↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/11

第十話 黄金の継承器


「……これ、何なんですか?」


 アカネは、喉の奥から声をどうにか絞(しぼ)り出した。


 背の高い男が、黒服たちと一瞬だけ視線を交(か)わす。


 そして背の高い男が、儀式の文言(もんごん)を読み上げるような口調で告げる。


「黄金の継承器(けいしょうき)……我々の組織において、正統な後継者にのみ許される継承の証です」


 継承器。


 聞き慣れない言葉だった。


 けれど響きだけで、自分とは無縁の世界のものだとわかる。


 少なくとも、普通の女子高校生が鞄に入れて持ち歩いて良い物ではない。


 アカネは喉の奥で小さく息を呑む。


 秘密結社みたいな話だと思う。


 現実味がない。


 けれど笑えなかった。


 今の自分の周りでは、現実味のない事ばかりが起きている。


 男は淡々と続けた。


「少し前、前任者が病で亡くなりました」


 前任者。


 その言い方は、まるで何かの役目が空いたみたいだった。


 継承という言葉が急に生々しくなる。


 少し前まで実在していた誰かが、確かにこれを持っていた。


「そのため新たな適合者(てきごうしゃ)が見つかるまで、継承器は保管される予定でした」


「適合者……?」


「継承は血筋では決まりません」


 男は、はっきり言った。


「誰に生まれたかではなく、証に誰が応えるか。 それだけで決まります」


 血筋ではない。


 その言葉が、アカネの胸の奥へ妙に重く落ちた。


 誰に生まれたかではなく。


 誰が応えるか。


 そんなの、知らない。


 応えた覚えなんてない。


 選ばれたいと思った事もない。


 ただ拾っただけ。


 たまたま見つけてしまっただけだ。


 なのに、まるで最初から誰かが待っていたみたいな言い方だった。


「数日前、継承器は保管のため移送(いそう)されていました」


 男の声が続く。


「その途中で襲撃を受けました」


 アカネはゴクリと喉を鳴らす。


 襲撃。


 そんな言葉を、こんなふうに聞く日が来るなんて思わなかった。


 いや、そもそもそんな日が来ていいはずがない。


「襲撃者は、銀の組織」


 銀……。


 その瞬間、アカネの背中にゾクリとしたものが走った。


 頭の中に浮かぶのは、銀髪。


 教室でまっすぐこちらを見ていた、あの冷たい目。


 ルナ=シルヴァ。


(まさか、そんなわけ……)


 ただの偶然だと思いたかった。


 転校生の髪が銀っぽかっただけ。


 それだけの事だと思いたかった。


 でも今、その銀という言葉を聞いた瞬間、頭の中で嫌なものがひとつに繋がってしまう。


 男はアカネの反応を気にする様子もなく続ける。


「銀の組織は、我々と敵対しています」


 黄金と銀。


 それだけでもう、偶然では済まない気がした。


 しかも自分は今、その黄金の継承器とやらを持っている。


 最悪だ。


 嫌な予感しかしない。


「襲撃によって継承器は所在不明となり、そして流出先であなたに拾われた。 それまでは偶然です」


 男の視線が、まっすぐアカネに向く。


「しかし、我々が継承器を回収するそれより先に継承が始まった……あなたに」


 アカネは呼吸が止まりそうになる。


 そんなの、受け止められるわけがない。


 昨夜からずっと、意味のわからない事ばかりだった。


 でも今、それが全部ひとつに繋がってしまった。


 拾った黒いケース。


 黄金のデリンジャー。


 路地で起きた異変。


 黄金の組織と銀の組織。


 そして、自分。


 全部、自分へ向かってきている。


 アカネは、かろうじて壁に背を預けた。


 そうしないと立っていられない気がした。


 男は静かな声で言う。


「継承器……その銃は、見た目どおりの品ではありません。 資格なき者が扱っても沈黙します。 撃てもしません。 意味を持たない。 ですが、あなたは既に反応を得ている。 黄金のデリンジャーに触れ、継承器に応えられた時点で、継承は始まっています。 ですから草壁さん、あなたはもう無関係ではいられません」


 その言葉は、怒鳴り声でも脅しでもなかった。


 なのに、今日いちばん重く胸に沈んだ。


 もう無関係ではいられない。


 たぶん、それが事実なのだ。


 アカネは何も言えなかった。


 言えるはずがない。


 頭の中はぐちゃぐちゃで、怖くて、ただ帰りたい気持ちだけが膨らんでいく。


 その時だった。


 男の説明が終わるのを待っていたみたいに、アカネは右手の甲に妙な違和感を覚えた。


 ピリッと小さく痛む。


「ッ……!?」


 ピクリと、アカネは肩を揺らした。


 手の甲がじわじわと熱を持ち始める。


 熱いような、ざわつくような、皮膚の下を何かが這うみたいな感覚だった。


(何……?)


 アカネは反射的に右手を目の前へ引き寄せる。


 街灯の薄い光の下で、自分の手の甲を見た瞬間、息が止まった。


 手の甲に、うっすらと黄金色の線が浮かんでいる。


 最初は光の加減かと思った。


 けれど違う、細く繊細な線が、じわじわと形を結んでいく。


 禍々しいのに、目を離せない。


 その紋章には見覚えがあった。


 鞄の中にある黄金のデリンジャー。


 そのグリップに刻まれていたものと、まったく同じだった。


「な……に……これ……」


 右手が震える。


 刻印はまだ薄い。


 肌の下ににじむような淡い輝きでしかない。


 それでも、見間違いではありえなかった。


 自分の体に、自分の知らない印が勝手に刻まれている。


 まるで最初からそこにあったものが、今になって姿を現したみたいに。


 まるで自分に、もう逃げられないと告げるみたいに。


 ゾクリと背中が震えた。


 アカネは右手を見つめたまま、声も出せずに立ち尽くした。


お読み頂き、ありがとうございます。


この作品を「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら


ブックマーク登録と下にある★★★★★をポチッと押していただけるとありがたいです。


感想やレビューも是非お寄せください! 皆様からの応援をお願いします!


別の作品も投稿しているので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。