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2話 10度目の異世界

本日2話目です。



 3年後。王城には予想に反してあまり人がいなかった。

 魔王を倒した勇者の見送りにしては少し寂しいような気もするが、一刻も早く地球へ……、日下部優くさかべゆうのいる日本へと帰りたいという思いが先に立ち、つかさはその雰囲気の異様さに気がつかなかったのだ。

 魔王城に乗り込んだとき一緒だったつかさのパーティーの面々は、それぞれに独特の表情をしている。


 騎士団長となった炎の剣士カールと黒魔術師団長となった炎雪の魔法使いリージュは無表情でただまっすぐに正面を見据えていたが、つかさの存在に気づくとそれぞれ声をかけてきた。


「ツカサ、これで貴様ともお別れだな!

 なーに後のことは心配するな。おまえと取り戻した平和は俺がきっちりと守ってやる」


 漆黒の鎧に身を包むカールは腰の長剣をガチャガチャ言わせながら歩み寄るとつかさの手をがっしりと握り、力強く言った。


 その目にはこれからの自分の前途に対する自信なのだろうか、野心を含んでいるようにも見える炎のような揺らめきが瞳の奥にあるような気がした。


「ツカサ、3年間という長い間本当にありがとうございました。

 私も黒魔術師団長として残りの魔物や魔人と戦うから、この世界のことはもう心配しないでね」

 隣にたつ暗黒のローブをまとった美女もカールとよく似た野心を(まなこ)に抱き、漆黒の剣士と並んでつかさに声をかけた。


「二人ともありがとう。俺も後のことは心配していないよ。

 もうこの世界におまえたちと対等にやり合える敵はいないはずだ。

 ナーエもタシアも元気でな!この世界をたのむ」

 つかさはパーティーの残りのメンバーである踊り子と白魔術師にも声をかけた。


「ゴメンナサイ。

 私たちはあなたに協力してもらっておきながら何もできない……」

 視線をさまよわせるようにしたのち、うつむいてつぶやくように白魔術師団長となったタシアが言った。

 タシアは儚げな面影の美少女だが、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「あたしは途中加入だったからみんなほど長いつきあいじゃないはずなんだけど、なんか今は胸がとっても苦しいよ。

 ツカサ、向こうでも元気でね。私のこと忘れないでよ!」

 露出度の高い踊り子の衣装で均整のとれた躍動的な肢体をふるわせて、笑顔でナーエがいった。そのほおには涙が流れている。


「ああ、忘れないよ。

 短いと言っても1年も一緒にいたんだ。忘れるわけがない」


 つかさが言葉を返すとナーエは無言で駆け寄って抱きつき、そっとつかさ(ほお)に唇を寄せた。


 一瞬戸惑った彼だが静かに言葉を発する。

「ありがとう。それじゃあ行くよ」


 ナーエはこれまで献身的に尽くしてくれた。

 過去9度の繰り返し(リピート)ではなし得なかった魔王の討伐をやり遂げることができたのは、このナーエのパーティー加入のおかげだ。

 彼女の能力無くしては、あり得なかった。


 献身的に尽くしてくれたこの少女は時に剣舞の舞で前衛を務め、時に灼熱の舞で後方から魔法にも似た踊り子特有の超常現象を引き起こして攻撃し、不利な戦局を何度も覆してくれた。

 地球に……、日本に優がいなければ、つかさはナーエに惚れ、この世界に残るという選択もあっただろう。


 しかし、彼には思い人がいる。

 この世界に召喚されて幾星霜がとうとも、忘れることができなかった優の面影を切り捨てることはできない。


 名残惜しそうに体を離すナーエに笑顔で微笑(ほほえ)み、つかさは送還用に書き直されたという魔方陣へ向かってあゆみを進めた。



9度の失敗を経て、9度の繰り返しを糧にし、10度目にしてようやく……

 ここまでたどり着いた。懐かしのふるさとはもう目の前だ。



 このときのつかさは、自分が日本に戻って再び日下部優と巡り会うことに何の疑いも抱いていなかった。







できれば切りがよいところまで連休中に投稿したいと思います。

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