第9話「いかにもな茶飲み話」
夏も近づく
八十八夜。
八十八夜は、別れ霜――
《夏も近づく八十八夜》
《立春の2月初めから数えて、穀雨5月初めの頃》
《春から夏へ移り変わる、農作業の重要な節目なんだって》
保志宇宙は、それともなく眺めていたテレビをオフにした。
紙コップが宇宙の肩によじ登ってきた。
未来茶碗「春雨が降って、百穀を潤す!」
朝から、元気だね。
手に持っている紙垂の付いた竹竿は何だい?
紙コップは、竹竿を勇ましく素振りした。
未来茶碗「御幣を、こう振って、雨降れー」
水不足だもんね。
でもたぶん、肩に担いでから振り下ろすのは、違うと思うよ。
えーと……
暇なのかな?
たまには、ちゃんと使うか。
雨乞いをする紙コップをひっつかんでキッチンに向かったとき、ノックの音がした。
ドアを開けると、乾燥機がいた。
乾燥機「え~、お暑いのかお寒いのか、妙な按配でございまして。
暦をめくれば立春から数えて88日目。
世間じゃあ、八十八夜なんてえことを、申しますな。
この時期、水気は敵でございます」
紋付きを羽織ってなけりゃあ、普通の乾燥機だよな。
袴は、どうした?
乾燥機「夏も近づく~なんて歌にもある通り、この日を境に霜が降りなくなる。
農家の衆にとっては、さあ、いよいよ仕事だっていう、
いわばお天道様との、約束の日なんです」
無視かい。
何しに来たんだ、お前。
未来茶碗「おーい、隠居。
八十八夜だからってんで、
景気良く雨乞いの道具を担いで来ましたよ」
乗るのかよ……
乾燥機「これこれ、紙公。お茶の時期に雨を降らせてどうするんだ。
せっかくの茶摘みを、台無しにしようって了見かい?』
知り合いかな?
未来茶碗「雨が降れば茶もよく育つってもんで。
手に持ってるこの太鼓を、ドンドンっと鳴らせば、
雷様も勘違いして、お出ましになりますよ」
もしかして、太鼓ってその竹竿のこと?
シインビール「雨が欲しいんだね!」
戦闘機が散歩から戻ってきた。
で、お前が担いでいる40mm、どこから出した?
シインビール「雨を降らせるなら、僕に任せて。ファイア……」
何も、起こらなかった。
シインビール「湿気ってた……」
しょんぼりする戦闘機。
大砲を打つと雨が降るって、迷信だからな?
それより、砲口を俺に向けてたな?
乾燥機「!!! お任せください」
乾燥機が、大袈裟に紋付きを脱いだ。
乾燥機「リクエストはございますか?
標準/厚物(しっかり・念入り)/
おしゃれ着(ソフト・低温)/短時間(急ぎ・スピード)/
除菌(消臭)、
ほかにオプションをご要望であれば、荒茶乾燥も呼び出せます!」
『除菌(消臭)』かな。
乾燥機「喜んで!」
乾燥機は、有無を言わさず戦闘機を引っ掴んで、ごくりと飲み込んだ。
乾燥機の中でビカビカと雷のような光を発しながら、
戦闘機はものすごい勢いで回され始めた。
乾燥機「今日は八十八夜。徹底的にぃ、あ~ぁ、乾かしまするぅ~」
乾燥機はもろ手を挙げて見栄を切った。
えーと?
落語じゃなかったの?
未来茶碗「お茶の子さいさい、
お後がよろしいようで」
お前が落とすのかよ――
ふいに宇宙の顔に水滴がかかった。
雨だ。
宇宙は乾燥機を置いて、ドアを閉めた。
ちょいとお茶目な乾燥機でした。
「自分へのご褒美」か
「誰かへの贈り物」に、いかがでしょうか。




