俺と妹といじめっ子
新緑から青葉に変わる頃。
まぁ一学期がそれなりに過ぎた頃、問題が発生した。
妹に友人ができたと思ったら、いいように扱われていただけだったのだ。
「ジョン、ずいぶんと不機嫌だね」
「そりゃ不機嫌にもなるってもんだよ、妹が泣かされたんだからさ」
学園は12~15歳が中等部、16~18歳が高等部。貴族は家庭教師がつく為、小等部は存在しない。
妹は今年学園に入学した12歳。俺は今年16で、学園内でも使っている教室が離れているのでそうやすやすとは会いに行けないのだ。だから、たまーにすれ違えた時に手を振ったりするが、数日前からなんとなく態度が可笑しかった。
てっきり兄が煩わしいとかそういう理由なら泣く泣く手を振ることをあきらめるつもりだったのだが、友人だと思った子はメアリーの固有魔法を目的に近づいていたというのだ。
「ジョンの妹を泣かせるなんて……まぁ、妹狂いの兄がいるっていうのは、今年入学した子は知らないからな」
ファロンは胃を抑えながら俺を見ている。俺、妹のことでなんか迷惑かけたっけ?
あれ、もしかして俺の「博愛主義」って肩書は嫌味の方だった?
妹以外の人類は誰も同列でしか見ていないっていう嫌味の方だった?まぁ事実に近いけど。
「メアリーさん、固有魔法をお持ちなの?」
「ああ、まぁ相手が自分を嫌っているとか好意的だっていう感情がほかの人より気づきやすって感じだよ」
詳しい事はぼかす。詳細を知られて、妹まで王家に狙われては困るからな。妹は平和に幸せに生きてほしいんだ。
「でも、それって大変ですわね。本来人は本心を隠しているところがありますけど、メアリーさんはむき出しの感情を向けられているということでしょう」
「ああー……そういうことになるのか、なんてこった……。ごめんよメアリー、俺そんなこと全然気づかなかった。
下心丸出しの男どもが周りにいるってなんて危険な状況なんだ」
俺は感情、本心見えているのでベンリーってしか考えていなかったが、普通はつらいとか感じるのか。
「近いうちに魔法を封じるアイテムを用意しないとな」
「それはいいね、できたら僕にも一つくれないか?」
「いいけど、ヴェイレンがそんなの持ってて役に立つのか?」
「使い方次第…かな」
なんか不敵に笑ってて怖いなー。
とりあえず俺は、メアリーを泣かせた女子の様子を探ることにした。
うーん、ヘロイネか……。どっかで見たことがある気がするんだよな。
「やあ、メアリー!お昼は食べたのか?」
「あ、お兄ちゃん……」
昼食、食堂に向かうと一人で席についてうつ向いている妹を見かけた。
机の上に食事は置いてあるが、料理に虫が浮いていた。
「あらーメアリーさん。まだ食べ終わっていませんの?
わたくしたちがせーっかく料理を運んできて差し上げましたのに?」
高笑いをしながら寄ってくる女子3人組と、その後ろにいるのはヘロイネか。桃色の髪だから妙に目立つんだよな。
基本的に貴族は金やそれに近い茶髪がおおく、平民は茶や赤、黒髪が多い。俺たち兄妹は黒に近い茶色なので、色だけで判断すると平民と間違われることも多い。
ただ、一応俺たちも辺境伯の子なので貴族の一人ではある。まぁ、一応学園は平等歌っているので、俺は家名を特に名乗っていないっていうこともあり、王家とその婚約者様に近づく平民って勘違いしている奴もいるにはいる。
たぶん俺が学園内で家名名乗っていないといったから、メアリーも真似してしまったんだろう。
ごめんよ、俺が適当なせいで。
「学園が用意してくださった料理を無駄にするおつもりですの?」
「早く食べなさいよ、ほらほら。あなたがヘロイネさんにやったことと同じでしてよ?」
くすくす笑う彼女たちには俺の存在が見えていないんだろうか。
妹は震えながらスプーンを手に取り、料理を食べようとする。
まぁ、乗っている虫は食用だけどメアリーにはキツイよな。しかし、一応食べれる虫を乗せたのはせめてもの優しさなんだろうか。優しさの使いどころが間違っている気がするけどな。
「メアリー、無理して食べたら料理が無駄になる。こっちを食べなさい」
妹の前の席に座って俺の料理と交換する。
「あらあら、あなたなんかを気遣ってくださる人がいましたのね」
「みて、あの黒い髪。平民ですわよ」
こちらを馬鹿にする3人組は男爵の娘が2人、子爵の娘が一人。
爵位だけで見たら家の方が上なんだけどなぁ。
呆れながら料理を口にする。しゃりしゃりと虫のアクセントが邪魔だが、スープの味が濃いので虫の味はさほどわからない。
「ひぃ!この男食べましたわよ!」
「気持ち悪いですわ!」
「おいおい、お嬢さんたち。そんな気持ち悪いものをこの子に食べさせようとしてたのか?」
お兄ちゃん怒っちゃうぞ?
「も、元はといえば、メアリーさんがこのヘロイネさんに意地悪したのがいけないんですわ。
聖女候補のこの方へのイジメは許しませんわ」
うーん、サラダに散らされていると、クルトンっぽさがあって意外といけるかもしれない。じゃなくて、聖女候補?
三人組の後ろでこちらをちらちら見ているヘロイネを鑑定する。
ヘロイネ 聖女候補(転生者)
乙女ゲーム 救国の乙女のメインヒロイン。平民として育てられていたが、その正体は聖女。
隣国の聖女と王国の聖騎士との間に生まれた娘で、王国に逃げてきた際に聖女は亡くなり、聖騎士の遠い親戚に預けられ平民として育つ。聖騎士もまた、隣国から聖女を奪った大罪人として隣国に処分された。
天涯孤独だが、学園で勉学を励みながら友好を深め意中の男性との恋愛により様々なストーリーをクリアしていく。
ただし、それは原作の設定であり、このヘロイネは転生した人間の為性格や行動が異なる。
聖女候補として名前が挙がるのは本来2学期の課外学習時に好感度が最も高いキャラクターが危機に陥った際に能力が開花して、教会に聖女候補として認められる。
現在は自ら聖女になる可能性があると教会に売り込みに行って、聖女候補として教会に保護されている。
立場としては候補といえど、公爵に並ぶ地位を持つ。
うーん、鑑定さんってばなんて便利なんだろうな。
乙女ゲームか……そうか、ヴェイレン達が出ていたゲームはそれだったのか。やったことあったっけ?
どうでもいいか、もうそんなものとは違う設定だろうしな。
「いじめを許さないのは素晴らしい心がけだと思うが、それでいじめをするのはどうなんだろうね。
君たちの考えを教えてくれるかな?」
「で、殿下…!どうしてここに」
「ジュノー様まで?」
ああ、普段フェイレンとジュノーは別室、王族用の部屋で食事しているもんな。
「食堂はどなたでも利用できるはずですわ。たまには友人と過ごしたいと思いまして……ねえ?」
うーん、すっごい視線が痛いなぁー。あれか、俺が遠慮して王族用の部屋での食事から逃げ続けていたせいなのか?
しかし圧がすごい。3人組+ヘロイネは12歳、俺らは16歳で年齢差があるから、それだけでも圧があるのに、相手が王子ともなれば何もしゃべれないって。
「か、彼女たちは私の事を思って」
3人を庇うようにヘロイネが声を上げる。
「思って……なにかな?君は自分の代わりにイジメ返してくれる人ができてよかったって、
安全な場所から眺めていたのかな?」
うわぁお、ヴェイレンのあの冷たい笑顔って俺以外にもやるんだ。
ヘロイネ、泣きそう……。内心はめっちゃ怒ってるな。
『なんで王子が出てくるわけ?いや攻略対象者だから出会えたのはいいけど、なんで平民の肩を持つのよ。
っていうか、あのモブなによ。虫食ってるし、役立たずの味方するし!
本来ならジュノーは王子と仲悪いはずでしょ。なんで一緒に食事してるわけ?』
そうか、ジュノーたちは仲悪いはずだったのか。入学から高等部に上がるまで俺がどんだけ頑張ったと思っているんだ。
「あ、意外と食べれる」
おーい、ファロン。お前なんで俺の飯を食っている。昆虫食に興味を持つな。
「とにかく、意見の食い違いなどでもめることは仕方がない。
だがいじめを容認するつもりはない。気を付けて行動してくれ。
みんな、急に騒いで申し訳なかった。僕たちはこれで失礼するから、ゆっくり昼食を楽しんでくれ」
「わ、わたくしたちも失礼いたしますわー!」
女子3人組は走って逃げていき、ヘロイネはなんか言いたそうにメアリーをにらんで去っていった。
妹をいじめてたのはアイツで間違いはないな。つまりヒロインのサポートキャラは俺の妹の事だったのか。
俺と妹の周りにできていた人だかりは無くなり、静かになったのでメアリーに話かける。
「あの子が、メアリーの能力を知っていたんだね」
「……うん。でも、お兄ちゃんを見ても私のお兄ちゃんだって知らなかったみたい」
たぶん、俺はそのゲームには出ていなかったんだろう。
学年が違うし、それこそモブだからな。
「せっかくAクラスに入ったけど……、ほとんど勉強にならないの」
聖女候補のヘロイネを先生たちは優遇して、ご機嫌を取るためにメアリーはいないような扱いをするという。
「教員は中立が絶対なはずなんだけどなぁ……。じゃあ、Bクラスへ編入できないか聞いてみるか。
父さんたちもどうしてもAじゃなきゃダメってことは言わないだろうから」
「クラスが変わったら、ちゃんと勉強させてもらえるかな?」
「ああ、きっと大丈夫。しかし、メアリー……どうして大人しくいじめられていたんだい?」
「―――聖女候補に逆らうのは国への反逆を疑われるかもしれないって脅されて」
おーっと、いけない。学食のスプーンを曲げてしまった。
直しておけばばれないだろう。
「あくまで候補なんだろう。それになんでメアリーがイジメられなきゃならないんだ」
「……」
何か俺には言いにくい事なのか、黙ってしまった。
「メアリー、お兄ちゃんはお前の味方だ。ただ俺の協力が邪魔なら、遠くから見守るだけにするから
どうしてほしいか教えてくれ」
「うん……、ありがとう。言いたいこと、まだまとまらなくて……。
今晩までにまとめるから、待っててもらえる」
「ああ。待ってるよ、いつものように連絡してくれ」
俺は昼食を食べ、メアリーから離れた。
今晩、ちゃんと連絡くれるといいんだけどな…心配だ。




