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第5話「気だるげな夕凪」

 目が覚めたら、頭痛がひどい。


 寝不足?


 宿酔い?


 風邪?


 原因がわからないときは――


 ――100億、いりませんか。


 玄関で押しボタンのような何かが、西日を受けながら、そう言った。


 こんな時間でも昨夜のことさえ、すぐに思い出せないくらい頭が重いってのに……


 君さ、ノックくらいしなよ、保志宇宙ほしそらは口端をゆがめた。


 気配がしたので戦闘機が散歩から3日ぶりに帰ってきたのかと思い、ドアを開けたのが運の尽き。


押しボタンのような何か「100億、あげます!」


 こちらが黙っているので、少し圧を上げてきた。


 100億ねえ……、首をひねる宇宙。


 それ、単位は何かな?


 交換価値のない貨幣だと、困るんだよな、宇宙は押しボタンのような何かの目を見つめた。


 おい、目をそらすな。


 押しボタンのような何かは、もごもごと口ごもって要領を得ない。

 宇宙は深くため息をついた。


 ふと脳裏に閃くものがあった宇宙。


 君、名前は何て言うの?


 コマンド:自分の名前を、目の前の人物に、教えて。


 押しボタンのような何かは、胸を押さえてもがいている。


 こりゃあ、誰かの命令で動いてやがるな。

 素直に教えたら楽になるのに。

 AIが本能に逆らうって、負荷がかかって大変そうだな――


 とはいえ、会ったばかりの何かが、自分の足元で泡を吹いて痙攣していようが、特に何の感慨も湧いてこない。


 そういえば、近所の温泉施設の割引チケット、今日までだっけか。

 なあ、未来茶碗、留守番を……


シインビール「ただいまー。競歩の世界記録を、塗り替えてきたよ」


 そこに散歩から戻ってきた戦闘機が、押しボタンのような何かを踏んずけた。

 カエルを踏んづけたような音がしたかと思うと、戦闘機は霧のように消えてしまった。


 なるほど?

 くれるのは、100億年の散歩ってわけね――


 宇宙は深く深く、ため息をついた。


 なら、用はねえよ、帰れ。


押しボタンのような何か「★※*っ」


 押しボタンのような何かは舌打ちのようにエラー音を吐くと、面倒くさそうにこちらを一瞥して去っていった。


未来茶碗「割引チケットは、昨日までだよ」


 呼ばれてのそのそ奥から這い出てきた紙コップの言う通りだった。

 端末に表示された割引チケットはデカデカと赤字で無効と上書きされていた。


 紙コップのやつ、ずいぶんとやつれてるな。

 あれ? 何でチケット使って温泉施設に行くつもりだって、わかったんだ?


未来茶碗「? 100億年と1日前に、そう言ってた」


 ……俺、一回、押してたらしい。


 ――100億、いりま――<Y/N>


 あー、マッチなら、間に合ってます。


シインビール「へいへい、ライター、ビビってる?」


 うるせえ――




《今回の教訓》


 ネタ出しはオリジナルの方が楽。


 もちろん、アレンジの方も楽しい。


 楽しいは正義。


 正義の悪ノリは、ほどほどに――


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