあの世へ旅立て」
冷めた声でカールが言う。
「まあまあ、いいじゃないカール。冥土の土産に教えてあげれば」
他人の不幸を楽しんでいるようにリージュが言う。
仕方が無いなといった表情で士を見下ろしながらカールが説明した。
「俺たちはいい仲間だったが、俺たちが忠誠を誓っているのは王国だ。そういうことだ」「俺が邪魔なら……送り返せばいいだけじゃ……ないか」
そこまで言って士は一つの可能性に気がついた。
「まさか無いのか……
送還の魔法……」
「あら勘がいいじゃない。そうよ。この世界には送還の魔法なんて無いのよ」
リージュがいう。
「力を持った異世界人を野放しにするほどのリスクを俺たち王国は背負えないんだ」
カールが引き継いだ。
「ゴメンナサイ。あなたはこの国にとって魔王と同様に危険なの。
こうするしかなかったの。ゴメンナサイ」
タシアは人を救う白魔道師の本分からか、士の殺害を快くは思っていないようだったが、彼を救う気も無いようだった。
「まあそういう訳だ。あきらめて逝け」
カールの言葉を聞きながら士の意識は徐々に混濁していった。
『どうやら俺はまた死ぬらしい……』
士はこの世界に来て10度目となる臨死体験に身をゆだねる。
光の粒子となって体が崩壊していく中、スキル、リピートライフの発動を彼は感じた。
リピートライフ、彼がこの世界に最初に召喚されたときに得たスキルの一つだ。
士はダメージによって声を出す力が残されていないなか、強く思う。
『今度こそ地球へ、日下部優のいる日本へ帰ることができると思ったのに……
何にしても、次こそは地球へ帰る。
11度目となる次こそは……、必ず成し遂げる……』
この絶望的な状況の中でも士の意志は決してくじけることはない。
一際強い閃光を発しながら、士は完全に光の粒子となって消えた。
まるで士のあとを追うように、踊り子のナーエの腕も光の粒子となって消えていく。
魔方陣の広間には、士を屠った人々のみが残される。
その中でもとりわけ満足そうな笑みを浮かべているのは、王族とかつて仲間だった剣士、それに黒魔術師だった。
青白い光に包まれて、 士は先ほどと同じ王宮の召喚の間へあらわれる。
士が死んだ場所から2mも離れていない。
士は魔方陣の中央に18歳の肉体を得て再び召喚されたのである。
いや、再びというと語弊がある。この召喚は彼にとって11度目なのだから……
「くっそーーー!何でこんなことになってるんだーーー!」
士の叫びが召喚の間に響き渡った。
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