10話 送還の魔方陣にて
「三奈江、準備はいいか」
「ええ、いつでもいいわ」
ボルハチの店の客間で夜を待った士は各地へ分散させていた分身と再融合をすませ、万全の状態で三奈江に声をかける。
まだ残っている分身は、王城の三体だけだ。
その三体とも召喚の間で合流する。
三奈江の返事を確認すると、士は三奈江とともに瞬間移動を発動する。
一瞬の暗転ののち、二人の目の前からボルハチ、ライラの二人が消え、王城に残っていた分身三体が代わりに現れる。
士と三奈江は王城の召喚の間へ立っていた。
前回の周回時に二人が命を落としたその部屋である。
「どうだ、解析の状況は?」
士は分身に問いかける。
「ああ、融合すれば分かることだが、可能性がある部分はここしかないというところまでは辿り着いた」
「分かった。すぐに融合するぞ」
分身三体との融合をすませた士は早速魔方陣の中心の魔法文字を変更する。
「準備はできた。
これで魔方陣の働きは逆転する」
「つまり帰ることが出来ると言うこと?」
三奈江の質問に士は首を横に振る。
「正直分からない。
元々のこいつは不特定の世界から勇者の素養がある者をこの世界に転移させるようにできている。
逆転運転させることで、この世界の勇者を異世界へ送ることはできるはずだが……」
「つまり、確証はないのね」
「まあ、そういうことだ。
誰もやったことのない実験だからな」
「でも私たちはそれにかけるしかないのね」
「ああ、そのとおりだ」
士と三奈江はお互いの瞳を見て、その覚悟を決める。
「いいか、やるぞ」
「ええ、何が起こるか運を天ね」
士は三奈江と共に琥竜の魔石を魔力供給の台座へと設置する。
魔石からのエネルギーが台座を通して魔方陣へ注がれる。
召喚の魔方陣改め、送還の魔方陣に青白い光が宿りはじめる。
「行こう」
士の声に三奈江が頷き、二人は手をつないで魔方陣の中心へと入って行った。
召喚の間は送還の魔方陣から溢れる光で満たされ、光が納まったとき二人の姿はそこになかった。
「ここはどこだ」
思わず漏れた士の言葉に三奈江は反応することができない。
二人は今、空中を絶賛降下中である。
眼下にはどこまでも広がる海が見える。
その色はエメラルドグリーンで、地球の珊瑚礁の海域に似ている。
何にしてもこのままでは、そう遠くない未来に海面に叩きつけられることになるだろう。
自分たちが転移した結果、空中に投げ出されたことだけは理解できた二人だった。




