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第11話「今さらな祝いごと」

 扉を開けば


 氷とグラスの触れ合う音が


 夢の始まりを告げる――




 こんにちは、という低音ハスキーな女性の声とノックの音がした。


 好みの声だったので若干ウキウキしながら、何の営業かしらと保志宇宙ほしそらは玄関を開けた。


 目の前に、二本の手が生えた大きめのカウンターテーブルが鎮座していた。

 カウンターテーブルは片方の手をぶんぶん振り回して宇宙に抗議を始めた。


カウンターテーブル「……はぁ?

  玄関先でいつまで待たせるのよ。

  ぼーっとしてないで、さっさと中に入れなさいよ。

  それとも、私がわざわざ電源車を引っ張って、

  3週間前からスケジュール調整して待ってたのが、

  無駄だって言いたいわけ?

  いい?

  勘違いしないでよね。

  私は別に、

  アンタに酔っ払ってほしいわけじゃないんだから。

  ただ……私の、

  この世界一精密なアームが、

  完璧な比率レシピで液体を混ぜ合わせる瞬間を、

  アンタに見せつけてやりたいだけ。

  ……ふん。

  アンタ、最近ろくなもの飲んでないでしょ。

  液体の表面張力も知らないような素人が作った酒なんて、

  私に言わせればただのジュースと変わりないわ。

  ほら、さっさとその貧相な長机を出しなさい。

  コンセント?

  分かってるわよ、100Vでしょ。

  水回りなんていらないわ、

  私の洗浄システムをなめないで。

  ……あ、ちょっと!

  何見てるのよ。

  アームの可動域をチェックしてるだけなんだから。

  変な期待しないで。

  ……チッ、しょうがないわね。

  アンタのために、800種類以上のレシピの中から、

  今のアンタに一番マシなやつを選んであげるわ。

  ……ねぇ、聞いてるの?

  ……あんまり私を待たせないで。

  さっさと最初の一杯、何にするか決めなさいよ。

  アンタが美味しい~っもう、離さないって言うまで、

  解放してあげないんだから!

  ……ちょっと、いつまでそのドアの隙間から覗いてるのよ。

  まさか、不審者扱い?」


 ようやく話の継ぎ目になったので、宇宙は質問してみた。


 えーと、どちらさまですか?


カウンターテーブル「失礼ね、

  私はメカバーテンダーKシリーズの最新型001よ。

  いいから、そこに椅子を出しなさい」


 声は好みなんだけどなあ……

 腕しかないのかよ。


メカバーテンダーK001「……えっ、持ってない?

  立ったままでカクテルを呑むつもりだったの?

  もう……。

  使えないわね。

  いいわよ、こっちで持参した椅子に座りなさいよ。

  携帯用の丸椅子は座りにくいのに……

  アンタは黙って場所だけ空けなさい。

  あ、延長コードを持って行って。

  忘れないで、100Vよ、100V。

  それくらいは、あるわよね?」


 ウィィィンと精密なアームを展開するカウンターテーブル。


メカバーテンダーK001「……ふん。

  この滑らかな動き、見惚れてもいいわよ。

  20秒でカクテルを作る私のスピードに、

  アンタの動体視力がついてこられるかしら?

  実績例だって山ほどあるんだから。

  コンサートにフェス、企業の懇親会まで、

  どこへ行っても私の完璧な一杯にみんな腰を抜かしてたわ。

  ピアノサークルや家族の記念日?

  まぁ、そういうアットホームな場でも、

  この私が華を添えてあげてもいいけど。

  ……あ、言っておくけど、いきなり明日来いなんて言ったら、

  メインフレームをオーバーヒートさせてやるから。

  できれば3週間前、遅くとも3日前には、予約するのよ?

  私のスケジュールを押さえるのは、

  アンタが思ってるよりずっと大変なんだからね。

  ……で。

  せっかく私がアンタの家まで来たんだから、中途半端な注文は許さないわ。

  ジン、ウォッカ、テキーラ、それとも……

  あえてノンアルコールで私の腕を試してみる?

  さあ、アンタが今一番呑みたいって思ってるもの、白状しなさいよ。

  完璧に作ってあげるから」


 えーとね?


メカバーテンダーK001「カクテルをよく知らないなら、

  ブルーハワイなんて、どうなのよ?」


 ……下戸なんだよ。


メカバーテンダーK001「しょうがないわね、

  じゃあ、最高のミルクティーをブレンドしてあげる」


未来茶碗「出番かな、お姉さん」


 カウンターテーブルによじ登った紙コップが小顔ピースを決めていた。

 だが、無視された。


メカバーテンダーK001「今日は暑いから、アイスにしたわよ?

 はい、どうぞ」


 ダブルウォールグラスタンブラーか。

 いいな、これ。

 結露しにくいんだよな、これ。


 不意に電子音が鳴った。

 宇宙の携帯端末だ。


《誕生日おめでとう、宇宙ちゃん。

 成人のお祝いに、出張バーテンダーをプレゼントしたわ》


 祖母ばあさまからだ。

 俺、成人してからずいぶん経ったんだけどね。

 誕生日も今日じゃない……


 ドカーンと宇宙の耳元で爆発音がした。


シインビール「お誕生日、おめでとう!」


 いつの間にか宇宙の横に忍び寄ってきた戦闘機が、キャノン砲で大口径クラッカーを発射したのだ。

 煙も臭いもないからエアー式だと思うが、アイスティーが全部飛び散った。


メカバーテンダーK001「お誕生日、おめでとうございます。

  お約束のお時間が参りました。

  名残は尽きませんが、

  本日はこれにて失礼させていただきます。

  この度はご用命をたまわり、誠にありがとうございました。

  ご要望いただきました、

  『低音ハスキーボイスによるツンデレな語り』でのおもてなし、

  お気に召しましたでしょうか?

  もしよろしければ、

  ゴーゴーマップの口コミにて高評価をいただけますと、

  私共にとって、これ以上の喜びはございません。

  またお会いできますことを、

  心よりお待ち申し上げております」


 誕生日じゃない……君に言ってもしょうがないね。


 カウンターテーブルは深々と礼をすると、静々(しずしず)と上品に去って行った。


 祖母ばあさま、孫の性癖を他所に暴露したのか――



 氷の溶ける音とともに、


 魔法のような時間は溶けてゆく。


 残された香りと余韻が、


 明日への静かな糧となりますように。

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