俺と妹のゲームの設定
学園に通う生徒は、王都に家を持つ子供は家に帰るが、基本的には学園の寮生活をするのが一般だ。
辺境住みの俺は当然この寮で生活をしている。
基本的には二人一部屋だが、Aクラスの生徒は特別に一人で一部屋使える。
お陰で俺の部屋は立派な作業場に変身した。先生に許可を取っているとはいえ、人を招けないレベルで散らかっているので抜き打ちで先生にチェックされたら部屋替えされかねないな。気をつけねば。
俺はヴェイレンと話をした魔力を封じるアイテムを作っていた。
今作っているのはブレスレット。細めのチェーンとその間に細かい魔法石を複数埋め込むことで魔法の発動や利用を封じる結界のようなものを作成した。
パット見ただけならキラキラしたきれいなブレスレットだ。
メアリーに渡すことを最初は想定していたので、きれいカワイイを考えて作ったが、ヴェイレンにはちょっと似合わないよな。まぁ、一旦試作品として渡して、あとでデザイン性は変えればいいだろう。
「ん?ああ、メアリーか」
部屋の通信板が点灯する。
いわゆるタブレットPCのようなものだ。スマホサイズまで小さくすることが今のところ、俺の技術ではできなかった。
「メアリー、お疲れ」
『お兄ちゃん……今日も部屋が散らかっているのね』
「ははは、これ作ってたんだ。メアリー用」
完成したばかりのブレスレットを見せる。メアリーの好きな青系の色を基調に作成した一点もの。
『え、すごくきれい。でも、誕生日でもないのになんで?』
「一応魔法を封じる効果をつけた。メアリーは常時魔法を発動だろう。今まで気づかなくて悪かったな」
そういうと、なぜかメアリーの表情が暗くなった。
あれか、俺が気の利かない兄だったって認識されてしまったのか?
『……お兄ちゃんも鑑定持っていたよね。私の事、鑑定したことある?』
「ないぞ。家族といえどプライバシーを守らないとな。さすがにカワイイ妹のスリーサイズ知ってる兄って嫌だろ?」
『たしかに嫌!……ごめんね、私はみんな見えちゃって。私の事どう思っているか見えちゃってたの』
つまり、見たくない本心が見えてしまっていた可能性が大きいということだ。
「大丈夫だったかメアリー、ごめんな。兄ちゃん、ずーっとメアリー大好きってなってて煩かっただろ?」
『うん、びっくりするくらい大好きって思っててくれて驚いたよ。
でも嬉しかったんだ。……上の兄さまは私の事面倒だと思っていたし、お母様もお父様も少し私の事薄気味悪いって思っていたの。両親に迷惑かけないようにしたつもりだったんだけど、気持ちが読まれているみたいだって、私にあんまり近づかないようにしていたの知っているんだ』
両親がそんな風にメアリーを見ていたなんて知らなかった。
長男とメアリーは10歳以上年が離れているからな。思春期に生まれた妹でこういろいろ考えちゃうことがあったんだろうな、うん。
『なんでお兄ちゃんは、私の事変わらず好きって思えるの?
心のうちが見えるなんて怖いでしょ?』
「そうだな……、俺もメアリーと同じ鑑定を持っているし、俺は本音も建前もほぼないからな。
見られて困る内心ってものが無い。だからかな」
日ごろからメアリー愛を語っているからね。両親からも妹離れができなそうで不安って言われているから仕方ないね。
『……今日、どうしてやり返さないかってお兄ちゃん聞いてきたよね。
あれは、私が逆らったら辺境が、私たちの住んでいた土地が魔物に襲われて壊滅するからなの。
それに、私ね……この世界を害する存在なんだって』
ぽつり、ぽつりと語りだしたのは、へロイネから聞いたというこの世界の顛末。
メアリーはヒロインであるヘロイネのサポートをしているが
誰からも愛される彼女に嫉妬し、内側にどす黒い感情を募らせていく。
家族からも疎まれていたメアリーに優しく接してくれるヘロイネが大好きになるが
それと同じくらいに憎く、恨めしく思っていたところ、この世界を滅ぼそうとしている魔の王にその肉体を奪われ、ヘロイネに偽りの情報を与え、彼女を孤立させる。
そして傷つき弱ったところを狙いヘロイネを殺そうとするそうだ。
魔の王に体の自由を奪われたとはいえ、意識はあり魔の王に自身の黒い願いを伝え世界の崩壊を手助けするという。
サポート能力は魔の王にとっても便利なもので、国の要人の弱点などを調べるのにもってこいだった。子供のだから大人にか弱さを利用して取り入ったりもしたようだ。
『魔の王を滅ぼす際に私も処罰として殺されてしまうの。
……たしかに、人の本音が見えて嫌な事はあったけど、世界を恨むほどじゃないの。
だけど、ヘロイネさんのそばにいるとずっとそんなことばかりが頭の中に流れてきて、本当に私が魔の王を手助けしてしまいそうで……』
おそらくゲームのように追い詰められていないメアリーを追い詰めて、魔の王とやらを呼び出そうなんて考えている気がする。イジメを行っているのは、メアリーが人々を恨むように。
「じゃあこのブレスレットはちょうどいいな。余計な声を聴かずに済むよ、メアリー」
『ありがとうお兄ちゃん……』
喜んでくれてよかった。その後なんてことは無い雑談をして通信を切った。
静かになった部屋で俺はヘロイネに対して怒りが湧いていた。
アイツめ……、カワイイ妹になんてことを吹き込んでんだ。この世界がゲームが舞台だったとして、ゲームそのままってわけにいくわけないだろうが。
そもそもお前が転生者としてキャラクターに取り付いている時点で、原作通りじゃないんだよ全く。
「しかし…原作か」
今まで試していなかったが、俺は俺自身に鑑定をしてみる。
この世界がゲームを舞台にしているなら、そこで俺はどんな役割だったのか気になったのだ。
「鑑定」
ジョン・ドウ 転生者
辺境伯の次男 王国での最新魔道具制作者として注目を集めている。
現在クラスメイトのヴェイレン・オスリック、ジュノー・フィデリアから求愛を受けている。
極度の妹好き。ただし、ゲーム救国の乙女では『鑑定』魔法が使えるようになった結果、大量の情報に精神を病み5歳の時点で自殺している。そのためメアリーはジョンという兄がいたことを知らない。外伝でメアリーの過去編が明かされた際にちらりと出てくるだけ。両親はメアリーがジョンと同じ鑑定を持っているともっと早く知っていれば、彼女の精神サポートを行い、助けることができたはずなのにと悔やんでいる。
そうか、そもそも俺は死んでいたのか。精神が病んだとあったが、俺は病んだ記憶がない。
この世界に生まれた時からずっとジョン・ドゥだったが、鑑定が使えるってわかった時はしゃぎまくっていた記憶しかないぞ?もしかして転生者のお陰でなんか助かったのか?
実際まだまだ鑑定の文章は長いが、面倒なので読み飛ばす。
―――そうか、俺は必要そうな情報以外は適当に読み飛ばしてるが本来のジョンにはどれが必要かとかわからずこのながーい鑑定文を全部頭に詰め込まれてたからおかしくなったのか。
納得だ、出会う人全員の人生を詰め込まれたら頭の中ぐちゃぐちゃになるな。
俺は鑑定したい時に鑑定を発動しているが、メアリーと同じだというのなら常時鑑定が発動していたということか。もしも本来のジョンに逢えることがあったなら、このブレスレット、渡してやりたかったな。
完成した魔法封じのブレスレットを眺めながら、あり得ない可能性を考えていた。
その日不思議な夢を見た。
あまり顔色の良くない子供が俺の隣に座っていた。
いや…『私』の隣に座っている。
「お姉さん、ぼくと変わってくれてありがとう。辛くない?」
「うーん、今のところとても楽しいよ」
「変わったこと、後悔していない?」
「それはこっちのセリフだよ、君はいいの?」
「ぼくが望んだことだから。お願い……妹を守ってあげて」
私は男の子の頭をなでる。
「大丈夫、カワイイ妹はちゃんと守ってあげる」
「ありがとう」
甘えるようにぎゅっと私に抱き着いた男の子は、どこかで見たことある顔だった気がした。
目を覚ましたら何か夢を見ていた程度ではっきりは思い出せない。
ただ、かわいい男の子だったなということしか覚えていない。なんかちょっと大事な話したような気もしたんだが、まあいいか。
寝起きに、ブレスレットをもう一つ作ってヴェイレンの分も用意する。
授業が始まる前にメアリーにブレスレットを渡そうと早めに登校すると、玄関前で人だかりができていた。
「何があったんだ?」
「あ、先輩!なんか女の子がケガして倒れているって……」
けが人が出ているという割には人が集まっているだけで何かしている様子が無い。
嫌な予感がして人垣をぬい、けが人の元にたどり着いて血の気が引いた。
「メアリー……」
額から血を流して倒れていたのだ。
周りからは『聖女をいじめたから天罰だ』なんて声も聞こえたが、今はメアリーの手当てが先決だ。
彼女を抱き上げて救護室に走った。先生はメアリーを見て小さく悲鳴を上げた。
実技の授業の後ならまだしも、朝から血を流す生徒を見て先生も驚いてしまったようだ。
幸い骨や脳に影響はなさそうで、額が割れた際に出血が派手に見えただけで治療魔術で傷跡も残らず治せると分かって一安心した。
このままじゃ普通の学園生活は送れない。寮に戻っても、Aクラスの他の女子からいじめがある可能性もある。
クラス替えを頼んだところで、ヘロイネを聖女とあがめた生徒がいれば同じことの繰り返しだろう。このままメアリーの精神が病んでいけば、それこそゲームのような展開になりかねない。
おそらくそこが狙いなのだろう。どうにかしてゲームの展開へもっていこうとしている気がする。
深いため息をつき、自身の頬を叩いて気合を入れる。
ヘロイネ、お前がゲームの知識を使って話を進めようってんなら、俺だって同じ知識を使って邪魔してやるよ。
俺の妹に手を出したこと、後悔させてやるからな。




