↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/11

第八話 助けたのに怖がられた


 路地に静けさが戻っても、アカネはすぐには動けなかった。


 さっきまで鞄の中で握っていたデリンジャーの感触が、まだ手の平に残っている気がする。


 自分は、何もしていない。


 ただ鞄の中に手を入れて、黄金のデリンジャーを握っただけだ。


 それだけなのに、空気が変わって、男たちは怯えたみたいに逃げていった。


 そんな事、普通は起こらない。


 でも、起こった。


 怖い、怖いけど、それ以上に路地の奥に残された女性の事が気になった。


(……大丈夫かな?)


 そう思ってしまった以上、このまま帰るのも後味が悪かった。


 いや、後味なんて言える立場でもないのかもしれない。


 自分が助けたのかどうかすら、自分でもよくわからないのだから。


 女性は、壁際でへたり込むようにその場に座り込んでしまっていた。


 アカネは意を決して、恐る恐る物陰から出る。


 声をかけようとアカネは、一歩足を踏み出して近づこうとした。


 気配に気が付いたのか、女の人がこちらへ顔を向けた。


 その瞬間、アカネの足が止まりそうになる。


 視線を向けられただけで、怯えそうになった。


 出てこない方が良かったかもしれないと思いながら、少しずつ近づく。


「あ……あの……」


 かろうじて絞り出した声は、自分でも驚くくらい弱かった。


 大丈夫ですか?


 そう言葉を発しようとした時だった。


 女性の視線が、アカネの肩から下げている鞄口に向けられる。


 アカネはゾッとする。


(しまったっ!)


 そう思った時には、もう遅かった。


 黒いケースの縁(ふち)。


 その奥に沈む、鈍く光る黄金のデリンジャー。


 ほんの一瞬。


 本当に一瞬だけだったのに、それだけで十分だった。


 女性の人の表情が変わる。


 さっきまでの疲れたような顔つきが消えて、目がはっきりと見開かれる。


 警戒(けいかい)とか、戸惑いとか、そんな曖昧なものじゃない。


 もっと直感的な、わかりやすい恐怖だった。


 アカネは、慌てて鞄を抱きかかえる。


(ち……違う……いや、違わないけど)


 中にあるのは、確かにアレだ。


 だから何が違うのか、自分でも説明できない。


「あ……ちが……」


 私は、助けたかっただけで。


 声が喉に引っ掛かったみたいに上手く出ない。


 言い訳しようとしたところで、まともな言葉になる気がしなかった。


 本当にそうだったのか、自分でも少しわからなくなっていたからだ。


 あの不思議な力を感じた瞬間、自分の中の何かがそれを喜んだ気がした。


 女の人が立ち上がると、一歩下がる。


 それだけで、アカネの胸の奥がスゥッと冷える。


 怖がられた。


 当然だ。


 知らない女子高生が人気のない路地から出てきて、鞄の中には得体の知れないものを隠している。


 しかも、今のこの状況だ。


 取り囲んでいた男たちが急に逃げた直後なのだから、余計に変に見えるに決まっている。


「これは……その……違くて……」


 かろうじて出た声は、自分でも情けなくなるほど頼りなかった。


 女性は無言のまま、長い髪を揺らしてアカネから距離を取る。


 完全に警戒されてる。


 その現実が、ゆっくりと胸に沈んでいく。


 女性はアカネに背を向けると、逃げるように路地を駆け出していった。


 まるでアカネのそばにいる事そのものが、危険だと知っているみたいに。


 追いかけるなんて無理だった。


 そんな事をしたら、ますます怖がらせるだけだ。


 自分だって、こんなものを持った誰かが目の前にいたら逃げる。


 むしろ悲鳴を上げられなかっただけ、まだマシだったのかもしれない。


 だからアカネは、その場に立ち尽くすしかなかった。


 女の人の背中が、路地の向こうへ消えていく。


 一度も振り返らない。


 感謝の言葉なんて、もちろんない。


 そんなものを期待していたわけでもないのに、それでも胸のどこかが少し痛んだ。


 助けたはずなのに、胸に残ったのは拒まれた冷たさだけだった。


 アカネはギュッと鞄を抱え込む。


 重い。


 その重みが、全部の原因みたいに思えた。


 いや、実際そうなのかもしれない。


 あれを拾わなければ、こんな事にはならなかった。


 こんなふうに誰かを怖がらせる事もなかった。


 学校から逃げるみたいに飛び出して、知らない路地まで来て、女性に絡んでいる男たちと遭遇して、最後には助かったはずの女の人にまで怖がられる。


(……何やってるんだろう、わたし……)


 余計な事をすると、いつもこうなる。


 こうなるなら、最初から何もしなければ良かったのかもしれない。


 でも、あのまま見ているだけなのも嫌だった。


 じゃあどうすれば良かったのかと聞かれても、結局答えなんて出てこない。


 女性はもう、路地の向こうへ消えていた。


 路地には、自分しかいない。


 ひとり残された路地が、急に広く見えた。


 残っているのは、耳が痛くなりそうな静けさだけだった。


 帰りたい。


 でも、帰りたくない。


 そんな情けない気持ちのまま、アカネはしばらくその場から動けなかった。


お読み頂き、ありがとうございます。


この作品を「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら


ブックマーク登録と下にある★★★★★をポチッと押していただけるとありがたいです。


感想やレビューも是非お寄せください! 皆様からの応援をお願いします!


別の作品も投稿しているので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。