がまんしてたから。
インフルやっと熱が下がってきたので続きまで書いていたものを仕上げました。
続きはもう暫くお待ち頂けると幸いです。
【イフ視点】
昨夜取り掛かった仕事は、大した内容でもないのに量だけはあって、明るくなっても終わらず、俺は苛立ちながらも集中して書類に目を通していた。
苛立っていたのは別に書類の内容だけの話ではない。
やっとユキが元気になって俺の寝室で眠るというのに、一緒に寝室に向かうことが出来なかったこと。
そして寝室に引っ込む時のユキの顔が沈んでいた気がしたのも原因のひとつだと思う。
早朝ユキの鳴き声を聞いた気がしたが、顔を上げてもユキの姿はなかったから空耳だろうと結論づけた俺は、とっとと終わらせてユキの寝癖でも直してやろうと、また書類に視線を落とした。
どれくらいの間集中していただろうか、エイルがルイを連れて俺のところへ来たんだが、大分取り乱しているようだ。
水の守護精マナの補佐をしているルイが、ひょっこり俺の炎の館を訪ねて来た時、ちょうど俺の執務室に向かっていたエイルがルイと出くわして事情を聞いて、俺の部屋に飛び込んできた。
「イフ様っ!今すぐユキちゃんの服を出して来てください。というかやっぱりいいですっ。僕が出します!この際、イフ様の下着やらなんやらはスルーさせてもらうので今すぐ衣裳部屋の入室を許可してくださいっ!」
「……エイル。落ち着いて。」
「あ?いきなり何なんだ……?お前俺の説明が下手とか何とかいつも言ってるが、今回は逆だと思うんだが……。ユキなら寝室「いませんっ!」に……。は?」
まったく意味が分からない。
いない?
誰が?
ユキ?
……はぁ?
混乱しているとルイが一礼して俺の前に出た。
どうやらこの意味の分からない状況を説明してくれるらしい。助かった。
「現在ユキはマナ様と湯浴み中です。」
「………。」
「………。」
一瞬にして部屋の空気が凍りついた気がした。
「誰が?」
「ユキがです。」
「誰と?」
「マナ様とです。」
「……何をしてるって?」
「湯浴みです。」
しーんと静まり返った執務室でエイルだけが冷たい視線を向けてくる。
否、どうしてこうなったのか俺が聞きたいぞ。
というか、ルイの説明が突飛過ぎて余計に混乱してきた。
「あー。もう少し分かりやすく頼む……。」
「半刻ほど前に水の館の裏にある泉の淵でユキが泥だらけで真っ黒になって蹲っていました。どうやら誤って落ちてしまい必死に這い上がったからでしょう。マナ様のところへユキを連れて報告に行きました。マナ様はユキの汚れっぷりにいたく驚かれて、ユキを連れて洗面台で洗われていたのですが、あの獣の姿のユキは水は苦手だったようで、今は幼子の姿でマナ様と共に湯浴みをされておられます。ですからユキの服が必要です。」
こ、こいつ。
いつ息継ぎしたのか分からなかったぞ。
落ち着き無くその様子を見ていたエイルは、もういいだろうという勢いでさっきと同じようにせっついてきた。
「ですからイフ様。入室の許可をお願いします。」
「いや、いい。俺が行こう。エイル。処理し終わった書類を城に届けてくれ。」
俺は先ほどやっと終わった書類の束を指してエイルに伝えると、エイルは渋々頷いて書類を抱えて出て行った。
扉が閉まるのを確認してから寝室の奥の扉へ移動して、ユキの服を出す。
俺が整理したから場所は大体把握しているが、エイルが探せばきっと時間はかかっただろうな。
小さなユキの服と下着を準備してルイのいる部屋へ戻ると、数分前と同じ位置で綺麗な姿勢で立っているルイが目に入る。
ルイが手を差し出してきたが、俺は直接ルイと共に向かう気でいた。
「いや、いい。俺も行こう。」
「……はい。了解しました。」
ルイは何か物言いたげな雰囲気だったが、俺はマナと違って言葉にされないとなにを言いたいのか分からない。
水の館に入りマナの執務室へ行くと、まだそこにはユキの姿はなかった。
「……茶を頼む。」
「かしこまりました。」
ルイがティーセットのところへ向かうのを視界に入れながらソファーにどかりと座り、程なくしてルイが用意したものを飲みつつ今の状況を考えていると、マナがユキを腕に抱いて出てきた。
少しの間、ルイとのやり取りを見ていたが、ユキが俺に気づかないのが面白くなくてつい低い声が出てしまった。
「……ユキ。」
声をかけた途端にユキのしっぽがブアリと膨らんで、ギギギ…と音がしそうなほどゆっくりとユキは振り向く。
ルイが状況をユキに説明して、マナが黙って出てきたのかと質問すると、ユキの雰囲気が変わったような感じた。
……なんだ?
消え入りそうなユキの声に聞き返そうと思ったが、ユキの大きなチェリーピンクの瞳から大粒の涙が零れ落ちるのが見えた。
「…たにょっ。こえ、かけた、にょっ。いふ、ゆきにょ(の)こと、みて、くえ(くれ)にゃかったっ。ゆき、おしょと(お外)、いってきましゅって、いったにょっ。げんまん、まみょった……っっ。ゆき、わりゅくっ、にゃいにょっ。ふっ。ふぇぇ……っっ。」
必死に言葉を伝えようと震える声で訴えるユキに、俺はたまらない気持ちになった。
ああ……そうか。
今朝ユキの声が聞こえたのは気のせいではなかったんだ。
俺はユキとの時間を作りたくて頑張ったつもりでいたが、ユキも我慢してくれていたのだ。
昨夜、ユキと共に眠っていれば。
早朝、ユキの声に気づいていれば。
こんなにも小さく可愛いユキが、こんなにも顔を赤くして泣くこともなかったのだと気づいた。
俺は本当に言葉が足りないな……と、思っても後悔しても、今更なのだ。




