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第8話「厳(いか)めしき天意(てんい)」

 天気のことは、天に任せましょう。


 人に任せていいのは、予報まで――



 今日は休みだ。


 朝早くに目覚めた保志宇宙ほしそらは、端末を引き寄せて天気予報を調べた。


《あなたの願い、まだ間に合います。この上の鳥居に、ロッグ、イ~~ン。♪~@〓‰Π~♪》


 どこかの宗教施設だろうか。

 何とも罰当たりなCM動画のあと、天気画面に繋がった。


お天気AI「本日は100%晴れ、しかも快晴です。」


 宇宙が窓から外を見ると、確かに雲一つ見当たらない。


 どこか、出かけてみようか。


お天気AI「お出かけには、傘を忘れないでください」


 えーと?


 皿を洗っていた紙コップが宇宙の方に振り返った。


未来茶碗「傘を持って出かける方が、楽しくなるよ」


 へえ……


 子どもの頃は、傘だとか、雨合羽だとか、長靴も何かのイベントみたいでウキウキ気分だったような気がする。

 ただ、その記憶って昔を懐かしんでいた記憶を想いかえしているだけで、情報が文字だけだったりする。


 ウキウキってどんなだっけ?


 一瞬、雨合羽に長靴で外出しようかとも思ったが、すぐに取りやめた。


 100%晴れだってのに、そんな恰好だと、通報されてしまうじゃないか。

 お天気AIが傘を忘れるなって言ってたし、傘なら、セーフ。


 これといった外出先を思いつかず、とりあえず近所をぐるりと散歩することにした宇宙は、寝巻の上にスプリングコートを羽織り、作業ズボンを履いてから玄関に向かった。


 傘がない。


 以前に持ち出したときに、どこかに置き忘れたか?


 最近、雨に降られたことがなかったため、宇宙の記憶に浮かんでこない。


 おい、未来茶碗。傘がないけど、知らないか?


 紙コップは、ダダンと派手に床を踏み鳴らして、歌舞伎のような大見得を切った


未来茶碗「転ばぬ先のぉ、あ、傘ァ~」


 ……シインビールから、良くない影響受けてんな?

 知らないのに、知ったかぶりしたり誤魔化すAIって、どうなのよ。


 無いものはしょうがない、宇宙は散歩に出かけた

 雨の日の用心にも、見かけたら買うことにしよう。




 道理で、道行く人が皆、傘をさしてたわけだ。


 光が上空から――いや、光る空がそのまま降りてきた。


ありがたくもとても眩しい何か「今日は快晴じゃて。わらわは気分が良い」


 すごく、まぶしいです。


ありがたくもとても眩しい何か「何か、望みはあるかえ?」


 もったいなくも、まぶしさを、その、下げていただけると……助かります。

 望みは以上です。

 お疲れさまでした。

 ……お天気AIめ。

 今日、出かけるなら、傘じゃなくて遮光グラスだろ。


 暴力的な光がおさまり、徐々に何かの輪郭が露になってきた。


 後光がさした、二本足の白い龍?

 お召しものは古風だけど、布も仕立ても滅茶苦茶高そう……


……直に見ても、いいのか?


 宇宙は不覚にも、そう感じてしまった。


ありがたい白龍の形をした何か「なんとも、奥ゆかしいことよの。それゆえ、20年ぶりに……200年ぶり? まあ、よいわ、一つ、兆しを与えよう」


 ありがたい方からいただけるものは、祓いか罰の類なのでは?


 良いものを授けていただけるような行いは、宇宙の記憶に一切ない。


ありがたい白龍の形をした何か「今回、授けるのは、良い兆しじゃ。案ずることは……たぶん、ない」


 たぶん、のあたりが……


 こちらの思考を読むタイプのAIか。

 下手に考えない方がよさそうだ。


 読むだけで、例のように、こちらに合わせてくれそうにない。


 何せよ、影響の少ないものだといいな。


シンビール「ハッ、危険察知。ガーディアンモ-ド移行!」


 マッハ0.8で飛ぶ護衛ピエロの形をした戦闘機が、宇宙とありがたい白龍の形をした何かの間に、空から舞い降りて割り込んできた。


 シインビール、お前さん、2連装ライフル以外に何を構えてるんだ?


ありがたい白龍の形をした何か「Ω――」


 ありがたい白龍の形をした何かが、特に思い入れもなさそうに文言を唱えるやいなや、いつもよりゴツゴツした格好の戦闘機は、少し先にあった川まであっさりと飛ばされていった。

 戦闘機は沈むことなくぷかぷか浮かび、下流へ流されていく。


 ぷかぷか? 浮かび?


ありがたい白龍の化身「業が深いゆえ、しずまるまで、沈むとこあたわぬ。これで、そなたの凝り、少しはましになろうて」


 ……まさか、AIを積んだ何か、じゃなくて……


ありがたい白龍の化身「わらわと付喪神つくもがみを一緒くたとは、なかなか剛毅な男じゃ」


 ありがたい白龍の化身は、心底愉快そうにカラカラと笑った。


ありがたい白龍の化身「もう、1000年……いや100年ほど時代が違えば、婿がねにと攫っておったかもしれぬのう」


 ……意味ありげに流し目をされても、困ります。


 ただの冗談だったのだろう。

 惜しむ気配もなく、さらば、とありがたい白龍の化身はふわりと浮かぶと、天高くまで去っていった。

 そのもったいなき御姿を見送りながら、宇宙は思った。


 ……傘、買おう。


 雨は降りませんが、

 あめが降る確率が100%――


 ただし、罰が怖いお天気AIは、

 話題にせずに視聴者への警告にとどめた。


 傘を、忘れるな――



 冒頭を地の文できちんと説明すると、こんな感じ。


 不穏ですねえ。(ニタニタ)



 天気予報、


 雨傘あまがさ天傘あまがさ……


 バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ。


 この話を描き上げたお陰か、目と肩の凝りは、取れた気がします。


 天に、感謝――

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